世界を渡る私のストーリー
カードの館の人形姫10
ーーー私はこの世界に転生した彼が書き著した書物に目を通した。
読解と速読の力があるので、文字も読むスピードも機械レベルにまで上がった私はすべての書物をたった数時間で読了した。
神。
転生した彼が挑んだもの。
そして打ち勝った。
その全てを書き記した文章には、上手い下手関係なく読む方に伝える熱がこもったものがあった。
一つの神話と武勇伝、彼が成し遂げた人間の可能性を知り私はその偉業を讃えた。
「…もう全て読んだのかしらツヅリ?」
背後から声を掛けられ振り返るとヴィヴィーラがいた。
大魔導師がかつて使っていた部屋は彼女が管理していた。それはカードの館が始まった時からずっと同じ場所に、誰にも入れないように厳重に管理されている。
その中に生きた人間が入ったというもは私が初で、彼女に認められたということなのだろう。
全て読了した私は彼女に頷いて、最後の書物を棚に戻した。
「えぇ…とても、とても人の一生で出来るはずがない偉業を見たわ。彼はずっと悩んでいたのね、何にでも勝てるって事に」
「私の主人は元の世界ではゲーマーだったと聞いた。だからこそ、勝負事に毎回負けがない事にとても苦しんでいた。つまらないって」
「その気持ち分かるわ、私が渡った世界にも同じように苦しんでいた人達がいたから、毎日が退屈って…毎日が無意味だって…」
そう言って私は自分が死んだ理由を再び思い返した。
もう数十億年も昔の話だ。
私は自分で命を絶った。
それは彼がいなかったからで、生きる理由がなくなったからだ。
しかし、この異世界に転生した理由としてなってはいない。
今までもそうだった。
転生者たちは全員が私と同じ世界出身で、神に呼ばれて悪を討伐するという人につかされたものが大半だ。
稀にただ呼ばれて『チートスキル』や『高ステータス』といったもので異世界を支配する者もいる。
そういった人間は話が分かりやすく、私との邂逅も喜んで受けてくれる。ここにいる
ヴィヴィーラもその一人に入るのだろう。
しかし、そうだとしたら私はなぜ選ばれた?
元々は魔王を倒すはずの人間だったようだが、何の説明もなしに異世界に連れてこられ、ただ呑気に数年を過ごしていた。
そう、そもそも私を呼んだのは誰だ?
神なのは分かっているが、八百万の神がいる世界でどれが誰を呼んだかなど本人が言ってくれなければ分からない。
転生者の大半は異世界に呼んだ神の名を口にするが、数名は如何してここに来たのか分からない者もいる。
私もそのうちに入るが、数億年も分からないのでは話になりそうもない。
私はどうしてここまで数奇な運命を辿ってしまったのか?
「…ツヅリ、お前が今何を考えているのか分かっているぞ」
ヴィヴィーラが急にそう言いだしたので私は黙って笑顔で応える。
でもヴィヴィーラは。
「我が主人が悩んでいたこととお前の悩みは違うだろう。しかし、その想いはどんな転生者以上に同質なのは確かだ。我が主人が苦しんで成し遂げた事には意味があり、私を作り、私を神すら越える運の持ち主にした。それならば、お前もその険しい道の先にある答えを何れ得るはずだ。お前の半分も生きていない私がいうのも烏滸がましいが、お前はお前の目指す場所に必ず向かうのだ。そうしてこそ意味がある、私と同じ以上の意味を手に入れるだろう」
私の目の奥を見入るかのように顔を見つめ、私に諭す。
数分の言葉だが、今まで渡った世界でも同じ言葉をかけられたのを思い出し、私は両の拳を握る。
「…ありがとうございますヴィヴィーラ様。私は少し目が眩んでいたようです…私の目指すものは常に一つ、それだけで旅を続けてこれたんです」
「…そうか、それを聞いて安心したぞ」
「はい、何だか色々とご心配してもらってありがとうございます」
私が頭を下げると、ヴィヴィーラは満足気な顔でそれを見下ろした。
態度は少し傲慢だろうが、その内に秘めた乙女の心はおそらく人間以上に純粋で綺麗なものだ。
私は、一つの奇跡の一部始終を知ってこの部屋を去った。
