悪役少女の奮闘記

ノベルバユーザー105455

楓、4歳

朝日がカーテンの隙間から漏れ、その眩しさに目が覚めた。

左にはお父さんがいびきをかきながら気持ちよさそうに寝ている。
私は起こさないようにそっと布団から出て良い匂いのする方へと足を運んだ。

そこにはエプロン姿のお母さんの姿が見える。


「お母さん、おはよう!今日は身体、調子いいの?」


そう尋ねるとお母さんはニコッと微笑みながらこちらを向く。


「おはよう楓。お母さん今日はとっても調子がいいの。」


だから久しぶりに朝ご飯作ってるの!と嬉しそうに話している。


「そうなの?お母さんのご飯久しぶりだから楽しみっ!」

私は秋篠楓あきしのかえで現在4歳。
目の前でニコニコと朝ご飯を作っているのが私のお母さんの秋篠華あきしのはな
まだ20代後半と若い。

なぜ体調を心配する必要があるのかと言うと、2年前お母さんは私の弟を出産した。
その際に身体を壊してしまい、床に伏せることが多くなったのだ。
それ以降はお父さんがお母さんの代わりに家事をするようになり、今日の様にお母さんの料理を食べる機会は減っていた。


「お母さん、調子良いなら前言ってた動物園行きたい!パンダのタンタン!」

「タンタン?そういえば、産まれた子パンダが先週から公開されてるって楓言ってたもんね。
お父さんがいいよって言ったら、みんなで行きましょう。」


私は嬉しくなって走ってお父さんを起こしに行った。
後ろから走ったら危ないわよ、とお母さんの声が聞こえた気がするけどそれよりも早くお父さんにいいよって言ってもらいたくて寝室に急いだ。

先ほどと変わらずいびきをかいて寝ているお父さんの上に乗り起きてと身体を揺らす。


「ん、ん~?楓…?あと、ごふん…」

「だめ!お父さん!今日、タンタン見に行くの!起きて!」


そう言うともぞもぞとお父さんが動き、目は開いていなかったがむくりと起き上がる。


「お母さんの調子次第だな…。ふわぁ、ん〜眠い。」

「お母さんね、今日調子いいんだって!ご飯作ってるのお母さんだよ!だからいいよね!」


お父さんはしょうがないなと言うとちょっと困ったように笑って、私の頭を撫でた。


朝ご飯を食べ終え、私は急いで着替える為に部屋へと向かう。
お気に入りのピンク色のワンピース。スカートの裾には白色フリルがついておりちょっとしたお姫様気分である。

ワンピースと悪戦苦闘しているとお母さんがやって来て着替えを手伝ってくれる。
最後にピンクや黄色、赤色の花が付いた麦わら帽子を私に被せて着替えは終了!

お母さんは弟の着替えに取り掛かっている。
私もお姉ちゃんなので手伝ってあげた。


目的地は電車を乗り継いで40分の場所にある動物園。
パンダを飼育している数少ない動物園である。
今回久しぶりにパンダの赤ちゃんが産まれ、先週から公開されているタンタンだ。

案の定凄まじい人の数である。
動物園内部へと繋がる入口には人がたくさん並んでいて、某遊園地を彷彿とさせる。

「ひと、たくさんだね!みんなタンタン見に来たのかな?」

「そうねぇ、客寄せパンダって言われるくらいだもの。きっとそうよ。」

「お父さんも実はパンダ見たことないんだ。入ったらすぐにパンダの所、行こうな。」


10分程たったら大分入口付近にまで近付き、遂に入園。
生憎パンダ達はこちらに背を向けていて顔を見ることは出来なかったがころころと寝転がったりパンダ同士でじゃれているのを見るのはとても可愛らしく見るものを笑顔にしていた。

弟もお父さんに肩車をしてもらっていて、上で手を挙げてキャッキャと楽しそうにしている。
かくいう私はお父さんにだっこされています。

パンダの次はキリン、レッサーパンダ、ゾウと園内を色々周りライオンブースでは弟が目を輝かせていた。

お母さんはふれあいコーナーのウサギやアヒルとふれあい離れる際にはとても名残惜しそうにしてた。

お父さんは特別展示の夜行性の動物コーナーのフクロウに興味を示している。


それぞれが見たいものをみんなで見に行き、気付いたらもう午後4時近く。
お父さんは明日仕事だということもあり駄々をこねた私を説得し帰路につくことに。


疲れきった私は電車の中で寝てしまっていた。
頭を撫でてくれているお母さんの手がとても気持ちが良い。

幸せだった1日が終わっちゃうな、と思いつつ寝ていた私の近くで聞こえた女性の耳を劈くような大きな悲鳴。

私は眠りから覚め眠気の残る頭で周りを見渡す。


「お母さ、なに……?」

「嫌っ、助け__!!」


状況がわからない私の声に被さって聞こえた助けを求める声。
よく見るとお母さんの顔色が悪い気がする。
なにがあったの?お母さん、体調わるくなっちゃった?お母さんに尋ねるが答えが返ってこない。

お父さんも険しい顔をしていて、抱いていた弟を私の方へと渡した。


「お父さんがいるから大丈夫だからな!
…楓、伊月。華愛してるからな。」

「私もですよ、徹さん。でも、行かないで。一緒に……!!」

「大丈夫。……頼んだ。」


そう言ってぎゅっと私達を抱き締めたお父さんは私達から離れていった。
お母さんは泣きそうな顔をしてお父さんとは反対側に私達を連れていく。
何でお父さんはあっちに行ったの?お母さん泣きそうだよ?聞きたいことは沢山あったが聞けなかった。


__目の前に目だけ出てる帽子をかぶった人がいたからだ。

お母さんは私達を庇うように立つ。
何か言っているが混乱する私の頭には入ってこなかった。


男は何かを振り上げるような動作をした。
お母さんは私達を抱きしめるかのように素早く庇う。

全てがスローモーションだった。
振り上げた銀色のものを振り下ろす瞬間も、お母さんの苦痛に歪む綺麗な顔も、生暖かい赤色液体が私の身体に振るのも全て。


「ごめんね、ごめんね…っ!!
大好きよ、愛してる楓っ、伊月……!!」


そして電車の緊急停車の音と揺れを感じ、開いたドアからは警察官が入ってきている。
目の前の男も取り押さえられたようだ。


お母さんも警察官に保護されすぐに救急車で病院に搬送されたが__


遺された私と弟。
弟がわんわん泣くのを宥めている。
私はお父さんとお母さんに何があったか頭では分かっていても心がついてこない。
私の家族は弟だけになってしまった。

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