世界を渡る私のストーリー
羽根の生えた騎士9
これを彼女に渡した魔王は、どれほど強力な存在であったのか。
そして、何故こんな切符を作ったのか。
私がこうも考察している間にも、ツヅリはその先に進もうとする。
一歩が出てしまう。
その前に私は急いで肩に手を置いて止めた。
「待ってくれツヅリ!お前は私とそんな別れ方でいいのか!?一緒に旅したというのに…!」
「離してミレーナ、私は先に進まないといけないの。あの人が先で待ってるから」
「そんなに…!そんなにその想い人が良いのか!お前を救ったという、大昔死に別れた相手が…!」
「…確かに、私が彼と一緒だったのは1年ちょっとよ。でも、私が私であり続けれるのは彼のおかげなの。あの人という存在が目標じゃないと、私は元の無色の私に戻っちゃうから」
私の手を振りほどいて、ツヅリはその先に一歩を踏み込む。
行かないで。
待って。
置いて行かないで。
私は……!
私は振りほどかれた手を前に突き出し、彼女の背中を追いかける。
「私の目標は貴女なの!」
そうだ。
私にとって、もうツヅリは立派な目標だった。
いつも彼女の横を並んで歩けたら良いと思っていた。
空を飛ぶ時に頼られるのも気持ちが良かった。
大切な人だ。
友人だ。
ツヅリにとってはただの友達だろうが、私にとってはそれ以上の存在でもあった。
この感情が何かわからない。
でも、今だけは言える。
貴女を失えば、私はもう生きる意味を失う…と。
しかし、すぐに振り返った彼女は私の行為に慣れた様子で手を受け止めた。
私の手を握り返す。
彼女は私以上に強い。
握力も、その身に似合わない力を出して。
彼女はもう既に一歩を踏み出している。
暗闇の奥底に続くような道。
でも未知の出会いで溢れているような、そんな深淵。
引き返すことはできない。
おそらくこれが最後になるかもしれない。
でも、私は彼女と別れたくない。
「ツヅリ…!お願い……私も連れて行って!」
必死にお願いするが、ツヅリは首を何度も振ってそれを拒否した。
「それはダメ、もしミレーナが世界を渡ったらもう年も取れなくなる。外傷で死ぬまで一生を生きるんだよ」
「それで良い、私はこんな世界に価値なんて見出していない。本当なら私はこの世界でつまらない人生を送るはずだったんだ。でも、ツヅリに出会って変われた…面白いと思ったし、楽しいと思えた。全部ツヅリのおかげだ、そんなツヅリと別れるなんて私には出来ない!!」
ツヅリは手を離そうとするが、私はすべての力を込めて離そうとしない。
本来なら手が潰れてもおかしくないほどに握ったのに、彼女は私の顔を見たまま動けないだけだった。
「…ツヅリが次も、その次の次も大切な人を探すなら、私も手伝う。この翼を使ってツヅリの役に立ちたい!たとえこの心が壊れようとも、私はツヅリと共にいたい!それが私の…このミレーナの願いだ」
ただ正直に告げる、それだけで胸のつっかえが消えたようだった。
その気迫はツヅリにも通じたようで、私の手を優しく握ってきた。
私は力を込めた手を緩めてツヅリの目を見る。
彼女はどこか悲しそうに、何故か嬉しそうに私を見て言ってくれた。
「…分かった、ミレーナがそれで良いなら、一緒についてきても私は構わない。どんな悲劇が襲おうとも、私はミレーナの悲劇には関わらないし、貴女が途中で足を止めても私は止待たずに先に進む。それで良いなら、一緒にこの先に進みましょう」
「あぁ……覚悟はできている。それがツヅリの歩んで来た道で出会った者達の末路なら、私はその者達よりも先に進もう」
そして、もしツヅリの想い人とやらに出会えるのなら彼に言ってやらなければならない。
こんなにも可憐で一途な女性を何十億年も一人にさせるなんて…と。
そう言って私も彼らの横に並んでやる。
そこまで至ってから初めて彼らと同格だ。
私はすべての力ある者以上の存在になれる。
そう思って、ミレーナの手に引かれるように私も世界を渡る道に足を踏み出す。
引き返せない。
おそらくは一生このループからも抜け出せない。
「行こう、ツヅリ! 私の大切な人!」
「……えぇ、行きましょうかミレーナ」
手をとり、暗い道を歩く。
私は元の世界を、振り返らない。
もう決めた。
それでも、私は彼女と進む。
この先にある地獄のような時間にも、ツヅリと一緒なら乗り越えられる。
私、ミレーナのお話はここまで。
この後ツヅリと共に多くの奇跡を目の当たりにするが、それは違う人に語ってもらう。
これは世界から世界へと繋げる物語。
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