世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

英雄紛いの偽物27


《劉巌》

私を生き返らせ、世界を変えるために私に魔剣をくれた恩人。
数百年ぶりに会う、私に力をくれた老人がそこにいた。
奴は柱の上で立ちながらこちらを見下ろしている。
私は何も言えずにヤツを見ていると、奴はその視線を察したように私の目を見入るように見下ろす。
その見方は、なぜか人を見る目ではない。

「久しぶりじゃのう、この世界で最も邪魔な存在よ…いや、もう用済みのゴミ屑か?」

言い方もおかしい、初めて会った時のそれではない。まるで私を必要もないと言っているかのようだ。

「あ、あの…私は彼女達に負けたんです、あなたとの約束とは違いますが、私はあの人に会え」

「ダメじゃよ、約束破ったんじゃから全然ダメじゃよ? ゴミ屑が、調子に乗るな。ワシが言ったのは女神の力が無くなって世界が滅ぶまでやる事、お前は最後まで出来なかった、その上運良く小娘と会ってしまった。これ以上の醜態はあるか?」

「そんな…だったら私はこの人たちと」

「それも許さん」

一瞬だった。
柱から此処まで、瞬きをするよりも早く移動したヤツは私の胸に手を。

「やらせるわけないでしょ!」

刺す前に、ツヅリが胸に伸びた手を掴んで止める。ヤツもこれには舌打ちして今度は口を開けた。
口は普通なら広げられない大きさまで開き、私はもちろんミレーナ毎丸飲みする気だった。
だがその前にツヅリが私達に何かをしたのか、少し離れた所にいつの間にか飛ばされていた。
まだ目に見える範囲の距離だったので私は此処から彼らの行動を見る。

「…化け物ね」

「カカカカカ!これが化け物に見えるか小娘よ!!我が神の威光と祝福を受けし我が身!!…いや、ワシならそんな馬鹿げた名分を語らんな、ワシはただジッとするだけ」

一瞬だったが、ヤツは何か魔獣のような姿に変身していた。
しかし、その姿は瞬きもしていないのに何故か元の老人の姿に戻っていた。
見間違いだったのか未だに私を抱えているミレーナの方を向く、彼女も見間違いだったのか私の方も向いてきた。

「今のは…」

「わからん……しかし、あの姿は一体…」

ツヅリとヤツは間合いを開け、お互い行動を注視する。
さっきまでのツヅリとは違う、あの顔は明らかに焦りがあった。
それがヤツの異常さを際立たせる。

「いきなり襲いかかって始末するなんて、中々に外道極めてるわね」

「ほほほ、約束とは大切という意味合いを込めたものじゃよ。ワシに外道は極められないし、そもそも似合わん」

「へー」

「計画が終わり次第、彼奴がいる世界を見せてから消そうと考えておったが」

「やっぱり外道じゃない」

ツヅリは短く魔法を唱える。
老人の地面が割れ、そこから炎が飛び出す。
炎は問答無用に老人を包み込み、轟々と放射熱を放つ。しかし、炎の中から涼しい声が続く。

「外道外道と…いつだって人は自身の理想と違う者には非人間の烙印を押す。問答無用で本当に哀れな生き物よ」

「その人間の姿をしたあんたが言うと矛盾でしかないけど」

「左様、だからこそワシは人を超えた」

「で、あんたさっき私を小娘と言ったけど、アンタは私を知っているの?」

「さよう、お主は我が神の加護を受けて元の世界から飛んだ者じゃからな」

あっさりと、ツヅリに言ったその言葉の意味が私にはわからなかった。
しかし、此処から見えるツヅリの顔から察した。
彼女は驚いている。

「…は?」

「いやはや元々こっちに呼ぶはずだったのが、どういうわけかお主はあの世界に引き込まれてしもうての。ワシは気にするなと言っておったが、どうも我が神は……」

炎の中からゆらりと身体どころか服も燃えることもなく出て来たヤツは、ゆっくりと歩きながらツヅリに向かう。
だが、最後までそれが達することはなかった。

「ハルド・ファス」

何処からともなく聞こえた声の後に、いつの間にかヤツの身体を縛るように鎖が現れる。
雁字搦めに、ぐるぐる巻きになったヤツに今度は目の前の空間が裂け、そこから禍々しい手が伸びる。

