世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

無力な万能を持つ支配者11

地獄というものがどんなものか俺は知らない。
針山があるだの、炎で満たされた野原があるだの、血だまりの池があるだの。小さい頃に読んだ本で知った程度の知識しかない。

しかし、小学生の頃に感想文の宿題として読んでいた『蜘蛛の糸』で地獄の一部を見て怖かった思い出がある。
地獄に落ちたカンダタ、彼は地獄の血の池地獄で永遠の苦痛を受けていた。多くを殺し、盗みを働いた罪人の末路といえばその通りだが、そんな彼でも1匹の蜘蛛を見逃した事があった。
彼がやった小さな善行に対して釈迦が救いの手を差し出した。
地獄に細い蜘蛛の糸を垂らし、カンダタはそれを掴んで天まで登ろうとした。
彼の後からも多くの亡者がその糸を登り、極楽を目指すが。

糸がちぎれると思ったカンダタが後から来た者達に思いやりも何もない言葉をかける。
その瞬間、糸がちぎれてカンダタは再び地獄に落ちる。



ここまで覚えていた。
情けない話で、この頃の俺は人間というものがまだ意地汚いものだと思っていなかった。それこそ純粋で、本当に子供らしい考えだったと思う。

一回の善行も無しに死んで、何人もの女性と付き合った私怨で殺されて異世界に転生した俺は、救いも無く、本当の意味で地獄に落ちていた。







気がつけば周りに生き物はいない。
俺が手に持っているのは、エルフの女性の生首。
辺りには四肢がバラバラになった無数のエルフ族の人々。すぐ足元には小さな子供の手が落ちていた。


俺はおそらく外道に堕ちている。

15ある他種族の内13まで滅ぼし、最後のエルフ族もたった1日で滅ぼした。
一方的に、なんの感情も抱かずに全て殺戮した。

俺はその現実に変な笑いがこみ上げて来た。
可笑しかった。
命というものの価値がこうもあっさり奪われるなんてという現実に、今まで何度も同じことをしてきた俺がここまで呆然とする事実に。

「…ぁははっは……あは…はは……」

声は掠れていた。
俺は腹から笑って、今にもおかしくなりそうな頭を正常に保たせたかった。
こんな考え方をしている時点で、もう既に頭がおかしいと誰かに言って欲しかった。

「よくやった若人よ、これで神も少しは懲りたであろうよ」

何もなくなった地に聞こえる声はいつものだった。

「…これで、良いんだよな?これで神の顔に泥を濡れたんだよな?」

もう俺は、縋るように聞くことしかできなかった。ここまで殺して、正常な方が人としておかしい、俺は自分で考えるだけの冷静さがいまはなかった。

「あぁ、これでこの世界の神はすべての娯楽から手を離し、本来やるべきであった世界の繁栄に目を向けるであろう。滅んだ文明、種族、それらは1日2日といった歳月で補えるものではない 、バランスが崩れ、今にも世界の均衡と軸が乖離する状態なれば、この世界の『他の世界に介入できる強力な神』は、ワシの仕える神に手出しできぬからな」

「……、」

「感謝するぞ若人よ、主が求めた人間性で、1人の神を救えたのだから……なぁ」

俺はようやく気付いた。
あぁ、こいつも俺を利用していたんだな…と。


「世界を渡る私のストーリー」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く