僕らはきっと知っている

凪の岬

第一話  アップル 1

僕は普通の高校生。どこにでもいる普通の。
溜息に近い呼吸を繰り返す帰り道。ただ空には赤黒い色が残っているだけだった。
普通ってなんだ。わからない。最近わからないことばかりだ。勉強も。進路も。生きる意味さえも、わからない。そんなことを考えては消えていく泡のような気持ちは、しばらくすると再び沸きあがってくるのだった。こうして太陽が過ぎていくだけの日々。退屈というのだろうか。わからない。

「あら?お帰りなさい。ご飯できてるわよ。」
「・・・うん」

家に帰るとすでに食事の用意ができていた。入念に掃除したのか床が光を反射していて、余計に目の行き場をなくすことに少し困惑した。そそくさと部屋に戻る。今は何も考えたくない。とりあえず生きるためには口に物を運ばなくてはならない。
着替えをすませ、食卓の座につく。

「今日ね、お父さん、仕事遅いんだって。」
「・・・」
「あーそれから美香ちゃんも食べてくるっていってたわね。」
「ふーん・・」

美香は僕の妹だ。まぁ無理もないか。父さんはほんとうに仕事なんだろうか。なんにせよ、気まずい。

「浩ちゃん。」

その瞬間ぴくっと反応して危うく茶碗を落としそうになった。だがそれはほんの一瞬のことだった。

「食器は置いといていいからね。」
「うん・・ごちそうさま」

そう返事をすると浩一は部屋に戻ってベッドに横たわり、静かに目を閉じてとりとめもなく考え事を再開した。

今からちょうど一か月前。僕たち一家は交通事故にあった。今でもなまあたたかい血の記憶が鮮明に残っている。それから、あの人のことも。

ー大丈夫....安心してください....この技術は完璧なんです...どうです?...すばらしいでしょう?...これで救われる人はたくさんいるはずです...あなたがたにもわかっていただけるでしょう?




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