世界を渡る私のストーリー
英雄紛いの偽物7
勇者である彼が笑うたびに、私は嬉しくて仕方なくなる。
いつも見るたびに、私は胸に抱くこの想いの正体を自覚する。
キュっと、苦しくなる。
胸の鼓動も早くなっていた。
旅を続けて1年、私はついに彼に胸の内を打ち明ける。
「私…あなたのことが好きだ…この旅が終わったら私とずっと一緒にいよ」
「……ごめん、それはできない」
彼は私の告白に苦い顔をして、私の告白を断った。
それがショックだったのもあったが、彼は首に下げているペンダントを開いて私に見せた。
そこにいるのは、同じように髪が黒くて顔が違う。それなのに美人だとわかる女性がいる。
それを私が唖然と見ている間に、彼は私に言ってくれた。
「僕は…彼女が好きなんだ。この旅…この旅が終わったら…僕は彼女に会いに行かなきゃならない。それは、どうしても絶対なんだ」
「そんな…でも、私はあなたが好きで…!」
「分かってる、僕だってリアンのことを大切だと思ってる。パーティー全員が大切な存在だってことも!でも、僕は彼女と約束したんだ。ずっと一緒だって」
それ以上私は言葉が出なかった。
今すぐにでもこの場から消えたくて仕方なかった。
私の片思いも、儚く散るのが怖い。
そう俯きながら考えていた私は、いつの間にか近づいて来た彼から何かを首に掛けられた。
それは銀色のペンダント。
「即興で作ったんだけど…中を見てくれないか」
垂れ下がる銀のロケットを開く。
そこには目の前にいる彼と寸分違わぬ絵が描かれていた。
そこにいる彼は優しい笑みで、それこそいつでも笑ってくれるような、そんな顔をしていた。
「僕は旅を終えたらここを離れる。でも、君がこれをしている限り、僕は君のすぐ近くにいる。忘れないでくれれば、僕らはまた会えるはずだ」
「…でも、その時はあなたの想い人がいるんでしょ?私はその時どんな顔して会えばいいのよ」
「笑顔だよ、リアンはあの人と同じ見ていて嬉しくなる笑顔が一番だ。一緒にいられなくても、それでも、僕にとってリアンが大切な人に代わりない。それだけは確かなんだから」
私は泣きながらそれを聞き、内容が嬉しくて嬉しくて仕方なくなった。
だから私は彼の頰にキスをしてやった。
身長差も関係なく抱き着きながら。
驚いた彼の顔は、勇者とは思えないほど呆気に取られていた。
それが可笑しくて、とても気持ちが良くて笑う。
彼もつられて笑った。
それで全てがスッキリした。
あの勇者を驚かせた女として解釈し、私が私だってことが、この時初めて理解出来たのかもしれない。
なんとも楽しい過去の記憶か。
幾度も味わいたい夢だった。
でも、そこで夢は途切れる。
目が醒めると私の前には勇者達がいた。
どうやら数ヶ月も眠っていたようだった。
「おい魔王!テメェよくも王国の大切な民を殺してくれたな!!」
「ゆるさない!!」
「ここで成敗してくれよう!!」
パーティーの真ん中に立つ知らない顔の男と、その周りには見知った顔が三人いた。
私はつまらなそうに、いつ着替えたかもわからない黒いローブやら鎧を脱ぎ捨てて玉座から降り立つ。
その姿に危機感を感じたのか、勇者達がたじろぐ。
それを見てから私は予め用意していた問答を始める。
「まずは1回目、えーっと、あんた名前は?」
「お、俺の名前は勇者リュウヘイ!!この世界を救うべく神に選ばれた勇気を携えし者だ!」
「ふーん…で?本当のところ世界を救った後とか考えてるの?」
「…え?」
ドキリ、と動揺した顔の勇者。
その顔からは、その前で生きてきた経験がヌルいことがわかる。
ここまで観察眼が培われていたのか、それとも私が持つ魔剣の効力がなせるものか。
「もう良いや、死ね」
「え、ちょ、ま!!」
私は目の前にいる『彼以上に信念がない』ゴミ屑のような勇者に呆れ、なんの感情も抱かずに魔剣を振るう。
ゴォォォォン
轟音が耳に嫌という程響き、それが収まった頃には私の前にいた勇者達はもちろん、私の城と目の前に広がっていたであろう広大な大地は消え去っていた。
1回目でここまでできるのかと思うが、その瞬間には全てが元どおりに修復されていく。
世界も、時間も、私以外の全てが。
完璧に戻った世界を見届けてから、あの老人の言う通りの結末まで私はここで待機する。
玉座に戻ってまた眠り、夢に戻る。
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