世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

ある神話の世界2

「世界の混沌と中立を見守りし者、女神ペルノマリアが命じる、全ての厄を振りまく者にし、正しき心と魂を持つ者よ、ペルノマリアの元に輝きを失わない黄金の身を現し、世界を救うその力を振るいたまえ」

「グォォォオォォォォォーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

召喚の詠唱が終わるのと同時に、私の目の前には翼をはためかせ、神秘を纏った黄金に輝くドラゴンが現れた。
馴染み深いその姿、かつて多くの戦神と共に悪と戦った伝説のドラゴン。
名をデザルマハザルと言ったか。

「グルルルル…って、ペルノマリアではないか!懐かしいな、どうした急に我輩を呼んで」

「この世界に危機が起きている。今すぐ下界に行ってその炎であの影を消してほしい」

「…ほぉ、どうやら一大事のようだな」

黄金のドラゴンが覗く下界では本当に大変なことが起きていた。
奴らが侵攻し、リザードマンの集落の他にも多種族の集落を襲い、森も木々も連れている魔獣の影響で枯れて死の土地に変わり、川も汚染され生命が何ひとつとしていなくなった。
命を刈り取り、全てを無に還す。
その光景は神である彼らですら息を呑むほどであった。

「これは酷い…あの黒い影が親玉のようだが、あれは一体なんだ?」

「世界の悲劇の欠けらが集まったやつって言っていたけど、それ以外は分からない」

「つまり異分子、下手すれば他の世界に迷惑を掛けるか…あるいは侵略を始めるかか…」

デザルマハザルは唸りながら行く末を語る。

「そうさせたくない…いいえ、そうさせないためにあなたを呼んだ」

そう、私がこの黄金の体を纏うデザルマハザルを呼んだのには理由がある。
デザルマハザルの吐く炎には敵対者ならどんな神も上位の存在も焼き尽くす効力がある。そして黄金の身体はどんな邪悪な攻撃にも耐える神秘を纏わせていた。
違う世界の数千の神族戦争にデザルマハザルは参戦し、ほとんどの戦いで功績を挙げた功労者であった。
その彼を呼んだからには、この世界で起きる邪悪に対抗してもらえるだけの力がある。
私はそう見込んでデザルマハザルを呼んだ。

もちろん、デザルマハザルも断ることもなく世の理に従って悪を殲滅する戦いに参加した。

下界に降りてもらったデザルマハザルの吐き出した炎は、増殖していく凶悪な魔獣達を焼き、邪悪に対抗する人々に力を与えた。

「おぉ!神の使いだ!」
「我々に味方してくれるぞ!」

多様な種族は他の種族と関係構築などを築くのをあまりしていなかったが、闇と魔獣の侵攻で自分たちの住む場所をどんどん追いやられてしまい、生き残るために結託して戦っていた。
そしてデザルマハザルの参戦により、知性ある種族は亜人も残らず協力し合い、凶悪な魔獣との戦いに勇気を奮い立たせて立ち向かっていく。

デザルマハザルのおかげで劣勢だった彼らは魔獣達を次々と倒し、どんどん押し返していく。

私には祈ることしか出来ず、自身の無力さに苛立ってしまうが、それでもこの状況を見守る。

変化が起きたのはデザルマハザル参戦が始まって2月が経った頃。
未だに倒せない巨悪に黄金の竜も苛立ちを覚えるが、それと同時に魔獣どもの中で変化が起きる。

死霊術師、死人を操る魔獣が突然味方の魔獣を殺し始めた。
デザルマハザルと魔獣達の戦いの最中に起きたことで、その様子にデザルマハザルも人々も唖然としてしまったらしい。
殺す、というよりは操って従わせようとしている風に見えたらしい。
死霊術師だけではない、他の魔獣も強力な力を持つ者から順に味方への攻撃を始めていく。

デザルマハザル達が何もしないうちに、あれだけたくさんいた魔獣も目で見て数えられる数にまで減ってしまった。

「なに…いったい何が起きているの?」

私の呟きが聞こえているわけがないのに、影は声高く宣誓する。

【生命を殺すことに何の抵抗も無い彼らこそ我が僕に相応しい存在、神の獣だのと言った力だけの存在など、我が僕で十分に殺せるであろう】

「ほざくな害獣が、貴様ら闇の眷属どもに我輩が倒せるわけがない!身の程を知れ!!」

デザルマハザルは影の言ったことに憤り、さらなる火焔を吐いて残った魔獣達を燃やそうとする。
しかし、魔獣達はその炎に焼かれながらも身体が滅びることなく動く、そして人々に襲いかかりデザルマハザルを無視した殺戮を始めていく。

「や、やめて…!」
「ひぃぃぃ!」
「何で刺しても死な…ぐぉ!?」

人々の手に持つ武器で傷すら1つ付かない魔獣達は、そのまま多種族の連合軍を総崩しにする。

「ぬぅ!?なぜだ!!」

火焔を吐き続けながらデザルマハザルは焦る。聖なる者、正しき心を持つ者以外ならば肉体も魂も焼き尽くす制裁の炎を浴びながら、明らかに燃えている身体で滅びることもなく動く魔獣達。それは神すら焼死させたデザルマハザルですら予想も出来なかった光景だった。

【滅べ、滅べ、滅べ。神獣など目に掛けることもなく命を殺せ!我が力と悲しみを持って殺せ!】

「やめろ!これ以上この世界の生き物を殺すな!」

【殺せ、殺せ、殺せ。いずれ神獣すら屠る力を持つまで殺し続けろ、我が保証する、貴様らは世界を変える存在になる】

影は聞く耳持たず、生命を次々と殺していく。
デザルマハザルに出来ることなど、少しでも多くこの戦場から逃すことくらいで、黄金の竜としてのプライドなどこの時にはすでに討ち滅ぼされていたのかも知れない。

戦況は劣勢に変わり、前よりも侵攻のスピードが上がってしまい、多くの種族はもう一箇所に集まるしか他なかった。
彼らは協力して作った大きな壁で囲うように国を作り、中で生活をしながらそこから毎日のように攻撃を仕掛ける魔獣に対抗していた。
最後の拠点でデザルマハザルは地上に降りていた私に言った。

「…ペルノマリア、この世界はもう長くは持たん」

「えぇ、分かっています。でも…私は最後まで彼らと共にします」

「ふん、流石は優しき世界の女神よ。他の世界の女神なら我先に異世界に逃げるというのに、お主は本当に愛を持ってやるのだな…」

「私はそんなたいそれた女神じゃないです。私はあの影を見逃してしまったんです…その結果がこれです。私はあれを滅ぼす義務があります」

「…自身の存在と共に世界を消すか」

「あれはそうでもしなければいけない存在です、他の世界に逃げられてしまえば、他の神々もあれの餌食になります」

私の決意は決まっていた。
あれは私が止める、この命と引き換えに。
だがデザルマハザルは笑って首を振る。

「いかんな…黄金の戦竜である我輩が、こんな華奢な女神の決意よりも揺らいでいては」

「デザルマハザル?」

「…我輩も最後まで残ろう。この戦いに負けて逃げれば永遠の汚名となってしまうからな、よろしく頼むぞペルノマリア」

デザルマハザルは真紅の目で私を見つめる。
私はそれに感謝して、空を見上げる。
空は暗く、壁から覗ける少し先ではもはや暗黒へと変わりつつあった。
もう時間はない、そして対応策もない。
私はこれから起きるであろう悲劇を思い、胸が苦しくなる。

と、そんな時だった。

『聞こえますか?過去の私』


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