世界を渡る私のストーリー
無力な万能を持つ支配者19
10分ほどしてから先ほどの衛兵がこちらに戻ってきた。
衛兵は息を切らしながら私達に言う。
「こ、皇帝陛下がお前達との謁見を許された!準備は整っているので玉座まで案内する!」
「えぇ、そうして頂戴」
「私についてこい!」
衛兵はそう言って私達に背を向けて先へと向かう。よっぽど急いでいるのか、足早に歩くので私とミレーナも遅れずに着いて行く。
衛兵は何かに怯えているのか振り向く前には顔を青ざめていた。
最初は私達に怯えているのかと思ったが違った。
私たちがついた玉座では、さっきの衛兵達が泣きながら床に座っていた。
そしてまっすぐ伸びたその中央の玉座に彼は座っていた。
皇帝、無精髭を生やして虚ろな目をした彼は、ギロリと私達を睨んで見据えていた。
「…貴様らは人間か?話に聞くと飛んできたと言うが本当か?」
皇帝の第一声にはわずかな殺気が混じっている。
巨大な憎悪、それを押し殺したかのような声に私ではなくミレーナが答える。
「あぁ、私は天使と人間の血が入っているのでこの翼をもって空は飛べる。しかし、彼女はただの人間だ」
「そうかい」
ミレーナの言葉に皇帝は短く、めんどくさそうに頷くと手摺に置いていた右手を僅かにあげて、スーッと小さく振るう。
それだけの動作。
そこから僅かな間を置いてから、私達と皇帝の間で何かがぶつかり合う音が響く。
驚いたのは私以外の者だけ。
ミレーナも、攻撃を実行したはずの皇帝も驚いていた。
「なんだこれは?…この俺のアレを弾いたのかお前」
「いいえ、弾いたのは彼女ではなく私。貴方に謁見を申し込んだのも私の考えでよ」
「ほぉ…お前は只者じゃないようだな。差し詰め神が遣わした使徒みたいなものか…しかも天使も連れてとは…これはこれは俺はどれだけ迷惑な道化なんだか分かんねぇな」
皇帝は訳のわからない独り言を呟くと玉座から立ち上がる。
そして並んで座っていた衛兵の内、手前に座っている者に手を向ける。
「神が救済目的で遣わしたヤツなら、この世界の終わりが近いってやつか?クソくだらねぇ、面白がるだけで何人を殺してきた外道が俺の前に出てくるんじゃねぇよ。誰も救おうとしなかった奴が、今更なんだってんだ…」
そして振るう。
何かを発生させたのか、目に見えない脅威が衛兵に襲いかかろうとした。
私はすぐさま衛兵の命を刈り取ろうとするソレをさっきと同じように、同じ手段で食い止める。
前と違って今度は金属がぶつかり合う音が響く。
イラつく皇帝と何が起きたのかわからないのに身の危険を悟ってさらにガクガクと震える衛兵。
ミレーナもようやく抜刀し、皇帝と敵対しようとする。
しかし私はすぐに片手でそれを諌め、静まり返った玉座の間に響くように言った。
「部外者は早くこの部屋から出なさい。ここからは私達と彼で話がしたいから」
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