世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

羽根の生えた騎士6

私は、それを見て胸が痛くなった。
私以上の強者。
 だが、それ以上に私よりも孤独な存在。
幾星霜、幾億もの世界を渡った女は、友も誰もいない。
老いることも、簡単に死ぬこともしない。

  私は永遠に生きるという想像出来ないことを想像して、常人なら途中で発狂するのではないかと思ってしまう。

そもそも、何が目的で世界を渡るのか?

「…ねぇ、お…あなたは何でこんな旅を続けているの?目的も無しに強くなったり世界を渡ったりするはずないでしょ?一体何を求めて世界を渡っているの?」

「私の大切な人を見つけるため」

即答した。
私の質問に、迷いなく答えた。
おそらく何度も聞いた質問だったのだろう。定型分のような答え方だった。

大切な人。
その為だけに何億年も彷徨う。

強くなろうが、歳をとらなくなろうが、死ぬのも容易じゃなくなろうが。

女は大切な人、その人物のためだけに世界を渡っていた。
私は女の強い意志があるその発言に息を呑む。
でも女は、ようやく私の方を向いて言った。

「その為に、あなたには手伝って欲しいの。この世界にいるかもしれない私の彼を探すのを」

私の目を見て頼む女。
その顔は凛々しくて、思わず身じろぐ。

強くて、年長者。
それなのに人に頼む姿はただの女性。
何故だか、私にはそれがまぶしく思えた。

だから、私は黙って頷いた。
 私が頷くのを見て女は喜び、立ち上がると妙な呪文を唱えて私に掌を向ける。
  それだけでさっきまで身体中を走っていた痛みは消え、反対に力が湧いてくる。

「やったー!これで探すのも容易くなるよ!」

「…ったく、変な奴だなお前は。そういえば自己紹介してなかったな」

「ミレーナでしょ?最初であった時に名乗ってたじゃない」

「あ……」

そうだった、そういえばあの時に名乗っていた。
何故か恥ずかしくなって顔を伏せてしまう。
女はそんな私に苦笑しながら自身の名を言った。

「私の名前は…ツヅリ。呼び捨てで構わないから、これからよろしくねミレーナさん」

ツヅリ。
変わった名前だと思った。
でも私は、それがとても綺麗な名だと思えた。
差し出された手を見たからか、それともその端整な顔で思ったのか、どちらかはわからない。
でも私はその手を取って、握り返した。

「私の翼と土地勘でツヅリ、お前の探し人を探してやろう」

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