世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

無力な万能を持つ支配者21

皇帝は語った。
この世界に来た時のこと、この世界での生活や思ったこと、そして力を手に入れた後に行ったこと、そこから明らかになった神の存在に全てが瓦解したこと、この世界の人間以外を滅ぼした理由。
その全てを、本心のままに語ってくれた。

皇帝が語ってくれた自身の話に私は黙って聞いていた。
ミレーナの方は話を聞いているときはずっと無言で床だけを見ていた。

「…で、ついに全部滅ぼした。俺の悲願が叶ったこの世界で俺は全ての人の皇帝になったわけだ。時折神の妨害とやらもあったが、俺は外傷なんかじゃ死なねぇし天罰だの呪いも効かない、だからあいつはこの世界の気候をおかしくして今度はそれで俺を苦しめようとしてやがる」

「つまり、この世界の人々の顔に陰りがあるのはそのせいだと?」

「どうだかな、逆らったり謀反を起こしたやつを1人残らず処刑したり、不作に不満を持って勝手に国を離れた奴も殺したりしたからだろうが」

自嘲気味に笑いながら語る。
その笑いが、何故か少し寂しく思えた。

「なんとかならないのかな?貴方のその万能があればなんとかなりそうなのに…」

私の提言に皇帝は首を振る。
その仕草で今の質問が何もなさない事を思い出した。

「…万能か、確かに民を従えさせて従順にさせるのにこの力は使えるが、お前も似た力を持つのなら分かるだろ?この力が出来ない範疇のものを」

「……」

皇帝が言った言葉に、私はその通りだったと改めて思い知らされた。
私がここまで力を身につけたのはもう何億年も前の話だ。
万能…なんでも思い通りにできるその力を人の身で得た私は最初の頃、渡る世界にいる人々を救済できると思い上がったことがあった。
私の想い人、彼を探す旅の途中でそんな大層な夢を抱いたのは、ひとえに疲れていたからだったのだろう。
私はその力で多くの人を救った。
救った後で、後悔した。
際限無く救済を求める人々、それに対して力を使うたびにまた次々と救いを求める人が出てくる。
しかし、力には対象を選ぶし限度もある。
最初の頃の私は私がいる範囲で出来る万能を駆使し、目に見えない悲劇を回避させることはできない。

私の持つ万能と彼の持つ万能が同じものかは分からないが、彼は『力を振るう』くらいのものだったのだろう。

「俺の万能には限りがあって、無力に気付いた時には俺がするべきことなんざ全て終わっていた。平和を求めていたわけでもないから別に構いはしなかったが…」

天候や何かを思うがままにするのは出来ない。
そこまでの『万能』はもはや神であるのと同じだ。
その苦悩を理解し私は口を紡ぐ。
しかし、黙って聞いていたミレーナはそれに対して異を唱えた。

「それなら神なんて気にせずにただ平定させればよかったじゃないか、それに気付けたのに、どうして人間以外を滅ぼそうと思ったのだ」

ミレーナは皇帝を見据えて言った。
彼女が言ったこともその通りだとは思った。
でも、皇帝はそんな彼女の質問にため息をついて答える。

「あのな、俺は元いた世界じゃ平凡なサラリーマンでこんな世界のことなんざ頭に入っているわけねーんだよ。異種族の戦いの締結? 共和?平定なんて俺は味わったことないから知らねぇよ。大体この世界に生きている奴らは総じて神の傀儡なんだ、俺の僕として人間を置くのは普通だとしても、他の種族を残しておく理由なんてないだろ」

「そうだとしても…!」

「黙れ、俺にとっては人間以外全てゴミだ。お前だって例外なくゴミで、ただ翼が生えただけのゴミに過ぎないんだ」

皇帝は早口で、ミレーナに理由を述べた。
それを聞いてミレーナは怒りのあまり剣を抜こうとしたが、それを私が止める 。

「落ち着いてミレーナ」

「止めないでくれツヅリ、今この男は私を侮辱した!私の翼を…ツヅリが認めてくれたわたしの翼をこいつは!」

「…」

鬼気迫る顔のミレーナをわたしはあまり見たことがなかった。
ここまで憤慨したミレーナにも驚くが、その理由について察しはついていた。

彼女も多くの種族を殺してきたからだろう…と。
ミレーナの内情について考えている間に皇帝は玉座から立ち上がって私達に背を向けた。

「どこに行く!」

「お前らとのお話はもうおしまいだ、そこの翼が生えた女、俺の恩情に免じて見逃してやるし、俺の国で歩いていても捕らえないように計らってやる。お前もこの世界に用があるのなら、それをすぐに済ましてさっさと立ち去りな」

皇帝はそう言って玉座の後ろにある扉を開け、すぐに姿を消してしまった。
私達を残して。

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