世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

山と海の悲哀3

人魚の少女、名前は『エリー』と言うらしい。
 この世界では認知されていないが、海底で生活する人魚の種がいる。
 俺がいた村の近くではその人魚達の町があるらしく、彼らは人に見つかることなく長い間海中で生活しているらしい。
 少女はどうも素直で純粋な性格のようで、人魚が人間と分かり合えるような考えを持っているらしい。
 もっとも、その考えに至った経緯としてはある人間の老人と出会って、そいつから誰かを助けていくうちに分かると聞き、実際に海難事故や水難事故に遭った人々を誰にも気づかれずに救っていくうちにそのような考えに至ったらしい。
 もっとも、他の人魚からは理解されず、俺と出会う数時間前に王様だとかに人魚の町とやらから追い出されたようだった。
 近隣の海から放れるにしても怪物とやらがおり、とても人魚の少女が生活できる場所ではないのでどうしようか悩んでいるうちに、丁度俺が泳いでいたので話しかけようとしたが、その前に溺れたので浜辺まで連れて行って、意識を取り戻すまで待っていたらしい。
 そんなことを、深夜の砂浜で嬉々として語るエリー。
 俺は意識が戻ったばかりと、どっと体が疲れていたこと、あとは色々と頭の処理が追い付かないこともあって、それを聞いても適当に相槌を返していた。
 そんな俺の適当さに気づいたエリーは俺の顔を見て言った。

 「おじさん、何とかしてちょうだい!」
 「何とかってなんだよ、大体俺は内陸の商人だからあと二日後にはここを発つぞ。もし居場所を求めるのならここの村の連中に言えよ」
 「ここの村の人たち私の事怖がって捕まえようとしてくるんだもん」
 「だったら俺も同じようにするかもしれないだろうが!」
 「でもおじさん優しそうだよ、他の人間たちとは違う…あのおじいさんみたいに良い目をしてるもん」
 「優しかったらどうにか出来ると思ってるのかお前は」
 「あのおじいさんはそう言ってたよ、善行は必ず報われるって!」
 「多分意味が違うし、出来ないぞそんなの」

 俺はうんざりして立ち上がって村の方へと足を向けようとした。
 その足を、エリーが掴みよろけて倒れてしまう。
 砂浜に顔を突っ込んでしまった俺は口に入る砂を吐き出してエリーの方を見た。

 「何しやがるんだ!」
 「どうにかしてちょうだい!!何でもしてあげるから!!」
 「無理言うな!」
 「そこを何とか!!」
 「えぇい!!だったらそれ相応の事をしろ!!」
 「分かった!!」

 エリーはそう言うと、掴んでいた手を離して俺に言った。

 「明日の夜、同じ頃合いにここに来てください。そしたら私がいかに優秀でおじさんが認めるに相応しい子であるかを証明してあげましょう」
 「何で懇願する奴がそんな上から目線のセリフが吐けるんだ」

 俺は不満を口に出しながらも、とりあえずはそれに従うことにした。
 次の日の夜、同じ砂浜で俺は律義にもエリーを待っていた。
 いろいろと言いたいことがあるが、とりあえずどんなことで優秀さを表すのか気になったのだ。
 そして、待つこと数分後にエリーが海から上がってきた。
 月明かりだけの暗い海から出てくるエリーは、その両手に何か抱えていた。
 
 「おじさん!これでどうでしょうか!!」

 浜に這うように上がってきたエリーは俺の前で抱えていた何かをばら撒くように置いた。
 俺は何かと思って目を凝らして見てみる。
 浜にばら撒かれたように置かれた物、それらは月明かりを照り返して輝く黄金の杯や彫の深い精巧な置物だった。
 見ただけでも分かる値打ち物、それはこの国の王族や貴族が持っていなければおかしいほどの宝だ。
 俺が驚きながら、それらの宝を物色しているとエリーは聞いてきた。

 「ソレ全部海の底にあったんだ、私達はそれに興味ないけどおじさんたち人間はそれに興味あるでしょ?」
 「興味というか、この宝を売れば少しの間は暮しに困らなくなるな…でも限りがあるだろう?」
 「よく分かんないけど、ここら辺で昔人間同士で戦いがあったらしいから、海の底に同じようなのがまだまだたくさん沈んでいるよ」

 エリーがそう言うので俺は考えた。
 まだたくさん沈んでいのであればその宝は誰のものでもない、昔の話だろうから所有者はいないだろう。
これに俺は商売の匂いを感じた。
海の底の宝を使って俺は未来のビジョンを浮かべる。
 そして、俺は今も不安そうな目で見つめるエリーに頷いた。
 
 「良いだろう、俺が何とかしてやる。俺がお前のためにここで住めるように工面し、お前が俺の暮らしを支える。これでお互い良い関係になれるだろう」
 「やった!おじさんありがとう!」
 「あぁ、これからよろしく頼むぞエリー」

 頭の中で皮算用を終え、目の前で年相応の笑顔を振りまく人魚のエリーにお互いの関係を認めるように手を握った。

 エリーが海の底から宝を漁ってきて、俺がそれを売る。
 何とも奇妙な関係だったが、そんな関係も出会った日から数えて6年も経っていた。
 その間いろいろと問題もあった。
 どこから宝を手に入れたのか、どうやって海の底から宝を漁ったのかと、盗んだものじゃないだろうかと。売買の際に色々と疑惑を掛けられたが、それでも俺とエリーの関係はバレずに6年も経っていた。
 山に帰ることも少なくなり、俺はいつの間にか海辺の村に住むようになっていた。
 村の住人には最初の頃は色々と疑われたり、余所者ということもあって迫害紛いの事もされてきたが、財宝を売り払ったお金を分けた得ることによってそれらの事情はすべて払拭された。親しくなったりいろいろと困ったときに手伝ってくれるようにもなった。
 この6年で俺は色々と変わっていった。
 容姿も今までのボロ衣服ではなく、きちんとした絹の服へと変わり。今まで自力で運んでいた荷車も馬や御者に任せるようになった。
 生活も変わって人々からの視線も変わった。

 それでもエリーだけは6年前と同じような接し方をする。

「おじさん、なんかまた少し太ったんじゃないかな?」
「あぁ、少し祝い事の席で色々と堪能してしまってな」
「へー地上の料理ってそこまで美味しいの?主に肉とか野菜ばっかりなんでしょ?」
「魚だけは日持ちしないからな、新鮮なもんを食べるにはここに来ないとだめだな」
「なら今日はおいしそうな貝がたくさん獲れたからあげる!あ、あとついでにこの宝石も」
「宝石がメインだろうが、…まぁいい、ありがとうな」

海から顔を出して籠にたくさんの貝と宝石を渡す少女…いや、もう一人前の女。
出会った頃はまだ子供だったエリーもすでに大人だ。
 女性としての身体も、その容姿もすでに完成された芸術品のように美しい。
 俺でも少しまごついてしまう程に。

 だが、エリーは子供だ。
 それに情を持ってしまう事は、人としてどうかと思う。
 だからこそ俺はエリーを娘のように思っていた。
 それこそが、俺とエリーの関係で一番ふさわしいものだと考えていた。

 だからこそ、エリーが一線を越えてしまういけない感情を持っていることに俺は気づかなかった。

「世界を渡る私のストーリー」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く