読解と速読の力があるので、文字も読むスピードも機械レベルにまで上がった私はすべての書物をたった数時間で読了した。
神。
転生した彼が挑んだもの。
そして打ち勝った。
その全てを書き記した文章には、上手い下手関係なく読む方に伝える熱がこもったものがあった。
一つの神話と武勇伝、彼が成し遂げた人間の可能性を知り私はその偉業を讃えた。
「…もう全て読んだのかしらツヅリ?」
背後から声を掛けられ振り返るとヴィヴィーラがいた。
大魔導師がかつて使っていた部屋は彼女が管理していた。それはカードの館が始まった時からずっと同じ場所に、誰にも入れないように厳重に管理されている。
その中に生きた人間が入ったというもは私が初で、彼女に認められたということなのだろう。
全て読了した私は彼女に頷いて、最後の書物を棚に戻した。
「えぇ…とても、とても人の一生で出来るはずがない偉業を見たわ。彼はずっと悩んでいたのね、何にでも勝てるって事に」
「私の主人は元の世界ではゲーマーだったと聞いた。だからこそ、勝負事に毎回負けがない事にとても苦しんでいた。つまらないって」
「その気持ち分かるわ、私が渡った世界にも同じように苦しんでいた人達がいたから、毎日が退屈って…毎日が無意味だって…」
そう言って私は自分が死んだ理由を再び思い返した。
もう数十億年も昔の話だ。
私は自分で命を絶った。
それは彼がいなかったからで、生きる理由がなくなったからだ。
しかし、この異世界に転生した理由としてなってはいない。
今までもそうだった。
転生者たちは全員が私と同じ世界出身で、神に呼ばれて悪を討伐するという人につかされたものが大半だ。
稀にただ呼ばれて『チートスキル』や『高ステータス』といったもので異世界を支配する者もいる。
そういった人間は話が分かりやすく、私との邂逅も喜んで受けてくれる。ここにいる
ヴィヴィーラもその一人に入るのだろう。
しかし、そうだとしたら私はなぜ選ばれた?
元々は魔王を倒すはずの人間だったようだが、何の説明もなしに異世界に連れてこられ、ただ呑気に数年を過ごしていた。
そう、そもそも私を呼んだのは誰だ?
神なのは分かっているが、八百万の神がいる世界でどれが誰を呼んだかなど本人が言ってくれなければ分からない。
転生者の大半は異世界に呼んだ神の名を口にするが、数名は如何してここに来たのか分からない者もいる。
私もそのうちに入るが、数億年も分からないのでは話になりそうもない。
私はどうしてここまで数奇な運命を辿ってしまったのか?
「…ツヅリ、お前が今何を考えているのか分かっているぞ」
ヴィヴィーラが急にそう言いだしたので私は黙って笑顔で応える。
でもヴィヴィーラは。
「我が主人が悩んでいたこととお前の悩みは違うだろう。しかし、その想いはどんな転生者以上に同質なのは確かだ。我が主人が苦しんで成し遂げた事には意味があり、私を作り、私を神すら越える運の持ち主にした。それならば、お前もその険しい道の先にある答えを何れ得るはずだ。お前の半分も生きていない私がいうのも烏滸がましいが、お前はお前の目指す場所に必ず向かうのだ。そうしてこそ意味がある、私と同じ以上の意味を手に入れるだろう」
私の目の奥を見入るかのように顔を見つめ、私に諭す。
数分の言葉だが、今まで渡った世界でも同じ言葉をかけられたのを思い出し、私は両の拳を握る。
「…ありがとうございますヴィヴィーラ様。私は少し目が眩んでいたようです…私の目指すものは常に一つ、それだけで旅を続けてこれたんです」
「…そうか、それを聞いて安心したぞ」
「はい、何だか色々とご心配してもらってありがとうございます」
私が頭を下げると、ヴィヴィーラは満足気な顔でそれを見下ろした。
態度は少し傲慢だろうが、その内に秘めた乙女の心はおそらく人間以上に純粋で綺麗なものだ。
私は、一つの奇跡の一部始終を知ってこの部屋を去った。
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