世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

カードの館の人形姫2

魔導人形

私は本来なら『多くの人の為に使われる』為に造られ、こき使われる存在だった。

しかし、大魔導師である彼は私を外には出さず、また私に任せる仕事はすべて家事と彼の次の研究の助手ばかりだった。

時々というよりは、ほとんど毎日ゲームに付き合わされた。

チェス、カード、双六、花札、手遊び、ウノ……。
色々な遊びに付き合わされ、私は負けてばかりだった。
大魔導師は勝つと年に似合わないガッツポーズと雄叫びを上げる。
何故だかその姿に私は毎日イラっとしてきていた。

こんな気持ちを抱くのも、私に感情を付けた彼のせいだ。
だからこそ打ち負かしたくなった。

あるときから私は自主的にゲームについて考えるようになった。
良い案が浮かんで彼に勝負しても負けた時も、何故負けたかを反省して次に生かそうと躍起になった。


どうやって勝とうか、どうすれば彼に勝てるのか。
どうすれば次の手のその先を打てるか。
表情や仕草で相手の出方を探れないか。
私は何億通りのシミュレーションを行い、それに見合う数だけ勝負した。

しかし、どうしても彼は強かった。
何度戦っても負けてばかりだった。








「ご主人様、どうしてあなたはここまでゲームが強いのですか?」

なんの変哲も無い質問に、彼は答えてくれた。

「ワシは実はここに居を構える前…生まれた世界で凄腕の勝負師…ゲーマーと呼ばれる存在だったんじゃよ。不幸か幸か、この世界で2度目の生を受けているんじゃ。そんなワシがこの世界の遊戯にハマらないわけがないし、極めないはずもない」

「ご主人様、今聞いた話だとあなたはこの世界の住人ではなかったようですが」

「あぁ…昔熱心に通っていたゲーセンなる場所に行く途中でな、交通事故…馬車みたいなものに轢かれて死んだんじゃよ。その直後に『神』なる人物に次の世界の転生を約束されてな…その際に得た『幸運』のユニークスキルでワシはここまで名を挙げ、今の位置にいるのじゃ…」

その転生にも驚いたが、大魔導師のユニークスキルとやらに私は唖然としてしまった。
幸運、それさえあればただの運で勝てる。
それはどんな不条理や絶体絶命、勝率も確率も無視して。

説明された時にさすがに怒ったが、大魔導師はまぁまぁと私を諌めると続けて言う。

「落ち着けヴィヴィーラよ、お主が怒る気持ちも分かる、ワシもこのスキルが相手だとしたら同じように怒るじゃろうからな。しかし、この門外不出の他聞禁止の秘密の話をお主にしたのにはワケがある」

「ワケですか?」

「あぁ、お主を作ったの理由としてはゲームでワシに勝たせる為じゃよ」

そう言って大魔導師は私の手を握ってくれた。
温かい。
人形の私には無い温もり。
それを感じ取れた。

「ワシはこの歳のなるまで負けが無かった。起伏のない人生で、大きな勝負もなかったから別に困ることもないが、さすがに飽きてきてな。これをくれた神様にも不満も言いたくなる。しかし…ワシの魔導である勝負に出たんじゃよ、わしに勝てるモノを作ろうという賭けに。そして作るのに勝った、なら次はゲームでワシに勝たせる事だけ、その為にお前とワシはゲームをするのじゃ」

「…つまり、ご主人様は神がくれた幸運にも勝てる物として私を作ったのですか?ですが、私はご主人様には一回も勝てません、失敗作だと思います」

「何を言う、成功しているじゃないか。今まで初手で負けてきたお前が、どんどん幸運を越えようと学習しておる。途中で気付いて打ち方を変えたワシの勘ですらもう少しで凌駕するまでに成長してきている。お前は、おそらく神の幸運すら超えた存在になれるはずだ」

そう言って私のことを笑顔で見た。
その表情はいつもの大魔導師とは違い、真に願っていることだとわかる。

ただの人形にここまでの期待を込めてくれた大魔導師に、私は曖昧な感情しか浮かばなかった。

「了解しましたご主人様、私はあなたに勝ってみせます。ご主人様の望むモノになる為に幸運を上回る学習に励みます」








ただ勝つ。
それだけで毎日ゲームを挑んでいるだけなのに、何故か神を凌駕する存在に造られる。
何度も敗北して覚える。
それだけで神の定めた定説を上回る存在になろうとしている。

それがどんなものか、その時の私には実感できなかった。

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