世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

山と海の悲哀8

それから次の日には『明日貴様を処刑する』と告げられた。
当然といえば当然だ、俺は死刑されて当然だ。
身体の自由が利かない俺は、エリーの事を考えていた。
あの世に行ったら俺を嫌いになってくれるのか、そうして俺と永遠に分かれることになるのか。
元々一度死んだ身だ。潔く命を捨てても構わない。
それが、異世界転生した俺の運命なら受け入れるしかない。










そう思っていたが、ふとエリーの肉を食べて不死になったあの小狡い男達のことを思い浮かべる。
あのような人間が、死なないで生き続けるというのはどういう意味なのか?
もし、あのような人間が溢れたら、この世界のエリーの同族たちはどうなってしまうのか。
永遠を生きる人間が、全員邪な考えと心を持っているのなら、きっと良くない結果しか残らない。
彼女…エリーがいつも言っていた『人助け』。
そう願っていた彼女を殺し、肉を食べて死ななくなった連中は、そんな思いも無視した化け物になるだろう。
それにこの中央都市は、何度も来たことがあるが何かが欠けている。
王族でも、騎士でも、貴族でも、庶民でも。彼らは何かがおかしい。
この世界が狂っているのは前から知っているつもりだったが、これからより一層狂いだしたらあの世にいるエリーは絶対に悲しむはずだ。
俺はそう思うと胸が裂けそうになった。
エリーが信じた世界を護りたい。
それと同時に、エリーを利用して殺した連中を必ず殺したい。
相反する感情と気持ちがぐちゃぐちゃになるのを感じながら俺は歯噛みする。

そんな、苦しみに苛立っていた時だった。

『カカカカ、大事な子を喪い、その尊厳を守って死ぬか。あるいはその意思を守るために殺せない人間を殺すか。何とも歯切れの悪い選択肢よな。これは、未来が無い上にあまりに退屈な道しかない』

声がどこから聞こえたのか分からなかった。
でも、そいつはいつの間にか牢屋の中、俺の目の前にいた。
俺よりも小さく、この国の人間ではないその風貌、髪の毛がない坊主頭の老人。
老人は俺が生きていた世界、日本の和服…着物を着ていた。
それだけでも、この世界の人物ではないのは分かるが、問題は何者なのかだ。

「あ、あんたは…?」

俺は腫れた顔で、目の前にいる老人に尋ねた。
老人は着いていた杖を一回鳴らしてから、語りだす。


「ワシは言うなれば人助けがしたい、ただの老いぼれよ」


そう、どうみても人助けなどが目的ではない邪悪そのものの笑みで老人は言った。

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