「ハルド・ガン」

さっきと同じ声、そして終わりと同時にヤツの目の前で広げられた禍々しい手から聞いたこともない怪音を発して黒い閃光が迸る。

kyuxaxexaxaxaxaxaーーーーー。

何が起きたのか私には理解できない。
早すぎて目を瞑るのも遅れたうえ、怪音のせいか目と耳が使えない。
何も見えない聞こえない中で、私は誰かの声を聞いた。

『ーー聞こえるか?虫ケラに唆されし魔王よ』

ーそれは私のこと?ー

『そうだ』

ー…否定はしないわ、あんなのに騙されていたんだもの…それよりもあいつは!?ー

『虫ケラは我が術で‪一時‬的に縛っておる。しかし、アレは反省もせずに術から出るだろうが』

ーあれは貴方なのね…それよりもあなたはだれ?ー

『我が名は大魔王、こことは異なる世界を統べし者。汝のことは遠い世界より見守っていた、あのウジ虫の監視のついでにだ』

ー見守っていた?しかも異なる世界の大魔王ってー

『その説明は無視させてもらう。もう我が領域を維持する時間もないから、手短に言っておく』

ーどういうこー

『汝はツヅリの短刀として共に世界を超える旅に着いて行け、ミレーナもいるが、あやつでは心許ない場面が多いからな。汝がいれば少しは安心だ』

ーそりゃ行くわよ、私もあの人に会いたいんだものー

『それは安心だ。だが慢心するでないぞ、ここから先の道は世界の果てよりも長い…それでも進むか?』

ー覚悟している、私は…あの人の為ならどんな苦しみも受けていいー

『…そうか、ではこれをお前に渡しておこう』

声がそういうと、私の手に何かを握らせた。
小さい麻袋に何かが入ったもの、握る感覚で中に入っているのは固形物で、いくつも入っているのが分かった。

ーこれは?ー

握ったそれに疑問を抱く私に声は言った。

『餞別…と言いたいところだが、元々は彼女に渡す物で、我の魔法道具の中でも4番目に上手く作れた品だ。直接会うと留守中にあの虫ケラに居を突かれそうで行けなかったが』

ーえぇと…ー

『詳しい説明と名は…ッチ!』

小さい舌打ちが聞こえた後にブツリと声が途切れた。
突然聞こえなくなった声に耳を澄ましてみるが、それでも何も聞こえない。
数分後、目と耳が元に戻り辺りの瓦礫を見回すが、私のことを未だに守ろうとしているミレーナとバグで汚くなった空を見上げるツヅリ以外に人はおらず、ヤツはもちろんヤツを縛ったという声の人物もこの場にはいなかった。

あれは一体なんだったのか…。
私は不思議に思い、手に握っていた小さい袋の中身を見た。その中に入っていたのは丸くて黒い、薬丸のようなもの。それが何粒も…いや、見た目とは裏腹に沢山入っている気がした。

「…一体なんだったのだ今のは…って、それどうした?」

「え、さっきヤツを止めた人がここに来て」

「なんだと?私には何も感じなかったぞ」

そんな事があるのか。
そう言い掛ける前に、僅かな振動を感じて止まる。

「なに?」

僅かな振動はどんどん大きくなっていき、グラグラと大地が揺さぶられる。何かが崩れる地鳴りも起きて、周りの風景がブレ始める。

「な、何だ一体!?何かが起きるのか!?」

ミレーナが半狂乱に叫ぶ。
私は怖くなって彼女の腕に抱きつくが、彼女もいきなりの事でどうすれば良いのか迷っている。

「まずい、早く次に行かないと!」

ツヅリは急いで不思議な紋様の浮かぶ紙切れを使って不思議な通路を作り出した。
それは遠目から見ても何処へ続くか分からないもので、私はそれが怖い。
でも、その道の先に多分あの人がいるかもしれない世界があるのが分かった。

「よし、よく分からないが行こう!私にしっかり掴まれ!」

ミレーナはそれを見ると私を連れて急いでその不思議な通路に向かう。
だがその前に。

「あ、おい何処に行く!?」

私はミレーナから離れて、負傷して動けないはずの体を無理やり動かして大切な物を取りに行く。
魔剣【エイイチ】
彼の名前が彫られた永遠を一緒に過ごした愛剣。
あれが無ければ、私は何処にも行けない。
激しく揺れ動く地面の中、私は瓦礫の上でカタカタと揺れる【エイイチ】をすぐに見つけた。
私はそれを手に取ると振り返って元来た道を向く。
だがミレーナとツヅリのいる場所までの道が割れて、大きな穴を開けていた。
それを見て焦りを覚えるが、私は急いで魔剣を強く握り、私がしたいことを告げる。

