世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

誰かが世界を救ったとしても、それで世界が元に戻るわけではない。仮に出来たとしてもそれは決められた設定で行われる演劇でしかない

異世界に行く者達に共通するものなど一つもない。
素質があるか無いかで選ばれるわけもない。
だからこそ、呼ばれた者がどんな結末を起こすのか分からず、確定していた未来ですら混沌としてしまう。

言うなれば一枚のキャンパスに絵を描き終えた後に、作者でも無い他人が勝手に絵を描くか描かないかで絵画の価値が決まる様なものだね。
異世界に呼ばれるというのは、世界がその先で成功させる様なものを1人の人間が失敗に変えてしまう、そんなリスクを含んでいる。
 もし成功する未来に行くとしても、さっきの例え話に続ける形で『描いて良い結果が出るか悪い結果が出るか』に至ってしまう。


「…世界を救った勇者が魔王になるのと同じか、異界より呼ばれた者がその世界を破壊するなぞ、嫌な皮肉とはまさにこれのことだな」

そうだね。
でも私はそんな物語も好きだ。
素晴らしい絵画ばかりで喜劇だけの世界など、それこそ陰陽の関係も無くて壊れているからね。

さて…。
異世界に行った者達が『完成した絵画に付け加えて、良い結果が出るか悪い結果が出るか』を実践してきた。その結果は当たり前だが五分五分で、幾重に積み重なって行く。
人の数だけ物語があるのと同じ様に、人の中に数千倍の物語があるのと同じ、知性体の夢想は尽きない。
1人の人間の結果に良し悪しを付ける人はそれこそ想像の遥か上の数だ。


悪い結果とは何か、良い結果が彼らのおかげで笑顔になる者達の評価なら、悪い結果はそれによって追い込まれた者達だ。

勇者が魔王を倒す世界の悲劇の欠けら。
あの闇の集合体である悲劇の欠けらの比重が他の世界からのものと比べて特に濃い。
勇者が倒す悪の怨念が主だが、それ以外にも理由はある。

君は大魔王になる前は乙女ゲーしかやってないけど、RPGをやっていると色々な…。

「貴様、私の私生活を覗いたのか…今すぐその記憶を消せ…私の過去を見るな…」

おっと、これは失敬。
つい口が滑っちゃった☆
っておいおい、殺さないでくれよ頼むから忘れるからさ!

「……!」

そんな怒らなくても…私の目がなんでも見通すの知ってるんだから諦めなよ…。

「もしもう一度覗けば殺すからな」

あぁん!
これ本気の目だよ!!
もうこれはふざけてはいけないって言う事かなー?

「……」

事ですねーはい!
もうしません!!

「…で、RPGが何だって?」

…ホ、話を戻してくれて助かる。
んでだ、RPGのストーリ上ではいろんな不幸が世界で起きている。
村や町を魔王に滅ぼされた。
大切な人を魔物に殺された。
何もしていないのに殺された
住む場所を奪われた。
飢餓で人も魔物も死んだ土地。

ゲーム内で起きた異変の元凶はもちろん魔王だ。
その悪を倒し、人々の平和を守るのがプレイヤーの操る勇者で道中様々な人と出会い、敵を倒していくもの。
中には魔王ではなく神を倒す物語もあるが、話は同じで勇者がいるという事だ。

勇者は世界を救い物語は閉じる。
それがゲームの結末、私はクリア後もやりこむけどその後も隠しラスボスとかいろんな敵がいてやり甲斐があるね。
でも、異世界はゲームじゃない。

無機質な文章を並べたウィンドウと音声が無いゲームには無い、本当の悲劇が勇者を必要としている世界には満ちている。
異世界に召喚された勇者達は全員それを何としても解決したくて仕方ない一心で悪に立ち向かう。
中には途中で挫折して逃げる者もいるが、それでも勇者に選ばれた気質で悪になる事もない。
そう、その世界にとっては勇者は象徴で、生きる糧になり得る存在。それ故に、無念のうちに死んだ者達は勇者に救われなかった自分達を嘆く。

「救われなかった自分を見て悲しみ、それが世界に積もったからこそ比重が多くなったという事か」


それだけじゃない。
それがどうして一箇所に集まれたのか君は分かるか。

「それはさっき言ったではないか、異世界へ続く道が開きすぎていると。そこから自然と出たのだろ」

自然…ね、そうだったら私はここまであの影に哀れんではいない。
悲劇の物語の結集体であるアレにはね。

「…まさか、アレも?」

あぁ、先ほど同じく言ったが転生者や転移者の影響が濃い。
あれが欠けらになって世界を渡ったのは、その世界で活躍した外部の人間が望んでしまったからだろうね。


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