ハッピィエンドは楽しんだもん勝ち

鳥飼羽那

レイラ、身代わりです。

 
ぱたん、と日記を閉じた。

不思議だ、繰り返される世界の事や裏切り、絶望、果てには魔法だなんて突飛なものまで出てきたというのに、私はそれを以前から知っていたかのように落ち着いている。いや、それも当たり前なのかもしれない。
椅子から立ち上がり、近くの鏡台に目を向ける。深緑の長く綺麗な髪はゆるふわに巻かれており、金色の瞳のツリ目。キツい印象があるが、顔立ちは美人だし大人びている。顔も体つきも中々良く、十六歳とは思えない。
この鏡に映る美女が、レイラ。レイラ・フィルディリング令嬢。

「ふぅむ…」

何度も繰り返す時間の中で起こる出来事に耐えきれなくなったレイラが手を出した禁忌の魔法。日記に書かれていた詳細を見ると、それは身代わりを作る創造魔法らしかった。ただし、魔力量と他に、身代わりになる為の犠牲…要するに生贄が必要だったらしい。レイラは、自分自身を犠牲にして、この魔法を使った。

そうして、私がレイラとして、此処にいる。

……誤算があるとすれば、恐らくレイラは自分とは違う自分を作って、この世界から逃れるつもりだったんだと思う。然し、今の私は確かにレイラの記憶を全て引き継いでいるとはいえ、もうひとつ別の記憶が存在していた。

私は以前、日本という国で十六歳の女子高校生だった。
私の持つ最後の記憶は、学校の記憶だ。私が丁度誕生日を迎え、友達がお祝いしてくれた。その最中に、確かプレゼントに貰ったキーホルダーを窓から落としそうになって、思わず掴んだら、体が宙に浮いて……そこで記憶が途切れている。
要するに、私は間抜けにも、キーホルダーの為に死んだのだと思う。
だってプレゼントに貰ったキーホルダー、然も大好きな漫画『Funny Night World』に出てくるマスコットキャラクター、黒猫のマオの魔女モチーフ。余りに可愛すぎて写真を撮って「絶対に大切にするから!」って宣言したばっかだったから余計に手放したくなかったのだ。それで死んでしまったのだから莫迦だとは自分でも思うけど。
そして私は気付いたらレイラになっていて、レイラの残した日記と記憶から全てを知ったわけだ。

つまり私には、女子高校生だった記憶と、レイラの記憶が混合している。
日記の最後には「ごめんなさい」といった謝罪の言葉があった。繰り返す世界を放り投げて、私に全部押し付ける形になる事への謝罪だ。レイラの記憶がそう語っている。

……然しだからといって、どうしろというのか。

事情は理解した、けれど別に対応策は思い浮かばない。それもそうだ、繰り返す時間の中で既にレイラは幾つも試した後だ。思い浮かぶわけもない、あったら先に実行してる。
レイラは本当にこの世界から逃れたかっただけで、この世界をどうにかしてほしいわけではないのだ。出来たら繰り返す時間を元に戻して、というぐらいだろう。

正直に言おう、そんな事は微塵も興味ないしどうでもいい。

レイラの記憶があろうが何だろうが、私は元々十六歳の女子高校生。この時期の子どもの特徴って、誰しも経験あるだろうから判ると思う。

そう、私は遊び足りない。

遊び盛りなただの女子高生だ、しかも間抜けな理由で死んでしまったバカでアホなJKだ。本当なら夏休みとか文化祭とか、もっと楽しい時間を過ごす筈だったのに。
幸いなことに、このレイラも同じ十六歳。魔力のある者が通う学園に入学したばかりの女の子だ。何度も繰り返した時間の中では、確かに大変なものも多いが学校らしいイベントもある。
加えて、日本には無かった、魔力や魔法の存在。これほど好奇心をそそられるものはない。

ループする世界に来て、大変な役割を押し付けられた時の反応とは思えない程、私の胸は高鳴っていた。面白い事、楽しい事、私の知らない世界で、これからレイラとして過ごすこと。それを考えるだけで、わくわくが止まらないのだ。

ああ、レイラ!私は喜んで貴女の身代わりになるわ!元の世界に帰りたいような気もしなくないけど、この世界を見て遊びたい!貴女が逃げたいと思った世界で、私は貴女の身代わりになるから、

「私の好きにしたって、許してくれるよね!」

鏡に映る自分、レイラに向かってそう笑えば、同じように心底楽しそうな笑顔を返してくれた。



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