世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

山と海の悲哀6

俺が中央都市に辿り着いたのはそれから二週間後の事だった。
俺が辿り着いて最初に目にしたのは、中央都市の市場全体で人魚の生き血を高値で競売している醜い豚達の群れだった。

「その血を500万!」
「こっちは560万!」
「ふざけんな!なら600だ!」
「いくらでも払うからそいつを俺に寄こせ!」

市場から響く喧噪は熱を帯びており、その光景はまるで狂気という熱に浮かされたナニかでしかない。
俺はその血が誰のものかを知りたかった。
目の前で小狡そうな男が持っているコップ一杯分の瓶に入った血が、エリーのものか知りたかった。
いや、本当にそうなら、俺は彼女を助けないといけなかった。
俺がそう思っていた時に、小狡そうな男は汚らしくもよく響く声で壇上から競りに参加していた者達へとこう告げた。

「おいおい!こんなちっぽけな血で若返ってもつまらねぇとは思わねぇかあんた達!実を言うと、この血が今取れる人魚の最後の一杯なんだが、親分がサービスを利かせてもっと良いもんを品として用意してあるんだぜぇ!」

その言葉に、競りに参加していた者達の表情は訝し者を見るものへと変わる。
俺としては、嫌な予感がしていた。
今、あの男はもう血が最後の一杯と言ったのだ。
どういう意味の最後の一杯なのか、死ぬ寸前まで搾り取ったという意味なのかと。
でも、その次に出てきたものが俺の理性を破壊した。

「じゃじゃーん、本日ご用意したものは人魚の肉だ!もう血も取れなくなった人魚をバラシてそれぞれの部位に分けたもんだ!こいつの肉を食った奴が不死になって俺も食べたくらいだぜ!ほんの一つまみでもなれるんだから王様も王族の皆様も大臣もこぞって商品前に食べていたぜ!刺しても撃っても死なねぇんだぜこいつは!さぁさぁブロックで買う人は金貨を何千枚でも出して買いな!」

俺はまだ、動かないと決めていた。
でも、でも。
あの男が、部位ごとに分けたといって並べたバラバラの肉の中に、見覚えのある茶色い髪の毛があった。
暗い海でも良く見える茶色い綺麗な髪が、見覚えのある、見間違えるはずもない髪の毛が。
頭部と思われる、皮を剥がされて誰かも分からない顔をした頭部にまだついているその髪。
もう、見たくなかった。

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