世界を渡る私のストーリー

鬼怒川 ますず

羽根の生えた騎士 1


 最初の物語は、私にとっては最初ではない。
 それでも、これから話すのは彼女と多くの人間の出会いだ。







私は【ミレーナ】。
天使と人間の間から生まれた混血種の女。
アルタミナ王国で育ち、その国において名高い騎士団に入団した。

入団した理由は私自身、生まれついてから高度の魔術体質と武の才を持ち合わせていた事と、幼い頃から周りの人から将来は騎士になるように期待されていた事によるものだった。

誰かに言われて入った…と言えばそうだが、私自身この力が役立てるのであれば騎士の仕事など容易い事だと思っていた。

それに、私には生まれつき天空を掛ける翼がある。この翼を使って空から敵を一網打尽にすることなどわけない。

つまり私は誰よりも強いのだ。

生まれてから既にこの地上に住む者たち、その全てに優っていた。
その現実は騎士団に入っても変わらず、逆に武人としての気質に磨きが掛かって私は前よりも笑顔が硬い人間になっていた。

近寄る人間全てが弱かった。
だから全て見下していた。

騎士団でもトップを簡単に倒して団長の地位に就いた私は、その権限を使ってあることを行なった。

征服、敵国への侵攻だった。
王は喜んで私に全て任せた。
天使の子だからと、そう評価して、期待して。

強者を求めて敵国を4つも陥した。
たった5年で、近隣で何百年もアルタミナ王国と争っていた国をあっけなく無残に陥してやった。

捕らえた敵国の兵士長を引きずり出して無理やり決闘をさせ、一歩も動かずに234手まで打って飽きたので殺した。
奴隷達の首を切って遊んだ。
女子供を殺してみた。

一種の悦に私は陥っていた。
最強だ。
無敵だ。
私は歴史上最強の存在だ。

そう確認するようにまた一人殺す。
その度に味方は離れていく。
その目は今までの畏敬ではなくなっていた。
王ですら謁見を許してくれなくなった。
生みの母からは「顔を見せるな悪魔!」と言って水をかけた。


私はそれが嬉しくてたまらなかった。


最強は孤独。
理解者などいない。
あぁ、なんて楽しいのだろうか!!


あらゆる虐殺をやってみた。
あらゆる拷問を行なった。
王国の民も他の騎士が目にしていない場所で殺しまくった。
放火も、強盗も、癒着も、横領も、密売も。


全て行ってから、全てが虚しくなった。


私はもう既に壊れていた。
本当に笑ってしまうほどに。

一人きりの時間が増えた。
嫌がらせが増えた。
王ですら私の悪口を言う始末だ。
だからこそ私は騎士団の名を掲げて都合のいい悪を見つけて殺戮する。

行商も盗賊と言い張って殺した。
聖職者も異端者と言って殺した。
農民を反乱軍の一人と言って虐殺した。
村一つを滅ぼしたこともあった。

王国の人々は全員私の悪行に気付いてもいいはずだった。
なのに、誰一人として私に逆らう者はいない。
全員が私を恐れていたから。

つまり、私より強い人間はこの国にはいない。
それはわかり切っていたことだが、一縷の望みを持っていた私としてはその事実に愕然とした。


それから私は王国を離れ、世界を彷徨うことにした。
騎士としての務めも飽いた。
強者のみを求めて、私はその翼を羽ばたかせて大空を舞った。

急に重荷が消えた心に驚くが、私はようやく最初の目的を思い出した。

純粋な強者、私以上の存在。
それを求めて、私は飛んだ。


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