クロス・アート・ファンタジア
26.一難去って
「おい、大丈夫か?」
川上が朔也を揺さぶる。朔也からの反応はなかった。
「どうされました?ギルマス」
前髪が目にかかっている女性が川上に話しかけた。
どうやら川上と共に朔也たちを助けに来たらしい。
「あぁ、与謝野。こいつがちょっと精神的にやられたらしい」
「え?この子ですか?」
与謝野が朔也を指差してそう言う。
「どうやら死ぬことを悟ったようだ」
「あぁ……大変ですねぇ。私がおぶっていきますね」
そう言って与謝野は朔也をおぶった。
川上が黒金たちにも声をかける。
「おい、大丈夫か?」
「大丈……夫に……見えますか?」
「見えないなぁ、はっはっはっ」
「笑い事じゃないっすよ……」
「他のメンバーも次期に来る。病院に運んでやるからな」
「……お願いします」
そして、辻斬りとの相対から数日。辻斬りはどうやらなりを潜めたらしく、被害の報告がなくなった。中央からの感謝状ももらい、朔也のギルドは名声を上げていた。
一方、朔也はあの日以来任務をこなそうとせず、雑務にばかりついていた。
「マスター、あれはちょっと……」
「まずいな……」
川上と黒金が話している。与謝野も同じ場にいた。
「どうしますか?彼」
「やはり負った傷が大きいな」
「せめて任務の景色だけでも見せてやれませんか?」
「うーん、どうする?とりあえずは雑務に近い任務にさせるか?」
「そうした方が得策だと思いますよ?」
「俺もその方がいいかと」
「じゃあ決定だな」
「……黒金さん」
「ん?どうした、朔也」
「俺なんで馬車の荷台に乗ってるんすか?」
朔也はギルドからの任務で港町に向かう途中だった。
「なんでって任務で港町に荷物取りに行かないといけないだろ?」
「そうですよ、朔也くん」
二人の間にぬっと顔を出す与謝野。
それに朔也は驚いた。
「うおっ!あんた、誰!?」
「あんたとは失礼ですね。与謝野 安喜子です」
「与謝野……さん?同じ班だっけ?」
「班なんてコロコロ変わりますよ?」
「あっそうなの……」
訪れる沈黙。
ーー気まずいから、早く終われ!
一同、そう思った。
港町に到着した朔也たち。
「あぁ~、着いたぁっ!」
黒金が大きく伸びをする。
「で、運ばないといけない荷物はどこにあるんですか?」
「あぁ、第三倉庫に行けばいいらしいけど……」
黒金があたりをキョロキョロ見渡した。
「どうしたんですか?」
「なぁ、与謝野。第三倉庫ってどこ?」
与謝野が軽くため息をつく。
「……だと思いましたよ。こっちです」
手招きされる二人。
「与謝野さん、しっかりしてますね」
「まぁ、サポート役だからな」
「ふ~ん……」
朔也は目を細め、与謝野を見た。
どこか寂しそうな目をしていた。
港町の近く。
双眼鏡でその町を眺めている青年が一人。
「……おい、あの町であっているのか?」
青年は後ろにいた辻斬りに話しかける。
「えぇ、合ってますよ」
「あの町に何があるっていうんだ?」
「まぁ……あなたたちには価値はないと思います」
「……まぁ、いい。ボスも少しは喜ぶだろう。貴様が我々と組むことになればな、辻斬り」
「何かあったら呼んでください」
「それで、どれくらいで引き上げればいい?」
「そちらの最大戦力が殺られたら……ですかねぇ?」
「最大戦力が殺られるまでか。お前と交換したと思えば安い」
「では、私は行く所がありますので」
去っていく辻斬り。
青年はズボンのポケットから通信機のようなものを取り出した。
「おい、あの町だ。……俺の隊の中にあいつを入れておけ……そう“リキッド”だ」
「よっこいしょ」
「はい、こっちこっち」
朔也たちは輸送する荷物を馬車へ運んでいた。
「これ何が入ってんの、黒金さん」
「医療用の道具とかギルドに備え付けてあるものなら大概入ってる」
「うわぁ、荷物絶対多いじゃん」
「文句言うな~。運べ運べ」
「うおっ!」
朔也が手を滑らせて荷物が落ちそうになる。
そこに支える手が差しのべられた。
「あぁ、ありがとうございます」
「いえいえ」
差しのべられた手はさきほど町を眺めていた青年のものだった。
去っていく青年の背中を見つめる朔也。
ーーなんか変な雰囲気があったけど……気のせいか?
