世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

英雄紛いの偽物9

目が醒めると、私はさっきの森の中で寝ていた。
…いや、さっきとは違う。
老人との戦闘でこの辺り一帯の木々は全て折れたり燃えたりして無くなっている。
地面も凸凹に穴が空いたり割れたりていたはずだ。
それなのにこの森はさっきとは違う。
なぜか元どおりになっている。

それを疑問に思う前に、私の目の前に奴が現れた。
さっきの老人だ。
私はさっきの恐怖を思い出し、急いで体のあちこちを触る。どこも異常がない、それどころか怪我が一切無くなっている。
おかしい、なぜだ?
恐怖や疑問が湧き出し、頭の中が混乱している中でヤツはお構いなく話しかけてくる。

「死んだ後に生き返った気分はどうじゃ?」

第一声からそんな事を聞いてくる。
私としては最悪と答えたくなるが、それよりも聞きたいことがあった。

「みんなはどこ! どこへやったの!!」
「カカ、どこへ行ったかと言われても、最初の場所に戻っただけじゃよ」
「なにその嘘!さっきあなたに殺されていたじゃない!!私もみんなも…!」
「カカカカカ!それは確かに起こった事象、本当の事じゃったが、今ではなかったことになったわ」
「……は?」

やつが高笑いして言ったことが理解出来ない。
それどころか、なぜ生き返ったのかも私には分からない。

「鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしておるが、これは事実であり、世界はお主の過ごしてきた時間より前に改変されたんじゃよ」
「え、どういう事!?な、何がなんなの!?」
「それを説明するにはまず最初にこいつを見てからじゃな」

そう言ってヤツはいつの間にか手にしていた杖をカツンと地面に打つ。
それだけで空間やこの辺り一帯の時間が止まった。

「結界じゃよ、そう驚かんでいい」
「で、でもこれって…」
「この世界では珍しいものじゃろうが、、ワシには造作もないことよ。それよりもほれ、こいつを見ろ」

そう言って暗い森の中、ヤツは何もない場所にあるものを映し出す。
そこはとても綺麗な場所で、光り輝くような部屋が写し出されていた。
これはどこか別の場所を投影しているのか、私はその魔術だか魔法だかも分からないそれに目を釘付けになる。
光り輝く部屋にはいくつもの見たこともない黒い薄い板があり、白と黒の両方が存在するそこに私は違和感を感じた。

何だろう…と思っていると、白い部屋の奥にあったドアが開いて、そこから綺麗な女性が現れた。
髪は茶色で、服装は白一色で肌も顔も綺麗で整えられた女性。
私は一瞬、それが女神なのかと間違えるほどに神々しかった。

しかしーーー


『あーまた死んでるのか、今回の勇者は使えないなー、次のやつ入れるとするかね〜』


つまらなそうに、いつの間にか光って動く絵を映し出していた黒い板を眺めながら女神らしき女性は呟く。
そして何もないところから分厚い本を取り出すと、そのページをめくり出す。

『えーと…つぎはこのリュウヘイって奴にするかな?元々中二病っぽいし、死因も交通事故なら喜んで引き受けるかも。つーか、さっきの奴はなんで3年も勇者なんてやってんだろう、さっさとクリアしろよ雑魚』

ページをめくる手を止めてそこから一枚の用紙を取り出してから黒い板に差し込むように入れた。
黒い板の表面からぐちゃぐちゃと白と黒が映され、それが収まると今度は彼と同じような人が映し出される。

同じ人種の、同じような雰囲気。
しかし顔付きは違う。

困惑しているその人物は、まるで何が起きたのか理解できないかのように体のあちこちを触りながら、何かを確かめる仕草を始める。
それを、女神だと思っていたそれが含み笑いをこらえるような顔で見つつ、耳に何か妙なものをつけて口元に同じように黒い棒を近づける。

『…園崎リュウヘイさん、残念なことにあなたは死んでしまったのです』

その声は顔とは違って、とても悲しみに満ち溢れた慈悲深い声のように思えた。
黒い板の中に映し出された彼にもそれが聞こえたのか、あちこちをウロウロ見ながら質問し始めた。

『だ、誰だ!!この俺はしししし死んだって言ったのか!?じゃあここは一体なんだってんだ!?天国か地獄か!?」
『いいえ、ここは日本でもあなたの知っている天国や地獄じゃありません。ここは私、女神オステが治める世界…簡単に言いますと異世界です。リュウヘイさん、死んでしまった直後なのに申し訳ありませんが、あなたは勇者として選ばれました。これから第2の人生として魔王討伐の旅に出てもらい、世界を救ってもらいます』
『な、なんだと!俺が勇者だって!?』




「違う!あんたなんか勇者じゃない!!勇者はあの人だけだ!!」




私は目の前で起こる茶番のようなそれにいつの間にか答えていた。
私が叫ぶように答えた直後にはその光景は消え、さっきと同じ森に戻る。

「…さて、ここからは醜悪の権化の起こす茶番劇などではなく、ワシ自ら語らおう。この世界の真実を…」
「…嘘じゃないのよね、さっきのも一体なんなの」
「焦るでない」

私の興奮を制するように老人は優しく語る。
私が生きているこの世界の真実を。

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