世界を渡る私のストーリー
カードの館の人形姫12
「…私に何の用だ!殺しに来たのなら我が人形が総員でお前を潰す!!それでも良いのなら私を今この場で殺すが良い!!」
「そう死に急ぐでない。まだ生きている人間の方が命乞いをするというのに…ここだけは人形なのだな」
老人はフゥッと息を吐いて私に告げた。
「ワシは世界を渡るあの小娘を神の身元に連れ戻しに来ただけよ。まぁ、行方が分からずにボケっとこの世界に1000年も滞在しておったらようやく出会えたがの、ようやく任務を全うできるものよ」
「…何で直接あの子に言わなかった?いくらでも機会があったはずだっていうのに…!」
「それはそうだが…興がのったというかのぉ…少し啜りたくてなぁ…」
下卑た笑み……いや、まだ気品があるその笑顔を浮かべるヤツから身の危険を感じて私は離れようとするが、まだ握力が強くて足が振りほどけない。
「啜るというのは生き血をか!貴様は俗で下賤な魔族だと言うのか!」
「違う違う…本当に的外れなことばかりを口にするなお主は、ワシが欲しいのは現物などというその場にあって消えるものではない。ワシが啜りたいのはあの小娘の探している幻想じゃよ」
「な……なんだ…」
なんだと。
私がそう言いかける前に執務室の大きな扉がガタンと音を立てて開き、私の配下の魔導人形達が雪崩れ込んでくるように入ってくる。
魔導人形達は瞬く間に私とヤツの周りを囲み、その強靭な腕と脚をいつでも繰り出せるように身構える。
「フレガ参謀長官、貴殿は我が主人に対して危害を加えるつもりか。危害を出す気がないのならすぐにその御御足を離し、頭に手を置いて床にうつ伏せになれ。抵抗するのならこちらは原型を留めないほどの破壊を実行する」
リーダー機でもある青年型の魔導人形がヤツに対して警告する。
だがヤツはそれを深刻そうに受け止めず、ただ両の耳で聞いただけのような態度でそれに頷いた。
「ほほ、何だかそれも面白そうじゃが…こうも警戒されてから力を使われて潰されるのはちいとワシの専門では無いしな。ならばこの世界はこれだけで良いかの」
万力のような力で掴んでいたヤツは私の足をパッと離す。
急いで私は魔導人形達の方に駆け、側近の者達に心配されながらもヤツを睨みつける。
ヤツはこの状況でもまだ余裕がある。
勇者一体と同等の力を持つ魔導人形40体が、魔物すら一蹴する四肢で狙いを定めている状況。
愚かな者でもこれが絶望的状況なのは理解できているはずなのに。
「色々と騒がしくなってきたし、ワシはこの場からお暇するとするか。では人形の姫よ、ワシから永遠の別れを言っておく」
「この状況で逃げれると思っているのか、貴様はここでおしまいだ。ツヅリを追うというのなら私がそれを阻止する。あの者の邪魔をするのなら神すら私は倒してみせる。神を超える為に造られた意味がそうなら、お前のような未知の外道でも私は倒せるはずだ」
「…虚勢ではないな、神器よりも濃い力が発動しかかっておるし、何よりも…今のワシでも危ういかもしれん魔力が匂うてくる」
ヤツは初めて笑顔を崩し、顔を曇らせながら私のことを見ている。
いや、ヤツ以外の周りにいた魔導人形達も私を見て後ずさった。
私は最初は気付かなかったが、身体の内から感じた事のない力が込み上がっており、辺り一帯に濃密な魔導由来の魔力を放出していた。
初めて認識し身体を見るが突出したような変化はない。
今ならヤツに勝てるような気がしていた。いや、神すら越えるかもしれない。
「訂正し詫びようか人形の姫よ。お主の創造主たる転生者は、屑などではなかった。その盆から溢れかかった水のような魔導からは負の感情が一切ない。いつ壊れるかも分からん人形如きにその様な仕掛けを施すなど、ただの若造にできることではないな。こればかりは認める」
「今更命乞いか?」
「勘違いするな。ワシはただ評価しただけで、お主に対して恐れは抱くが、まだまだ脅威とは思っておらんよ」
私が一歩前に出て発言すると、ヤツは後ずさって答える。
脅威は無いと言っておきながら、恐れる姿は矛盾していた。
私は自身の力に確信を得た。
「神すら越える存在、この私がそうであるならば試そうか」
「カカカ、人形とは思えんほど感情豊かで困ったわ」
「覚悟は出来ているわね化け物」
「ほざくな傀儡が」
直後に強大な力が衝突した。
その衝撃はカードの館の高すぎる天井をいくつも破壊し、数百キロ先にある外壁に無数の穴を開けた。
初めて外傷で壊れた魔導人形が29体も出て、市中にも被害を出した。
幸いにも天界から来ていた天使や魔王の幹部数名がその衝突に加勢して双方を止めたおかげでそれ以上の被害はない。
ゲームの館の主人、ヴィヴィーラ・クィンテットは身体のいたるところが破壊され、四肢も千切れた状態でも敵を滅ぼそうと動き続け、最終的に魔導不足で起動停止した。
しかし、老いた身体の『フレガ参謀長官』だけはその衝突の後も五体満足でヴィヴィーラ・クィンテットとぶつかり、彼女が魔導不足で止まった後もそれを見下ろしながらゆったりと観察していた。
助けにきた魔導人形達も気にせず、ただ舐めるように見てから大勢の命知らずの野次馬の前から忽然と姿を消した。
転移の魔術ではない。
姿隠しの魔法でもない。
天使や魔族でも感じられない力で消えたのだ。
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