召喚してきた魔術王とか吸収してドッペルゲンガーやってます

走るちくわと核の冬

15.ドッペルゲンガーはそして旅立つ

「おい、賊は何処へ行ったんだ!?」

「いえ……さっきあの回廊を向こうへ駆けて行ったようですが……見失い、ました」

「またかよ!! クソっ、そもそも何で牢獄に放り込んだはずの奴がこんな所を走ってんだよ!?」

「逃走……ならこちらへ来ることはないかと。武装していましたし、もしかしたら愚……陛下の暗殺を諦めていない可能性も」

「あ゛ーっ!! せめて通路全部閉鎖出来れば、あとは包囲狭めて追い込めるってのに……なんで待機組が一人もいない・・・・・・・・・・んだよっ!!?」

「さ、さぁ? しかし流石守護騎士団の"脱兎のアシエ"、恐ろしい逃げ足の速さです……」

「あー、そうだな。まともに目で追うことすら出来やしねぇ。脚だけで騎士上がりした有名人ってだけあるな……顔は忘れたけどよ」

「そうですね、私も顔は忘れましたが……あーッ!! 今ッそこッびゅーんて! びゅーんて通りましたよ! ほらほらッ!!」

「追うぞっ! これ以上好き勝手に駆け回られたらマジでクビになる!」

「はいッ! …………あ、あちらに人が」

「おーい! 今怪しい男が駆け抜けてったろ? どっちだ、どっちへ行った!?」

「ククク……ええと、それでしたら曲がり角を左へ」

「……? とにかく左だな! よしお前、図書館周りに配置してた連中を全員こっちへ呼び戻して来い。この先は部屋は多いが袋小路だ、追い込むぞ!!」

「はいッ!!」

「ククク……」


……………………
…………
……


「……全ての部屋の捜索が完了、しかし……賊を完全に見失いました」

「どういうことだ!? 奴は確かにこっちへ」

「緊急報告!!」

「……どうした、嫌な予感しかしないが手短に言え」

「念のため陛下の安否を確認しに行ったところ、その……行方知れずに。部屋の痕跡から、何者かに拉致された可能性が非常に高いとのことです」

「ハァっ!?!? いや、いやいやいやいや! 愚王のおられる区画は近衛騎士団の本隊が完璧に……とにかく捜索だ! 大荷物を抱えての逃走なら、まだ王宮内に違いない。あと状況から察するに、あの"脱兎"以外の協力者が存在する可能性が濃厚だ。極力注意し」

「……あの」

「どうした? 時間はないぞ」

「その捜索、少し手を抜いちゃ駄目ですかね……ほら、あの陛下ってとってもアレですし……」

「気持ちは痛いくらい分かる。分かるが手は抜けないんだ。あんなアレでも、我が国の"最後の王族"だからな……」

「いや知ってますけど、それがどういう……?」

「この国は魔術国家だ。その王族が、どういう意味を持つか分かるか?」

「い、いえ……」

「サルナズーラは魔術で国を支えている。だけど、だからこそな……あの血脈の魔力パターンがないと機能しない魔術具が多過ぎるんだよ……腹立たしいことに、な 」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「やはり、シトリンはもう王宮を出たと?」

「はいメイド長、衛兵の話では普通に裏口から"外出"したと。この部屋の状態からみても、おそらくほぼ着の身着のままで」

「……そのようですね。これまで"愚王の寵愛"を受けてまともに現場復帰出来た者など一人もいませんでしたが……それでも"その日のうちに己の足で出奔する"だなんて、優秀なあの子らしいわ」

「…………そもそも彼女は、愚王と一晩を共にして何故平然と動けるのでしょう? あの"ヒトを壊すこと"を娯楽にするような相手と……いえ、失言でした」

「構いません。何故かあの子は以前より、これまで陛下がどのように"壊してきたか"を独自調査していたようでした。そして言っていました。確か……前準備として会話を楽しむ癖があるのなら……みたいなことを。おそらく口八丁で陛下を言いくるめて、己が身への被害を最小限に抑えた……のかしらね」

「掴み所のない彼女らしい話ですね。それでも結局……いえ、何をされたかまでは分かりませんし分かりたくもありませんが……こんな荷物を残したまま去ってしまうだなんて。あぁ、机に便箋も出しっ放しで……あら?」

