青春やり直し切符

春野夕立

第1章 第1話 何故、古川 遥は

望まれない子供。大人達は望まれない
子供なんていないとよく言うがそんなのは嘘だ。只の理想であり、妄想だ。

その証拠がこの俺だ。

俺の住んでいる家は母親と祖母との
3人暮らしで俺が物心の付く頃から
「悪魔の子供」なんて呼ばれていた。

理由は約15年前、母は強姦に合いその時に
運悪く妊娠し俺が生まれた。

そして成長するにつれ俺は犯人に似てきて
当時を思い出させるのだろう。
嫌ならばそのまま施設にでも放れば
いいのだが、子供を捨てる親というのは
世間体でまずい、という事でそのまま育てたそうだ。

だが内では俺を罵り、傷付けて来た。

そして俺が中学3年で15歳の時だ。

布団の中で、俺は寝ている所を母親に包丁で
腹を複数回刺され、流れる血と共に薄れ行く
意識の中、この世界を恨みを持ちながら死んだ。

「こんな世界、クソ…くらえ」

死んだ筈だった。




"キーンコーンカーンコーン"

「ん…あ…?」

俺は大きな音で目が覚めた。その
大きな音は学校のチャイムだった。

「何処だ…ここ…。」

辺りを見回すと見知らぬ教室に
見知らぬ生徒達、俺はその見知らぬ教室
の席で突っ伏して寝ていてた。

夢かと周りを見回すと
俺の席の目の前に女の人が近づき
話しかけてきた。

「古川…高校生活最初のホームルームで寝るとはいい度胸だなぁ」

は?高校生活って?誰…だ…?何で
俺の名前知ってんだよ…

「え…っと…はい?」

「はい…?じゃない!寝ぼけるのも大概に
しておけ!それとも教師を舐めているのか?!」

は?教師?全く意味が分からん…
その教師と名乗る女性は背が高く長い黒髪の
キリッとした印象だ。それに…なにか怒っている…とりあえず…

「す、すいません…気を付けます」

「はぁ…まあいい。次からは気をつけることだ」

こめかみに手を当てながらそう言って女教師は教室を出て行った。

どういうことだ…高校生活とか言ってたな。

再び教室を見回すと荷物をまとめ教室を出る
生徒やお喋りをしている生徒達。

出て行く生徒の流れに乗り俺も自分の
席に掛けられていた学生鞄を手に取り教室を出る。

とりあえず現状を認識しないと…
教室の黒板には入学おめでとうと書かれて
いたが…入学式か…?

ま、まずは誰も居ない所に行こう。

おぼつかない足取りで廊下を歩いていると
トイレを見つけて入る。

手洗い場の鏡を見るとそこには今までと変わりのない俺が立っていた。

顔は…変わりない…が全く見覚えがない
制服を身につけている。
高校生活…ということはタイムスリップでは
ない…夢…か?

ムニっとほっぺをつねるが…
痛い…なんだこれ。

ふと鞄の中を確認すると財布に携帯、
生徒手帳が入っていた。生徒手帳には
"京都府立桂高等学校"きょうとふりつかつらこうとうがっこうと書いてあった。

桂高校は俺が進学したいと思っていた
学校だ。そして生徒手帳の身分証明欄には
俺の名前、俺の顔写真とクラス、住所、そして入学年度は30年4月と書かれていた。

「俺が死んだのは29年10月だ…まさか俺は
生きていた?…記憶喪失か何か…?」

そう考えながら手帳を眺めていると
さらに異変に気付く。

住所が全く違うということだ。
俺の住所は長岡京市の筈が手帳には
向日市と書かれているのだ。

向日市むこうし長岡京市ながおかきょうしの隣町で俺の身内は
誰も居ない。つまり親戚の家ということも
有り得ないということだ。

「ますます意味が分からん…そうだ携帯…」

再び鞄を探り携帯を取り出す。
これも身に覚えがないスマートフォンだ。

ロックは掛かっておらず、
画面にはしっかりと30年4月17日と
映し出されていた。

他になにか情報は無いかと
アドレス帳を開くと"早苗"という名前と
"親父"、"お袋"の3人が登録されていた。

「親父…?」

俺には親父はいない。なんたって俺は
強姦によって宿された子供だからな…
母親はいたが"早苗"という人物は知らない。
祖母もそんな名前ではない。

確か祖母は…弘子ひろこ…だったかな。
そんで母親は…夏菜子かなこかなこだし…

他人の携帯かと思いアドレス帳にある
自分のプロフィールをタップすると
そこにはしっかりと自分の名前が
書かれていた。

次に財布を取り出すがこんな
長財布も覚えがない。そもそも小遣い
なんかなかったし財布すら持ってなかった。

中には千円札が2枚と少量の小銭、
そしてJRの定期券が入っており
定期券には"向日町⇄桂川"と書かれていた。

なにもかもに覚えがないのは不思議で
気持ちが悪い。少しでも何か思い出さないかと思い
トイレを出て学校内を見て回り、
自分の目が覚めた教室に戻り見回す。

「やっぱりなにも思い出せない…なんだよ
これ…。そうだ、家に戻れば何か…」

そう思い生徒手帳に記載してある
向日市の住所では無く、自分が住んでいた
長岡京市の家に向かうことにした。

進学した覚えのない学校を出て
電車に乗り込む。桂高校の場所も駅の
場所も知っていたのでスムーズに
乗ることが出来た。

しかしそれも不思議だったのだ。
記憶喪失ならなにもかもを忘れている
筈だろうが、駅の場所や道は把握している。

募る不安を抱えながら電車に
揺られ長岡京駅を降りる。

5分程歩き住んでいた自宅の前に着くが
そこには驚きの光景が広がっていた。

住んでいたアパートの部屋のドアには
立ち入り禁止と書かれた黄色いテープが貼られており、表札にはきちんと古川という名前が書かれていたのだ。

混乱のあまりドアの前で立ち尽くして
いるとテープの貼られた部屋の隣のドアが開き
初老のおばさんが出てきたが、
このおばさんは見覚えがあった。

「この部屋に用ですか?ここは誰も
居ませんよ」

「そ、そうですか。なにかあったんですか」

恐る恐る聞いてみる。

「ここには母子家庭の親子が住んでいたんだけどねぇ。その息子さんがお母さんに殺されたんだよ…」

殺…された?今殺されたって…聞き間違いか?いや、確かに殺されたと言った。それにこのおばさんは面識があったんだ。
ということは…俺は…?

「あぁっちょっと!」

不安が恐怖となり、怖さのあまりに
その場を逃げるように走り、後にした。

声をかけられていたがそんなのを気にしてる余裕
は無かった。

しばらく走り、公園に行き着き、
まさかと思いスマホで"長岡京 殺人 ニュース"
と検索した。

検索結果には俺の住んでいたアパートが
写っており、俺の母親が息子を殺したとして
写っていた。
そして殺された日も10月17日と書かれ、
母親の名前も完全に一致したのだ。

しかし殺された息子の名前が古川 大輝ふるかわ だいきと書かれていた。

俺の他には息子はいない。

「俺は…一体…誰だ…」



何もかもが分からなくてフラフラ
歩いていると電車の踏切が見えてきた。

「ここは確か…」

その踏切は俺が小学生時代に飛び込み自殺が
数件あった場所でそれを思い出したせいか
少しその場所が不気味に見えた。

「…そうだ…これが夢なら…」

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