青春やり直し切符

春野夕立

第1章 第3話 新しい家族


"新しい人生に新しい家族がある"と
神様とやらはが言ってたが…

「とりあえず…新しい家とやらに帰ってみるか」

スマホを取り出しナビで
生徒手帳に書かれた向日市(むこうし)の
住所へ向かう。

スマホナビの案内通りに歩き、電車に乗り込む。電車の中には他の高校と思しき生徒や
会社帰りのサラリーマンが乗車していた。

向日市むこうし長岡京市ながおかきょうしの隣町だけあって1駅の差だった。

向日市の駅は向日町駅むこうまちえき
いう名で少し古びた印象を受ける駅だ。

駅前にはコンビニがあり、ここにも
他の高校の生徒や中学生が学校帰りの腹ごなしとばかりに買い物をしている。

"ぐぐぅ〜"

「…そういえば生き返ったばかりで何も食べてなかったな…」

腹減ったと鳴る腹をさすりコンビニに
入り、お茶と昆布のおにぎりを手にする。

"転生しても好きな物は変わらないんだな"

と昆布が好きなのを思い出し、心の中で
笑いながらレジに並ぶと前に並ぶ生徒に気が付く。

"同じ高校か…"

その生徒は同じ色のブレザーの制服を
身にまとい、スラリとした長い脚で
栗色の髪のポニーテールの女生徒が
立っていた。


「………!!!」
"スカート短けぇ…何年生だろ…ハッ、これが
青春ってやつか!"

チラチラとスカートから伸びる脚と
太ももから上に広がる絶対領域を見ながら心の中で
さっきとは違う喜びを感じていた。


順番が進み俺もレジを済ませて外に出て
買ったおにぎりを食べながらスマホのナビを
再開する。

おにぎりうめぇとムシャりながら
5分程歩くとナビが終了した。

着いたか…と思い目の前を見ると
そこは住宅街にあるごく普通の一軒家だった。

表札にもちゃんと"古川"と書かれている。

「えっと…どうしよ…チャイム鳴らすべき?
いやでも俺の家なんだろ…」

そうだ電話しようと思いスマホの
アドレス帳を開けるが、緊張してかけれない。
いやだって転生したんだし…新しい家族の顔とか知らないし…

ったく。神様もこんなの用意するくらいなら
もうちょっと段取りをだな…

「あれ、お兄ちゃん何やってんの?」

家の前で困惑しているとセーラー服を
着た女の子に声を掛けられたのだ。

ん?お兄ちゃん?妹…という事か?

「お兄ちゃん!聞いてんのー?」

聞き間違いじゃなかった!

「い、いやそのだな…カ、カギ無くしちゃって参ったなー…なんて」

「え〜またぁ?いい加減またパパとママに
怒られるよ〜」

上手く乗り切ったがどうなってんだよ。
え、何。俺今までカギ良くなくす奴になってんの?なにやってんだよ神様。もうちっといい設定付けといてくれ。

「この前あげたカギが予備で私もこれ一本
しか持ってないから、パパに言ってまた作って貰いなよ〜」

そう言いながら胸ポケットから
カギを取り出して玄関のドアを開ける。

俺はその時を見逃さなかった。胸の部分に付けられていた"古川 早苗ふるかわ さなえ"と書かれた名札を。
別に胸に目が行って偶然名札を見たとかじゃないから!

まぁあれだよ。これから大きくなるよ…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

家に入るもやはり他人の家という感覚が
あるのだが、何処か懐かしい様な感覚もあり
全く落ち着かないという訳でもなかった。

早苗に付いて行きリビングに入る。
3人ぐらい座れるソファがローテーブルを
挟んで対面に並び、テレビが備えられていた。

反対を見るとキッチンがあり、
そこでご飯を食べるのだろうテーブルと
イスが4つ置いてある。

そうやってリビングをキョロキョロしているとまたも妹の早苗が俺にビシっと指をさし
黄色い声をかける。

「お兄ちゃん何やってんの!さっさと脱ぐ!」

「……え?!  ふ、服を?!」

妹からの突然の脱衣命令で焦っていると
早苗はジト目になりながら俺を見る。

「お兄ちゃん?何考えてんの?制服のシャツとズボンだよ!洗濯するから!」


ああ!洗濯ね!分かってたよ、ほんとほんと!


「早く着替えて!部屋着は昨日お兄ちゃんの部屋に置いておいたから!」

「お、おう」


自室か…今まではボロアパートで
自分の部屋などなかったからな…

早苗に指さされた二階の方へと向かい
階段を上がる。

自室は二階廊下のどんつきでドアには
"はるか"と書かれた木製のプレートが
掛けられていた。

ドアを開け室内を見回す。

6畳程の広さでベッドと勉強机、CDコンポが
備え付けられていた。

「おお…これが俺の部屋か。おっ!」

本棚を見ると参考書が収められており
参考書だけではなくラノベも数作品
並べられていた。

転生前も本を読むのが好きで、学校の図書室に入り浸る事が多かった。それと教室に居場所がなかったのも理由の一つだ。

「"俺妹"に"バカテス"、その他諸々……なかなかこっちの俺もいい趣味してんな」

「自室…最高…!」

すっかり着替えるのを忘れて部屋の中を
探索しているとドアの向こうから早苗の"洗濯物!早く!"と急かす声とドンドンとドアを叩く音が
飛んできた。

急いでベッドの上に置かれていたジャージに
着替えてドアを開ける。

「悪い悪い。はい、頼むわ」

「ん。あ、そういえばお兄ちゃん。高校生初日はどうだった?今度こそ友達出来そう?」

「え?友達?」

「うん。友達」

どういうこと?こっちの俺は今まで友達居ない感じなの?あ"こっちの俺も"か。


「新しいクラスメートとLINE交換とか
してきた?」

「えっと……」
何て言えばいいんだ!友達なんか出来る
訳ないだろ!目が覚めたら突然高校生活始まってて神様に会ったりしてたんだぞ!


「あ、明日から本気出すわ…」

「まーたそんなこと言って。中学入学の時も、卒業した時も同じ事言ってたよ、高校入学した時に本気出すって」

おい、こっちの俺いい加減にしろよ。
何どこぞの駆逐艦みたいな事言ってんだよ、

「こ、今度こそ!本当だ!」

「はあー」

なんでため息付くんだよ。そんなに俺
信用ないのか。

「まあ、始まったばっかりだもんね!
頑張ってね、お兄ちゃん!」

何この笑顔。なんかキラキラしてんだけど…
この妹、超可愛い。
新しい家族とか以前にこの妹だけでも
十分暖かい上に幸せなんだが。

「お、おう…。あ、父さんと母さんは?」

妹の可愛いさと、こっちの俺の間抜けさ
に気をとられ両親の存在を忘れていのだ。


「あーなんかパパは帰り遅くなるってー。
ママはいつも通り7時ぐらいじゃない?」

「そっか。分かった」

いくら両親と言えど一度も会ったこともない
故にどんな人なのか気になり緊張が走る。

今までならば"母親"は俺を虐げる、
"父親"は強姦犯、親というものにろくな印象を持っていなかった。

あの踏切で神様は言った。
あの地獄の日々はもう無いと。
では普通の生活、普通の両親とはどんなものなのか。地獄ではないなら天国なのか。

そう考えているといつの間にか
寝てしまっていた。

仕方ない。なにせ今日俺は転生して
新しい人生、夢の高校生活が始まったのだから。

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