世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

カードの館の人形姫11

ヴィヴィーラ・クィンテット……私は満足した。
とある世界を旅する人間に、助言の一つをくれてあげられた事に対して、ニンマリと久方ぶりに笑みが溢れる。

彼女たちはもうこの地を離れ、次の場所に向かっているだろう。

この世界に探しものはないだろう。
その一歩が無駄になるかもしれない。

でも今はその一歩で良い、その一歩で何かが変えられるのなら私はその後押しをしただけでも満足だ。
多くの転生者の中でも実に面白い人物に出会えた事を作ってくれた彼に感謝しながら、私は今日もいつも通り執務に励む。

しかし、その前に私の前に奇妙な者が現れた。
それは数ヶ月前から会談の予約を取っていたとある国の参謀長の肩書きを持つ老人だった。
いつも通りお世辞を言ってご機嫌をとってくるのだろうとポーカーフェイスで相手の出方を伺った。
だが、老人は『両国の防衛に関する条約の内容と締結時期』の話ではなく、何故か違う話を出してきた。

「ヴィヴィーラ様、若き異世界転生者とは何とも奇妙で珍奇、卑劣で外道な者だとは思わんかね?」

「……フレガ参謀長官殿、開口一番で何故そんな話をするのですか?趣旨が理解できません」

「いやなに、神から力を与えられた若者が違う世界で好き放題に暴れるというのは、この年老いたワシが1番嫌いなものでな」

私の目の前で急に語るソレ。
その言動からして、誰を侮辱しているのか分かった。
なのに私は気付いた時に既に次の発言を許してしまっていた。

「神が歳の半端な者に色目を見るのは神話の中では普通だが、だからと言って、死んだところで価値のない屑を生き返らせて能力を与え、与えられた屑が勝手に苦悩する様は何とも醜く嫌悪してしまうと思ってな…」

そこから先の言葉を私は聞いていない。

私は全力を持って目の前の敵を討ちに出た。
このジジイは、あの人を馬鹿にし、愚弄した。
殺すのにこれ以上の理由はない。

でも、私の初撃は当たらない。

神速で繰り出した右回転蹴り。
それを片手でがっしりと掴まれていた。

「………!!」

「そう驚くでない、これも神から貰った力というものだ」

「…か、神ってことはあの人の敵…!」

「違う違う、人形ごときに権能を超えられる神の元になどワシは着かぬ。それに…ワシならこの世界の神とやらも屠れるので要らぬ心配よ」

転生者。
神から力を与えられた、恩恵の中にいる人間。
それは今まで通りだ。

しかし、この老人は今まで出会った奴らよりも何かが違う。
異質すぎる。
見た目や目の前で私の蹴りを止めた事でもない。
内面だ。
何故こうも人の身体として衰えているのに、如何してここまでねっとりとした悪意がこもった言葉を口から出せるのだ。

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