「あそこまで跳べる力を」

そう魔剣に念じ、魔剣からの力を得て跳躍を行う。
いつもと同じ感覚だが、今は頼もしい。
着地してからすぐに颯爽と走り、急いでツヅリ達がいた場所に戻る。
開いた穴の中で待機していた2人の元まで向かうと、彼女達に引っ張られるように私もその中に入る。

ゼェゼェと荒い息を吐いてから私は元いた世界を見た。

世界の大地は沈み、空は黒く染まる。
不毛の大地である南の大陸はみるみるうちに消えていき、最後は色が付くものが全てかすれるように消えてしまう。
リセットも何も起こらない世界。
直ることもなく消える。
それが何を示すのか、私にも何となく察しがついた。

「これは…世界が滅んだのか?」

私の思った事をミレーナは口に出した。
ツヅリは悔しそうな顔で消えた世界を見ていた。

「…この世界が消えたってことは、世界を統べる神が死んだってことになる。それが出来るのなんてさっきのヤツ以外にいないわね」

「あの神が死んだというのか?」

「死んだ…と言うよりも食べたのかもね。さっきの姿のこともあるだろうし」

「…ヤツは何者なんだ?」

ミレーナは私の方を見るが、私もヤツが神を食う事ができるなんて知らなかったので首を横に振る。
そもそも、本当に何者なのだあの老人は。
私に力を渡した以外に知っていることは名前くらいで、他の事など最初に私を殺した以外はさっき見た桁外れの力しか分からない。
1番の疑問は私を利用した理由が分からないことだ。
神を食べた、もしくは殺したと言っていたが、最初からそうしておけばこの世界はとうの昔に滅んでいたはずなのに私を利用して地道に世界を滅ぼそうとしたこと。
なぜ、そんな事をしたのか、私には分からない。

そう思って呆然としていたが、手に握っていた小袋を思い出した。
声の人物が何も見えない中で渡したこれには何なのか、私はツヅリの方を向いて袋を渡す。
ツヅリはこれが何か聞いてきたので「大魔王という人があなたに渡してくれと言っていた」と言うと彼女はさっきまでの悔しそうな顔からすぐに懐かしい人を想う、そんな優しい顔に変わってすぐに袋の中身を見た。

「これは…そっか、あの人ってばわざわざコレを届けにここまで来たんだ。本当に変なの作る人だな」

「ツヅリ、大魔王って確か前に話していた…」

「うん、最初の世界で私に切符をくれた人。あの人も世界を渡ることができることにも驚きだけど、まさかこれを届けに来ただけとはね」

「ではあの老人を何処かに消したのも」

「ついで…だと思うな。アレは多分死なないし、消えないと思う。今の私じゃアレにやられてたかも」

「大魔王って人は縛っておくと言ってましたので大丈夫かと」

私がそう言うと心配そうな顔になったが、ツヅリ自信その大魔王に何かを信じているのかそれも一瞬で消えた。
信じている、それは私が長い間胸の中で想い続けた力で、世界を変えるほどの何かを備えているもの。それがあるからこそ、彼女は強いのかと私は思ってしまう。
これが勇者であったあの人が探していた人物なのが羨ましいが、私も負けてはいられない。
この先に続く道は暗く、不思議な空間で内心怖くて仕方がない。
でも私は変わった。
随分昔に変わったが、それでも変わっていく。
あの人を求めるだけじゃない、あの人が本当に幸せな笑顔で過ごす世界で、1番になれなくても良い理想。あの人さえいれば世界なんてどうでも良い。
思い入れのない崩壊した世界を背に、私は彼女たちに言った。

「ツヅリさん、ミレーナさん、さっきは助けてくれてありがとう」

「えぇ…っと魔王じゃなくて、名前はリアンで合ってるわよね?」

「うん、私はリアン。これから一緒に着いて行くから、足手まといにならないよう頑張るよ」

「そうしてくれると助かる。私1人では危うい場面も多かったし、戦力が増えて心強い。おっと、私はミレーナという、これからもよろしく頼むぞ」

「私はツヅリ、長い旅になるだろうけどこれからもよろしくね」

彼女達はさっきと同じように手を伸ばす。
さっきも握った手とミレーナの強そうな手に私は両手を出して握った。

そうして後は何も言わず、彼女達に連れて行かれるように道の先に進む。
こうして私はあの人を探す旅に出た。
あの人の名前が彫られた魔剣と共に。




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