世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

無力な万能を持つ支配者7

俺は竜人族の国を攻めた。
ハリボテの兵士を引き連れながら奴隷運搬用の馬車が何台も走る。
俺は全員奴隷にする気でいた。

しかし予想外のことが起きた。

竜人族の国までの道は険しく、崖すれすれの道を通らなければならない。
慎重に渡る兵士にイライラする俺はその時ばかりは油断していた。

突然崖が崩れて道が崩落し、俺の後ろからついてきていた兵士や馬車が全て崖下に落ちて行った。
もちろん数名だけはなんとか助けたが、それでも1万人近い兵士を失ったのは流石に痛かった。

そんな時に限ってもっと力が欲しいと嘆いた。

仕方なく俺はそのまま進軍した。

着いた竜人族の国を半日で滅ぼし、為政者を殺した後に次の魔人族の国へと向かう。

そんな時に本国から俺に知らせがきた。

『反乱が起きた。すぐに戻って欲しい』

舌打ちして俺はひとっ飛びで国へ戻って反乱を起こした者たちを全員始末した。
子供も例外なく殺した。

でも鎮圧してすぐに違うところで反逆者が現れた。
それも殺した。

早く次の国を攻めたかった。
魔人族の国を落としたいのに、その前に様々なところで命知らずの者たちが暴れる。

イライラが募る。
俺が行って全て殺した。
見せしめに公開処刑もしてやった。
悲鳴を他国に響くまで喚かせてやった。

それでも反抗は止まらない。
だからしっちゃかめっちゃか動いた。
寝る間もない程に。

それでも休む間も無く誰かが反旗を翻した。






それから19年も経ってしまった。

あれから魔人族の国を責める暇もなく物事が起きた。
反乱を止めながら治世を行なった。
良くなるように奴隷も開放した。
街の治安強化も行なった。
多種性を受け入れてやった

それでも俺に反対する奴らが現れる。






俺は自分の城の寝室で頭を抱えた。
疲れた。
俺はなんで最強なのにこうも苦労するんだ。
こんなに苦労するものなのか?
万能ってのはもっと良いものじゃないのか?

最初の頃の爽快感はどこにも無い。
全てが虚しくて、結果も全てが無駄になっていく。

全てが嫌になってきた時、ようやくあの声が俺に力をくれたといことを思い出した。

あのしゃがれた声の男。
俺はあいつに聞こえるように独り言を言ってみた。

「…もう疲れた、俺はここまで強い存在に変わったのに、何1つとして得た気がしない。そもそも俺がなぜこの世界に呼ばれたのかも分からんのに、何をすれば正解かも分からん。あの時あの戦場で死んでおけばよかったのか?俺はこの世界で死ねばよかったのか?一体全体どうして俺がこんな苦労をしなければいけないんだ」

「そうか、苦しいか若人よ」

「いたのか…」

急に聞こえた声に俺は溜息を吐きながら、ベッドに腰掛けながらその声に語り続けた。

「あんたは俺に力をくれた。人間らしいっていう理由だとかで。でも、どうしてあんたが俺に力をくれたんだ?あんたがこの世界に俺を呼んだ神様なのか?」

「否、最初の契約通り『この世界の神の否定』を求めておる。ワシは呼ばれたお主に囁いて神すら欺いただけよ」

「そもそも神の否定ってなんだ?その欺くってなんなんだ?」

「ふむ、答えを求めるのはどの世界の若者も同じか。ワシが多くを知らぬ存在かも疑うことなく聞くか」

「こんな万能の力をくれたんだ、あんた間違いなく多くを知ってる存在だろ」

「カカカ、そうか、ワシはそのような存在に見えるのか。嬉しゅうて家康様の元で槍持ちをしておった時まで若返った気分じゃわい」

カカカカと、本当に嬉しいのか笑い声が寝室中に響いた。
姿もないのに、その姿が目に浮かぶ。
おそらく老人…それも俺が生まれた時代よりも前の人だ。
家康…徳川家康のことだろう。
その時代に生きた人とこの声は言っている。

「では、その多くを話すとするかな…ワシがお主に力を与えた本当の理由とやらを」

俺の考えを中断させて、声は言う。
その声からは、なぜか知ってはいけない箱の中身を教えるようなネットリとした教師のようなものを感じた。

そうして俺は真実を知る。
知らない方がいい真実を。

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