世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

そこまで至りながら、至れなかった者達の後を引き継ぐ

異世界を渡って活躍した者達の思いと、幾重もの世界の悲劇の記録が詰まった思念体。
最初に始めた勇者が無限に内包出来ると思った思念体にも天井があった。

何も解決策もないまま、悲劇だけを詰め込んだ思念体。
ある世界にたどり着いた時にそれが許容量を超え破けた。
そこは、邪悪な皇帝として生まれ変わったサラリーマンが支配する世界。
彼は皇帝の家に転生したのを良い事に、権力を使って様々な種族の奴隷を侍らせ、治世などを大臣などに放り出す勝手な男だった。
破裂した思念体は、多くの世界で学んだ悲劇から学習し、知性を持ち始めていた。
そんな知性体が初めて見たのが、生き物が生き物を虐げて楽しそうに笑う姿だった。

思念体の中に積もらせた悲劇の中にはそんな記録が多く残っているが、目の当たりにしてしまうと誰でも違う感性でソレを見てしまう。

おそらく、好奇心もあってそれをずっと見ていたのだろう。その光景を見てまだ言葉も理解できない思念体は学習していった。
知性の芽生えた思念体は自ら魔法を練って自身の中に悲劇を入れ、そのまま次の世界へと勝手に向かってしまう。
この繰り返しを計十八回ほど行った思念体は肥大していき、最後に行き着いたのが今綴ちゃんがいる世界。

あの影は、最初の勇者が放った苦悩の塊に共感した者達の悲しみと願いで出来ている。
魔獣を無限に生み出すのも、悲劇から得た情報と多様な世界の魔力を回収し独自で合わせた混成のモノを使っているんだろうね。
あれは厄介というよりも、そもそも倒すのは無理がありそうだ。
封印が1番だろうねぇ…。




「…で、奴の行動原理は一体なんだ?単に生命を恨んでいるわけではないだろう」

影となった思念体がどう思っているのかは知らないが、私の言葉に直すとこうだな。

生命なんてものがあるから悲劇が生まれる、私と同じ考えと結論に至った者もいたが、そんな奴らも神や魔物といった生命の上位互換でしかない。そんな者達で何が解決できるのか、最初から命があるからいけない。だったら全てを無くせば良い、転生者達が願った思いと多くの悲劇を背負った我こそが理想の世界を創造するに相応しい。

だと思うね。

「なるほどな、人々の幸せの先に解決策が無いと知ってしまった故に滅ぼす考えに至ったか。浅はかな、自身が悲劇を起こしていては生みの親が嫌った悲劇に嘆くだろうに…」


私もそう思うね。
でも、綴ちゃんが相手にしているあの時の影はまだそう思っているだろうね。
だからこそ、君が手を貸したんだ。

「…なんの話だか分からぬな」

あの世界の未来はもう見えている。
それに現在進行形で劉巌がいる、あの人が世界を渡っている理由も私は知っている。
そして、あの影は復活を遂げている。
神の誰かが手を出さない限りは封印されるあの影を、神ですら欺いて何処かの大魔王が解き放ったのも知っている。
それでも…シラを切るつもりかな?

大魔王ミズキ。



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