世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

ある神話の世界8

ツヅリ達が影のところに攻めてから、もう1時間が経った頃に、こちら側から数名死傷者が出た。

「ハァハァ…ウォォォォォォーーーーー!!!」

彼らを庇うように天使の翼を広げながら剣と魔法を繰り出すミレーナにも疲れの色が見え始める。
私の無尽蔵の魔力も、もうすぐで底が尽きそうだ。

「ま、まだか!」
「もう、俺たちじゃ無理だ…!」
「し、死にたくない…!」

敗戦の色が濃くなって兵士たちにも同様の色が見え始める。
だが、迷うものあればただ真っ直ぐに敵を倒そうとする者もいる。

「いったれオラァ!」
「勇者なんざいなくても俺たちの実力はこんなところで腐るもんじゃねぇぞ!」
「頑張れ!デザルマハザル様達の努力を無駄にしてはいけない!!」

声を張り上げて決して倒れるはずのない魔獣達に果敢に攻める者達を見て、他の者達も諦めずに武器を握る。
まだ負けてはいない。
言葉にならずとも覚悟ある意思は彼らの闘志に再び火を灯す。

「みんな頑張って!あと少しだから!」

何の確証もない言葉。
神様であるのに、発言内容に何の効力もないのが歯がゆかった。
しかし、そんな私とは裏腹に彼らは頑張ってくれる。

「女神様の言う通りだ!頑張るぞ!」
「あと少しだ!あと少しなんだ!絶対に生き残るぞ!」
「踏ん張れ!!」

互いを奮い立たせる声が山彦のように連鎖し、さっきまで落ち込んでいた士気が徐々に回復していくのが目に見えて分かる。
そして、この戦場で1番の功労者であろうミレーナも同じように、減速していた剣を振るう速さが、少しばかりだが速くなっていた。

「ツヅリやみんなが頑張っているんだ…!世界最強の騎士としての意地を見せなくてはこの旅の意味がない。絶対に負けられないな!」

言いながらミレーナは剣と魔法を再び猛威として振るう。
その姿に他の者達も続いていく。
私もそうだ。
魔力が底をついたとしても、私は一歩も退かない。たとえツヅリ達や未来の私がいるとしても楽観視せず、彼らと共に最期を迎える覚悟があった。

私達の士気が元に戻り再び魔獣達に斬りかかろうとしていた時だった。
突然魔獣達の動きに変化があった。
最初は神である私でようやく気付ける微々たるものだったが、徐々に人々の目にも分かるくらいにそれは起きた。

「…魔獣の身体にヒビ?」

魔獣達の体の表面、その全てに少しずつヒビが走り始める。
衣服を着ている魔獣もその表面に同じようにヒビが走り、それは目に見えている魔獣達全てに起きていた。
そして、兵士の1人であるオークが棍棒を振るって魔獣の身体に当てる。
さっきまでの魔獣なら少し押されただけで倒されるほどの攻撃が、今ではその一撃のみで身体をバラバラになるまで破壊してしまう。
これにはオークはもちろん、全員唖然としてしまう。
どうしてこうなったのか、ここにいる全員がそれを謎にしてしまうほど馬鹿ではないのは私が1番知っている。

「…やってくれたんだ」

ポツリと、1人のエルフが呟いた一言で全員が瞬間的に目の前で起きた事象を起こしたであろう人物を連想する。
人物と言えど三名いるので思い浮かぶ名は各々違うだろうが、それでも彼らは歓声を上げる。

「やった!あの影が消えたんだ!」
「魔獣達も弱くなってる!」
「世界に光が戻ったんだ!!」
「喜ぶのは後だ、あの方々が戻ってくる前にさっさとここにいる魔獣ども全員始末するぞ!」

私達は雄叫びを上げて、弱体化していく魔獣達に猛勢をかける。
ヒビが入った魔獣達は己の弱体化に気付いていないのか、さっきまでと同じように攻めてきてくれた。
そのおかげで次々と倒されていき、ほぼ消えたも同然だった。
そして、数を減らしていく魔獣達に私達は確信を得た。
無限に増える魔獣達はもういない、と。

残りの魔獣達をほとんど倒し、後わずかのところでデザルマハザルに乗った2人が帰ってきた。

「全て終わりました。これでこの世界に光が戻ってきます」

デザルマハザルから降りたツヅリはそう言って私にあるものを渡してきた。
それは一つの巻物だ。
そして私が知る限り、この世界の物ではない材質で作られている。
この巻物がどういったものか分からない私はツヅリに聞いた。

「この巻物は一体?」
「あの影に全てを託した人が書いたもので、彼の理想が書かれた書物です。あの影の心臓部にあったので手に入れてきたんです」

ツヅリは私にそう言って笑顔で他のみんなとの会話に入りお互いに喜びを分かち合う。
私は彼女を見届けてから、1人でその巻物に目を通した。




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