「どうかしましたか? おや……これは」

「書き置き、ですね。こんなに涙の跡で文字が滲んで………… って、メイド長これはッ!?」

「!!……まさか、こんなことって……」

「"地下牢獄までを含めた王宮内見取図"に"警邏隊の巡回表"……そして書き置きには"王都転覆を企む国賊との接触記録"……つまり彼女が、今回の事件の内通者……!?」

「間違いないようです。……どうやらこの記録、いえ日記によると、あの子は以前から国賊の組織に勧誘を受け……いえ、脅されていたのね。そして"愚王の寵愛"に呼ばれたことが契機となって、せめて一矢報いるためにと……まだ自分が無事な前の晩のうちに、これらの資料の写しを手渡すに至った……」

「……あぁ、なんてことを……こんな、罪深い行いをしてまで、"せめてこれまで寵愛を受けた者達への餞に"、だなんて……」

「………………ひとつ命令を、いえ、お願いをしてもいいかしら」

「……メイド長?」

「ここには私達しか事実を知る者はおりません。ですから、この記録を見つけたのは"明日の出来事"としましょう」

「ッ!? ……それは」

「あの子なら、一日も時間を稼げば逃げ果せるくらい出来る気がするの。……いえ、それすら必要ないのかしら。それでも今私達にしてあげられることって、それくらいしかないでしょう?」

「……ふふ、陛下に仕える者失格ですね。メイド長も、わたくしも」

「そうね、でも肝心の御主人様が行方知れずなら、多分こういうこともあるでしょう」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ——やはり、自由というのは良いものだ。魔物としての本能だな、ククク……——

 王宮では魔術王の捜査のため隊の編成が急ピッチで行われている頃、その魔術王ことドッペルゲンガーは意気揚々と王都の目抜き通りを歩んでいた。
 その姿は、髪をブルネットに染め上げたモリオンのもの。それに服装も既にメイド服から平民風の旅装へと変わっている。化粧の効果により、周囲の者からはモリオンの実年齢よりだいぶ老け込んで見えるだろう。
 その服は記憶より《模倣》したものであるため、旅装としての最低限の機能すらないのだが、肌寒い外気も魔人であるためか全く気にならない。

 その背にはフェイクとして購入した水筒や保存食の包み、そして小さく小汚い鞄があった。
 どう見てもそこらの露店で叩き売りされているような鞄であるが、これは魔人が警備の隙を突いて宝物庫から持ち出した国宝級の魔道具だ。
 この世界では極めて使い手が少ない《空間魔術》の更に上位《時空間魔術》により、容量が大幅に拡張され重量も感じない優れもの、その名を『アイテムバッグ』という。
 この世界において《時空間魔術》の使い手は一人しかおらず、その魔術行使にも制限があるらしいので『アイテムバッグ』は極めて貴重な物だ。
 なお鞄のデザインについては製作者の"こだわり"だという。

 ちなみに現在その中には、宝物庫から共に持ち出した適当な金目の物がどっさりと入っていたりする。
 しかしいくら混乱の渦中でもこんな火事場泥棒が成立するのか……と思うかも知れないが、宝物庫エリアは王族フリーパスの結界に守られているため、人の目が極端に少ないのだ。
 そもそもかの魔術王は生前ちょくちょくと宝物庫から希少素材をちょろまかしていたため、その手癖の悪さは実に堂に行ったものであった。

 既に次の目的地は決まっている。
 一晩かけて割り出した地脈の集中するいくつかのパワースポット、しかも未開発であること。更に、辺鄙ながら人里から離れ過ぎていないなどの条件を加えて割り出した。
 おそらく魔人の保有する記憶の中で、最も魂の質が高く……しかも弱い"餌"の居場所。
 偏屈な"奴"ならばそこに住んでいるに違いないと、魔人の中の魔術王が確信を持っているのだから間違いないのだろう。


 魔人は歩む。
 いずれ世界を滅ぼすに値する能力を持つその存在は、しかしまだ芽吹いたばかり。
 世界に齎されたその危機と『ドッペルゲンガー』の名が知れ渡るのは、もう少しだけ先の話であった。








 ここまで読んで頂きありがとうございました。
 これにて「序章、誕生篇」は完結です。
 この後閑話を挟んでから新章「相棒篇」へと突入予定。お楽しみに。
 なお、ここまでは序章ということもあり全体的に陰のある……パッとしない展開になるよう留意しておりましたが、ここから色々とはっちゃける可能性が高いです。

 しかし救いはない。

 感想、指摘、要望等あれば一言どうぞ。作者のモチベが上昇します。



 なお投稿が遅れたのは最近始めた某キャンプ場管理人業が楽しげふん忙し過ぎたためであり、不可抗力なので悪しからず。
 ふわふわが足りない。

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