「お~い、早くしろ~」
「あー、はいはい!」
人通りの少ない倉庫の裏。
その青年が地面にしゃがんでいた。
チョークのようなもので地面に魔方陣を書いている。
「さて、久しぶりに暴れようか。出ておいて僕の軍隊」
書かれた魔方陣から白い煙のようなものがわき上がる。
「…………さぁ」
白い煙の中から魔物がぞくぞくと姿を現した。
魔物の行進が始まる。
青年が小刻みに震え笑い出した。
煙が収まっていく。
最後の一体が這い上がるように現れた。
それはかつて瞳の父を殺し、朔也たちを苦しめる元凶となった黒い何かだった。
「さぁ……大虐殺の始まりだぁ!」
青年は狂喜の笑みを浮かべていた。
川上が朔也を揺さぶる。朔也からの反応はなかった。
「どうされました?ギルマス」
前髪が目にかかっている女性が川上に話しかけた。
どうやら川上と共に朔也たちを助けに来たらしい。
「あぁ、与謝野。こいつがちょっと精神的にやられたらしい」
「え?この子ですか?」
与謝野が朔也を指差してそう言う。
「どうやら死ぬことを悟ったようだ」
「あぁ……大変ですねぇ。私がおぶっていきますね」
そう言って与謝野は朔也をおぶった。
川上が黒金たちにも声をかける。
「おい、大丈夫か?」
「大丈……夫に……見えますか?」
「見えないなぁ、はっはっはっ」
「笑い事じゃないっすよ……」
「他のメンバーも次期に来る。病院に運んでやるからな」
「……お願いします」
そして、辻斬りとの相対から数日。辻斬りはどうやらなりを潜めたらしく、被害の報告がなくなった。中央からの感謝状ももらい、朔也のギルドは名声を上げていた。
一方、朔也はあの日以来任務をこなそうとせず、雑務にばかりついていた。
「マスター、あれはちょっと……」
「まずいな……」
川上と黒金が話している。与謝野も同じ場にいた。
「どうしますか?彼」
「やはり負った傷が大きいな」
「せめて任務の景色だけでも見せてやれませんか?」
「うーん、どうする?とりあえずは雑務に近い任務にさせるか?」
「そうした方が得策だと思いますよ?」
「俺もその方がいいかと」
「じゃあ決定だな」
「……黒金さん」
「ん?どうした、朔也」
「俺なんで馬車の荷台に乗ってるんすか?」
朔也はギルドからの任務で港町に向かう途中だった。
「なんでって任務で港町に荷物取りに行かないといけないだろ?」
「そうですよ、朔也くん」
二人の間にぬっと顔を出す与謝野。
それに朔也は驚いた。
「うおっ!あんた、誰!?」
「あんたとは失礼ですね。与謝野 安喜子です」
「与謝野……さん?同じ班だっけ?」
「班なんてコロコロ変わりますよ?」
「あっそうなの……」
訪れる沈黙。
ーー気まずいから、早く終われ!
一同、そう思った。
港町に到着した朔也たち。
「あぁ~、着いたぁっ!」
黒金が大きく伸びをする。
「で、運ばないといけない荷物はどこにあるんですか?」
「あぁ、第三倉庫に行けばいいらしいけど……」
黒金があたりをキョロキョロ見渡した。
「どうしたんですか?」
「なぁ、与謝野。第三倉庫ってどこ?」
与謝野が軽くため息をつく。
「……だと思いましたよ。こっちです」
手招きされる二人。
「与謝野さん、しっかりしてますね」
「まぁ、サポート役だからな」
「ふ~ん……」
朔也は目を細め、与謝野を見た。
どこか寂しそうな目をしていた。
港町の近く。
双眼鏡でその町を眺めている青年が一人。
「……おい、あの町であっているのか?」
青年は後ろにいた辻斬りに話しかける。
「えぇ、合ってますよ」
「あの町に何があるっていうんだ?」
「まぁ……あなたたちには価値はないと思います」
「……まぁ、いい。ボスも少しは喜ぶだろう。貴様が我々と組むことになればな、辻斬り」
「何かあったら呼んでください」
「それで、どれくらいで引き上げればいい?」
「そちらの最大戦力が殺られたら……ですかねぇ?」
「最大戦力が殺られるまでか。お前と交換したと思えば安い」
「では、私は行く所がありますので」
去っていく辻斬り。
青年はズボンのポケットから通信機のようなものを取り出した。
「おい、あの町だ。……俺の隊の中にあいつを入れておけ……そう“リキッド”だ」
「よっこいしょ」
「はい、こっちこっち」
朔也たちは輸送する荷物を馬車へ運んでいた。
「これ何が入ってんの、黒金さん」
「医療用の道具とかギルドに備え付けてあるものなら大概入ってる」
「うわぁ、荷物絶対多いじゃん」
「文句言うな~。運べ運べ」
「うおっ!」
朔也が手を滑らせて荷物が落ちそうになる。
そこに支える手が差しのべられた。
「あぁ、ありがとうございます」
「いえいえ」
差しのべられた手はさきほど町を眺めていた青年のものだった。
去っていく青年の背中を見つめる朔也。
ーーなんか変な雰囲気があったけど……気のせいか?
「お~い、早くしろ~」
「あー、はいはい!」
人通りの少ない倉庫の裏。
その青年が地面にしゃがんでいた。
チョークのようなもので地面に魔方陣を書いている。
「さて、久しぶりに暴れようか。出ておいて僕の軍隊」
書かれた魔方陣から白い煙のようなものがわき上がる。
「…………さぁ」
白い煙の中から魔物がぞくぞくと姿を現した。
魔物の行進が始まる。
青年が小刻みに震え笑い出した。
煙が収まっていく。
最後の一体が這い上がるように現れた。
それはかつて瞳の父を殺し、朔也たちを苦しめる元凶となった黒い何かだった。
「さぁ……大虐殺の始まりだぁ!」
青年は狂喜の笑みを浮かべていた。
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