世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

無力な私が愛した支配者5

彼の側近に置かれた。
その立ち位置が私には嬉しいのか、それとも悔しいのか悲しいのか、色々な感情が混じり合っていてよく分からなくなっていた。
この世界の実の父と母は彼に殺された。
その現実は、様変わりした王城内でよく分かっていた。
城のあちこちにあった煌びやかな装飾の施された家具が、なんの変哲も無い用途に見合った質素でしっかりとしたものに変わり。多くの貴族の憩いの場であった庭園も、今では兵士の射撃訓練やら武器を置く場所へと変わった。
瞬く間に改革が行われ、それに従って人々も動いていた。

今では貴族はいない。
王族も途絶えた。
この国の主権は、彼が全て握った。

側近に置かれた私は、当時10歳ながらも前に生きていた時に培った会社の職業スキルを使って『貴族一の才女』と呼ばれる二つ名を遺憾なく発揮した。
本来は、最後に残った貴族の娘として多くの同志と共に叛旗を翻すのが普通だろう。しかし、彼は不思議な力で前に立つ者全てを殺戮してきた。
多くの人がその力に畏怖し、反対勢力の大半が牙を立てることもできない。

内情をよく観察し調査して知った私でもその気持ちが理解できる。
そもそも、私は彼に逆らう気はなかった。
だって、好きだったから。
恋慕の思い以外に理由はいらなかった。

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