世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

英雄紛いの偽物5

結果はこの時から分かっていたが、僅かな時間で残りの団員の悲鳴も消え、最後に聞き覚えのある男の断末魔が響いた。
全てが終わった森の中では、男女の軽快な軽口が聞こえる。

「驚いたな」や「こいつら弱かったね」とか。

私はそれが悔しくて、手持ちのダガーを握る力を強くするが、動けない事では何も出来ない。
ドクドクと、出血もひどくてすぐにでも手当てをしなければいけない。
その時の私は焦りと仲間達の二の舞になりたくない恐怖でひどく消耗していた。
急いで逃げないといけない。
でも、動けない。
でもこの暗闇なら…いや、相手はこちらにナイフを飛ばすほど目が良い。逃げても無駄だし、私がこうなっているのも向こうから見えているはず。
すぐにでも近づいてー。
そう思っていた私のすぐ近くの茂みがガサつき、そこから松明を持った男が出てきた。

「ごめんね、痛かったかい?」
「ヒッ…!」
「あぁ!そんなに怖がらないでくれ!僕は別に君を殺すわけじゃないんだ!」

そう言って、この大陸では見たこともない顔の彼は私に手を差し伸べてくれた。
ビクビクと怯えながらも、私は無意識に手を伸ばし、差し伸べた手を握る。
暖かくてしっかりとした手、盗賊団の連中よりも綺麗で細い指。
私は初めてかもしれないその手にほぅ、と安心してしまう。
そして意識は暗転する。

目が醒めると私は誰かに背負われていた。
鎧やら装備でゴツゴツとした体だが、いつの間にかしがみ付いていた誰かの首から肌が出ており、人肌の温かさが気持ちよかった。
私はあの後、王国からの一行に助けられた。
襲おうとしたのに助けられたのは意味がわからないが、それでも私は寝ている間に足の傷を治癒してくれたことに感謝し、安堵しながらもその後の成り行きをただ静かに待とうと思った。
次の町で私を兵団に突き出して牢屋に入れられても、それで納得しようと思っていた。
盗賊団のメンバーで幾人も人を殺した。
その報いがこのザマだ。
それが相応しいと、私は思っていた。

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