悪役少女の奮闘記

ノベルバユーザー105455

楓、思い出す

ここ何日間の私の記憶はほとんど無い。
私達はお父さんのお父さん、父方の祖父母の家に住まわせて貰えることになった。
2人ともとても優しそうでいい人なのが分かる。


部屋に1人残されると不意に両親を思い出し勝手に涙が溢れてくる。
その時にはいつも一つ下の弟の伊月いつきが傍にいてくれるのだ。

伊月も私と一緒に涙を流している。


事件から3ヶ月は過ぎた頃だろうか。
最初は警戒していたが、徐々に警戒を解きおばあちゃんおじいちゃんと呼ぶようになった。


2人は和菓子屋さんを営んでおり、おやつとしていろいろなお菓子をくれた。
その中でも今はみたらし団子にハマっている。
弟はどら焼きをおばあちゃんと分けっこして食べるのが好きなようだ。


そしてもう1人、私と話そうとしてる人がいる。

お隣さんの柊紫苑ひいらぎしおんくんだ。
とってもお金持ちの筈なのにお母さんとお父さんの希望でお隣に住んでるんだって言っていた。

黒髪にこげ茶色の瞳の同い歳の男の子。
目はつり目で、俺が仲良くしてやるよなんて上から目線で言っちゃう男の子。


「楓、伊月!今日も俺が来てやったぞ!」


ここに来て2ヵ月経った頃におばあちゃんから紹介されたお隣に住んでいる柊くん。
なんでもおばあちゃん同士が同じ学校に通っていて、今でも柊くんの親と仲良しみたい。
週に3回の頻度でここに来てる。


「今日はどろだんごを作ってみるぞ!特別に俺が作り方教えてやるからな!」

「どろだんご?お砂で作るの?」

「そうだ!磨くとピカピカになるんだぞ!」


そう言うと私と伊月の手を引いて自分の家の庭へと誘導する。
手が泥と砂でベタベタして嫌だったが、それは最初だけで慣れてしまえば楽しくなってきていた。


「伊月のだんごは丸くできてるな!…楓のとは全然ちがう!
それはなんだ?でこぼこしてまん丸とは言えないぞ!」

「お姉ちゃん、それおだんご?」

「…おだんごだもん!ちょっとでこぼこしてるだけ!
ひいらぎくんのだってまん丸じゃないよ!」


楓の泥団子は丸とは言い難く、デコボコとしたジャガイモの様な形をしていた。
対して伊月の団子は丸に近く綺麗な出来栄えとなっていた。
紫苑の団子もジャガイモの様で楓のと同じようなものだった。


「…うまくいかない。
次はぜったいきれいなの作ってやるからな!」

「伊月はすごくきれいにできたね!
お家の前においておこうよ!」

「…お姉ちゃんにあげる」

「いいの?きれいにできたよ?」


伊月はこくりと頷いて団子を楓に差し出してくる。
ありがとう!と笑って返すと伊月も笑ってくれたのでとても嬉しい気持ちになった。


「あの、ひいらぎくん。」

「なんだ?別に俺はお前の何かいらないぞ!」

「……お顔にどろたくさんついてて汚いよ。」


そう言ったらいつもドヤ顔の紫苑の顔がまっかっかになって、「おっ、お前だって付いてるからなぁっ!俺だけじゃないんらぞ!」と彼らしくない慌てっぷりに伊月と一緒に笑ってしまった。


その後も紫苑はこちらに遊びに来ては連れ出されたり、私の方から遊びに行ったりもした。

5歳になった私の誕生日会には紫苑と紫苑のお母さんも来て祝ってくれたりもした。

そして私も大分この家に慣れ、一階にある和菓子屋さんに顔を出し店番をしているおばあちゃんの真似っ子をしたりもした。
おばあちゃんが着物を来て美しい所作で接客をしているのを見てとても羨ましくなったのだ。

よく来てくれる常連さんに頭を撫でてもらえるのも好きだった。
起きて寂しくなった伊月が私の隣にちょこんと座っておやつを食べて。
そこへ私達を遊びに誘おうと家にやって来た紫苑が乱入することも度々あった。


6歳の誕生日にはずっと着てみたかった和服を貰った。
おばあちゃんお手製のオレンジと赤と黄色のもみじの柄の小さな着物。
思っていたよりもお腹が苦しくて驚いた。


そして、7歳になって少し過ぎた頃から妙な夢を見るようになった。

おばあちゃんの家とは全然違う少し狭いお部屋で1人でご飯を食べている。
とても懐かしいと感じるのに私はここへは行ったことがないのだ。

思えば見える高さも全然違う。
大人の人と同じような高さになっている。
そして友達が私を呼ぶ名は秋篠楓では無い。


「ちひろ」

「かなたに、ちひろ。」

毎日、毎日違う場面の夢を見るがこれは同じだと続きの夢だと分かる。


「千尋〜課題終わってなくてさー、見せてよー!
アンタは私の希望なんだよ〜!」

「また?早紀さき、昨日も一昨日もずーっとだよね!?
毎回毎回そう言ってさー!」

「私今ゲームにハマってて課題してる余裕無いんすよ〜
はぁ、隼人はやとくんピュアっピュアでほんと可愛い〜!!
もう少しでハッピーエンドなのよね!!」


早紀と呼ばれた子は千尋という女の子に抱きついてゲームについて熱く語っている。
なんでも乙女ゲームという男の子のキャラクターと恋をするゲームだそうだ。

そして友達はそのキャラクターの1人の隼人くんとやらが好きらしい。


「千尋にも貸したよね?もうやったの?」

「うーん、まだ1人目。
なかなか好感度上がんなくて…」

「乙ゲー初心者には難しかったかな?
ちなみに、今誰ルートやってんの?」

「えっと、柊 紫苑くん。
俺様キャラでわがままっぽいんだけど根は優しくて可愛いかな。」


そこで私の目が覚めた。

柊 紫苑。
聞き覚えがありすぎる。
俺様っぽい性格とか、まさに。

流石に乙女ゲームのキャラクターだとか、信じられないし有り得ない。

それからもこの千尋と早紀は夢に出続けた。
この夢を見続けて1週間。


「私今日用事あって学校残んなきゃ行けなくてさ〜!
千尋ごめん!先帰ってもらえる?」

「うん、了解!じゃあまた明日ね。」


そう言って帰り道を歩く後ろからやってくる蛇行運転している車。
道は狭く辺りは暗い。
更には車がライトを付けていなかった。

女の子はそれに気付かない。

音が聞こえて振り返った一寸先には車が迫っていた。


夢はそこで終わりだった。
そして、夢から覚めた時私は分かってしまったのだ。
これは己の前世なのだと。


前に話にあった柊 紫苑はお隣に住んでいる男の子と同じであると。


「____っはぁ!!!」

大粒の汗をかき、肩で息をする程には私は動揺している。
なぜなら、


「このゲーム、悪役の子の名前……

“秋篠 楓”だ!!!」

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コメント

  • 鬼怒川 ますず

    面白い、書き方も私好みで表現も好きです(≧∀≦)

    1
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