世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

英雄紛いの偽物1

英雄と呼ばれたかった

私はだれでもない、私である。
哲学のような、そんな理論を振りかざす私は、今まさに最後の戦いに挑もうとしている。
世界を救う戦い。
魔王クアトルを倒し、世界に光を取り戻す。
そんな簡単な、それでいて難しい事に私は今まさに挑む。

「…いくよ」

私は首に下げている大切なペンダントを握り、最後の戦いに向けて足を動かす。
カチャカチャと鎧の音が一人分。
私はたった一人で挑む。




『オォォ…!オォォォォーーー!!!こ、この私が…滅ぶなど…!」

魔王クアトルは私の目の前で息絶え絶えの声を上げている。
私はそれを冷たい目で見て、ただ眺める。
魔王が何か言いたくて仕方ないので、私は奴の元に歩いて近寄る。
反撃する程の魔力も力も尽きた魔王は、弱々しく私に言った。

「お前は…誰だ?…勇者は、まだベリアロスが相手しておるはず…それなのに、お前は一体……!」
「あぁ、そんな事か。私が誰かって事か」

私はそんな問いをした魔王を見ながら、魔剣を振りかざす。

「私は…ただの私、神にも見放された…ただの人間だよ」

振り下ろす。
ザクリ、と魔剣の切れ味を示す良い音を立てて魔王の頭を一刀両断する。
答えを聞いたはずの魔王は、訳も分からない顔を浮かべて絶命する。
これで全てが終わった。
全てが終わった。

「カカカ、いや見事な終幕よ。これでこの世界の物語も終わりよな」

声が聞こえるのと同時に、奴が目の前に現れた。
老人、髪も生えておらず見たこともない服を着て杖をつく老人。
彼は私が倒した魔王をつまらなそうに杖で突つき、私の顔をまじまじと見つめる。

「よくやった少女よ、このつまらない出来損ないを倒した事によって主役は変わり、世界の有り様も変わろう。そして見事、この世界の神の思惑を止めた。これから先お主が会う『異世界から来た勇者』も何千と殺せば、我らが神の邪魔をする者はいなくなろうよ」
「…それで、私はこのあとどうすれば良いの?」
「なに、お主はここで待機して居れば良い。魔王の幹部どもも、どうせ勝手に動くはずだろうし、新たな魔王がお主に変わったはずなら、無意識に都合が良い方に向かうであろうよ」

そう言って老人はさっきまで魔王が座っていた玉座を指差す。そこに座れという意味だろうか、私はそれに従って玉座に座る。

「さぁ、新たな魔王が誕生した!我が神の威光を一身に受けしその魔剣で、この世界の物語を終わらせるのだ」

老人はそう言うと杖をコツン、と一回鳴らした。
それだけで、玉座の間に見たこともない邪悪で醜悪、ただの人間が立ち向かっても勝てないような魔獣達が姿をあらわす。

「これは餞別だ、お主の好きなように使うと良い。世界を蹂躙するのに使うと便利とだけ言っておこう」
「そう、でも私はこれで攻める気はないかな。人なんて殺してもつまらないし」
「ならばここに現れる勇者にでも戦わせるが良い」
「分かった…で、他には?」

老人はふーむ、と悩みながら顎をさすって考え始める。
特に無いようなので、私は彼には帰ってもらう事にする。

「何かあったら呼ぶから、あとは一人でするわ」
「おぉそうかそうか、では困ったら呼ぶと良い、ワシができる事ならなんでも手伝うからのぉ」

そうしてまた姿を消す老人、彼が消えた後に残ったのは獰猛に見えるのにチョコンと座り込みながら私のことを見る、ある意味で可愛らしい魔獣達だ。
疲れてたので私は魔獣達に「好きなように動いて良いよ、勝手に人襲っても良いから」と命令を出してから玉座でしばらくの間眠る事にした。
魔剣を抱きながら。

コメント

  • 目覚めのアリス

    一気に放出きてるね!!good!

    1
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