黒衣の虹姫

陸奥ユウト

Ep11

  登録を終えて教えてもらった宿屋に向かうため、ギルドを出ようとしたら190センチ位の筋肉マッチョなオッサンが仁王立ちしている。背中には身の丈ほどの斧がある。

「げっ!あの人、『豪腕』のグレアさんじゃないか」

「『豪腕』って確かAランクだったよな?」

「マジか、新人の子は不運だな。登録初日からあの人に絡まれるとは」

周りの声の情報ではこの人はAランクなのか、確かに周りからすればAランクのオッサンに対して私は登録初日でFランクの新人。端から勝負にすらなってない状況なのだろう。

「もう一度言ってやるが、ここはガキの来るところじゃない。さっさと帰ったほうが身のためだぜ」

「私はこれでも成人しているので子供ではないですよ、しかも冒険者は自分のことは自己責任が基本なので私のことは貴方には関係無いのでは?」

「ほう、それだけの口が利けるか。なら俺に怪我させられても自己責任と言うことだな!」

「そこの所はどうなんですか、受付さん?」

  振り向いてカウンターにいる受付嬢に聞く。

「冒険者どうしのいざこざはよくあるのですが、相手が余程の重症を負わせるか死亡させたりしない範疇でならギルドは無干渉です。相手を死なせてしまった場合は殺人犯として指名手配されます」

「そういう訳だ。後悔するなよ!」

  そう言ってグレアは斧を振り上げた。周りは止めようとしない。まぁ、やられる気も無いので対抗するため魔力を練る。



「止めんか、帰って来て早々騒がしい」

  ふと声がした方向を見ると、出入口に武術用の和服らしきものを着た狐の獣人の女性が立っていた。髪は黄色、背は150ほどだが一切の隙が見えない。一目でただ者ではないことが分かった。チラッとグレアを見ると、顔が真っ青になって震えている。

「け、け、け、『傾国』の姉御。戻って来てたんですかい?」

「今さっきじゃよ。それより、そっちの小娘は新人じゃろう。また新人に絡んでたのか?お前は」

「いや、あの、すんませんでしたー」

  そう言うとグレアは『傾国』と呼ばれた女性の横を走り去って行った。私は「やれやれ」と呆れている女性に話し掛ける

「助けてくれてありがとうございます。ところで貴方は……」

「儂か?儂の名はイズナ、巷で『傾国』と呼ばれとる」

「さっきグレアさんが貴方を見て震えてたんですけど……何でですか?」

「あ奴はしょっちゅう新人を弄りおっての、儂が何度か力ずくで止めたんじゃ。……しかし、手加減してやったと言うのに、そんなにSSSランクが怖いかの?」

「…………え?」

(SSSランクってアレだよね、世界に3人しかいないんだよね?その内の1人がこの人…)

一人で考えに耽っていると観察するような目でこちらを見ていた。

「な、何でしょうか?」

「……お主、名はなんという?」

「……ティアレスです。ティアレス・アークライン」

「そうか。お主は強くなりそうじゃからの、いずれ手合わせでも頼もうかの」

「分かりました。では、私はこれで」

  そう言ってギルドを後にした。

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