三日月の夜
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三日月の夜

  • あらすじ

     _授業終わりのチャイムが鳴った。
     僕は一目散に机の上に置いてあった勉強道具をカバンにしまうと、お弁当箱を取り出し屋上へと続く階段を駆け上がった。
     「やった、今日も居る。」
     僕は生まれて16年間、恋というものをしたことがなかった。
     でもこんな僕が初めて、心惹かれる人に出会えたのだ。
     話は一週間前の10月12日に遡る。
     __いつもの屋上でお弁当を食べようと、屋上へ続く階段を上がろうとした時。トントントン…階段を誰かが登る音がした。上履きの音だ。「こんな時に誰だろ…?」
     いつも独りの僕は、友達が居ない。見た感じも眼鏡をかけていて、前髪を目の際まで伸ばし、制服もしゃんと着こなしている。なにより、人に話しかけられると顔が真っ赤になってまともに話せなくなる。だから、クラスのみんなは昼休み、机を四角にしたり、椅子を移動したりしてお弁当を食べる中、僕は一人で屋上で食べていた。いつもは屋上でも一人なのに、今日は誰か居る。いつもの時間を邪魔されたような、見られたくないような、モヤモヤした気持ちのまま階段を上がっていった。「ガチャ。」古い緑色のドアを開けると教室が3つすっぽり入ってしまうような広々とした屋上がある。そこに、二人座るのが精一杯な小さなベンチが左から4つ置いてある。その左から2番目が、僕のいつもの定位置___のはずだったのに今日は違った。長い黒髪を伸ばし、背の高い彼女は、空を見上げているようにも見える。(げっ…。)
     恐る恐る近づいていくと不意に彼女が振り向いてきた。
     僕はその瞬間、感じたことのないような気持ちに襲われた。胸の奥がじんじんするような、ドキドキするような、変な気持ち。僕はこれがなんなのかこの時はまだ分からないでいた。これは、僕と彼女が織りなす、懐かしくも切ない、"青春"のまだほんの1ページにもすぎないー。

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