『元』奴隷の少年と白銀の契約獣

楪 ひいろ

02 拒絶


※ここから少年視点です。
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 あの人の言葉を話す黒猫、リンと分かれてから僕はただひたすらに真っ直ぐに進んできた。
 途中、後ろから誰かに呼ばれた気がして振り返りそうになったり道が分かれていたりした。

 その度にリンの灯りが強く光ったり、僕の周りをぐるぐると回ったりして道を示してくれた。


 「・・・やっぱり・・・ここはヨルの森、なんだ・・・」

 前に人が話しているのを聞いたことがある。人を食らうモンスターや、魔物が住んでいるらしい。一度入ったら戻っては来れない、と。
 
・・・あの人の言葉を話す黒猫もこの森に住むと言われる魔物の類いなのだろうか?でも、今まで出会ったどの人間たちよりもずっと優しく僕に接してくれた。

 あの言葉や行動は嘘でただ僕を嵌めているのかも知れない、と少し考えたりもしたけれどもし僕を殺したいのならあの場で殺すこともできたと思う。それに、わざわざ怪我を治してくれたのも謎だ。

 でも僕は・・・ここから出たらきっとすぐに見つかって処分される。

 ・・・僕は、無力だから。自分の身すら守れない。大切なものもすべて失った。

 あと残されているのはこの体と命だけ。
 もし騙されていたとしても、ただ死ぬだけ。
 今まで死んだように生きてきたのだから、もう怖くない。

 外に出て殺されるくらいなら、僕はリンを信じよう。
 
 そんな思いを胸に、僕はだひたすらに真っ直ぐに歩き続けた。




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 しばらく歩き続けると、小さな川のほとりに着いた。
 3日以上飲まず食わずだった僕は手で水を掬い、必死に水を飲んだ。水が汚れているかもしれない、飲めない水なのかもしれないそう頭の隅で考えてはいても飲むことをやめられなかった。

 だいぶ喉の乾きも収まり、落ち着いた時に顔や手、足も洗うことにした。

 着ている服と呼べるのかわからない布切れも泥や血で汚れていたが濡れたものを着て、風邪をひく方が嫌だったので洗うのはやめておいた。
 
 リンの不思議な力、治癒魔法だと思われるもので治してもらった体の傷はもう残ってはいなかった。
 ただ、ここまで歩いてきたため裸足の足に多少の血が滲んでいた。
 手当てという手当てもできないので水で洗い流すだけ。
 痛みももうあまり感じなくなっていた。

 先はまだどれだけあるかわからない。
 ヨルの森は相変わらず暗く、今が夜なのか昼なのかよくわからない。
 暗闇の中でリンの灯りだけが頼りだった。


 僕はまたすぐ灯りの指す方へ歩き始めた。
 川に沿って真っ直ぐに進むと遠くの方に、リンの灯りとは違う別の光が見えた。あそこにヒナと呼ばれる女性がいるのだろうか、わからない。けれど僕はただ歩き続けた。



 その光の元へとたどり着くと、そこには小さな家があった。人が1人住むくらいの大きさの家が川のほとりにひっそりと建っていた。
 暗い森の中にその家の光だけが輝いている。

 僕は、勇気を振り絞り玄関へと向かった。
 呼び鈴を引こうとしたが、それらしきものはついていなかったため声をかけた。

 「・・・すみません。どなたか、いらっしゃいますか?」

 精一杯の声を振り絞り、中へと声をかける。
 そして、5回目の呼びかけをしようとした時ドアが少しだけ開いた。

 「すみません。こちらにヒナさ」
 「出ていって」

 僕の言葉を遮るようにして拒絶をしたのは長い黒髪で顔を隠した若い女性だった。
 邪魔そうに髪をかきわけ、耳にかける。
 そして現れた顔は、とてもこの世のものとは思えないほど整っている。
 しかし残念なことに、今はその美しい顔を憎悪で歪めている。

 「リンに言われてると思うけど、私は人間が嫌いなの。大嫌いなの。だからここから早く出ていって。この森を荒らさないで」
 
 僕に対して憎悪とも怒りとも言える感情をむき出しにして彼女は拒絶した。

 「い、やです・・・」
 口からこぼれたのは小さな声。理由を言わなければ、伝えなければと思っても体が動かない。
 長年奴隷として生きてきたせいで他人の言葉が怖く、逆らうことが出来なかった。

 「嫌と言われても無理。私はあなたに名を与える気は無い。人間は仲間として認めない。だから帰って」

 そう言うと彼女はドアを閉じてしまった。

 僕は、情けないことにそのまましばらく動くことが出来なかった。
 
 彼女に向けられた感情は冷たく、僕の心に刺さった。リンの言葉に少しだけ希望を持っていたことが今わかった。
 それを砕かれた僕は、どうすればいいのだろうか。
 また、森の外に出て処分されるか最悪、奴隷戻りしてあの日々に戻るのか。
 僕に光はなくただ、絶望するだけだった。

 変われると、思っていた。
 リンに言われた通りに胸を張って生きられるのかと思った。
 けど、現実はそんなに甘くなかった。
 やっぱり、僕は・・・。



 そして、僕の意識は暗闇へと落ちていった。

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