クロス・アート・ファンタジア

佐々木 空

25.そこに“死”がいた

 放たれる両者の炎。
 勢いは辻斬りの方が勝っているようだ。
 徐々に朔也の炎が押され始めた。

ーーヤバイ!押しきられる!
「辻斬り!」

 辻斬りの上から声がした。
 辻斬りは咄嗟に上を向く。
 笹森の拳が迫っていた。

ーー焼かれたというのに、タフですねぇ

 辻斬りは炎の放出を止め避ける。
 笹森の拳が地面を砕いた。

「笹森さん!跳んで!」

 朔也の叫び声。
 笹森に朔也の炎が襲おうとしていた。

「大丈夫です!」

 笹森は指示通り炎を避ける。
 再度辻斬りを狙う炎。
 地面から鉄格子が飛び出した。

ーーこれはさっきの!
ーー黒金さん!
ーー朔也……!これで決めろ!

 辻斬りは鳥籠に閉じ込められる。

ーーこれで、終わらせる!

 迫る炎。
 辻斬りは刀を地面に置き両手を合わせた。

「これで終わりだぁ!辻斬りぃ!」
「うわあぁぁぁぁ!!!」

 炎の中から辻斬りの叫び声が響く。
 朔也は炎を止めた。

ーーどうだ?

 炎が晴れる。

「なーんちゃんて」
ーー!!

 そこには無傷の辻斬りが立っていた。

ーーうそ……だろ……

 ゆっくりと刀を拾う。
 そして、鉄格子をバラバラに切り裂いた。

「作戦が安直ですねぇ」 

 辻斬りの脚に白い血管状の模様が浮かぶ。

ーーまずい!
「みんな!防御をーー」

 風が吹く。
 黒金と水戸部は斬られていた。

ーーえ?

 なす術もなく二人は倒れる。

「あと……二人」

 辻斬りは脚に再度ブースティングをかけた。

「くそぉ!」

 炎を放つ朔也。
 鮮血が飛び散った。
 それは笹森のものだった。

「あと……一人」

 人狼化が解けた笹森は地に伏す。

「さあ、どうしますか?」
「辻斬りぃ!!!」

 朔也の右腕から炎が燃え上がった。

「お前は……ここで止めないといけないんだ!!」

 目を細める辻斬り。

「なぜ?」
「もう誰も斬らせない為に!」
「じゃあ、どうする?」
「ここでお前を……!!!」

 朔也の頬から火の粉が出た。
 辻斬りの目が見開かれる。

ーーまさか!?
「お前をぉ!!!」

 顔から、胴体から、脚から。
 右半身全体から炎が燃え上がった。
 辻斬りは思わず笑みをこぼす。

ーーやはり、殺し合いたたかいこうでなくてはいけない……!

 朔也も自分の身体を見て驚いた。

ーーこれが、拡張か!?

 視線を脚に向ける。
 朔也は燃えている脚を見てあることを思いつく。

「さぁ、始めましょう。少年」

 構えられる刀。
 朔也は燃えている右足を地面に踏み込んだ。
 朔也の足から辻斬りに向かって地を這う炎が迫る。
 辻斬りは跳んで避けた。
 朔也の腕から放たれる炎。
 その放たれた炎の速さが以前とは桁違いだった。
 辻斬りは刀を下に向ける。
 刃から炎を地面に向け放った。
 その圧力で上昇し炎をかわす。
 右腕をブースティングする朔也。
 辻斬りは刃を朔也に向けた。
 朔也の腕から放たれる猛炎。
 辻斬りの刀から放たれた青炎は竜のような姿となり朔也の炎を迎え撃つ。

ーーなんて圧力!俺の炎では勝てない……!!

 朔也の炎を裂いて突き進む竜。
 地面から分厚い鉄の壁が飛び出した。
 竜はそれを突き破れず、その形を崩す。

ーーへぇ……
ーー黒金さん!
「朔也!もうお前しか戦えねぇ。お前しか!!」
ーーそうだ……俺しかいない。誰かを救うのも守るのも、俺しかいないんだダレモボクヲスクッテハクレナインダ

 朔也の脚に白い血管状の模様が浮かぶ。

「黒金さん!」
「おう!」 

 鉄の壁が粒子となって消えた。
 その瞬間、朔也は跳躍する。
 腕にも白い血管状の模様が浮かんだ。

ーー竜を出す隙も与えねぇ!
ーー早い!?

 両手を合わせる辻斬り。

「ボルケイノォ……!」

 朔也の腕に炎が渦巻き始めた。
 腕を引く。
 渦巻く炎と共に拳をーー。

「スマッシュ!!!」

 爆発の如く放たれた炎。

ーーどうだ?
ーーこれで決まってくれ!

 炎が晴れる。
 無傷の辻斬りが笑みを浮かべていた。 
 朔也の顔から希望という光が消える。

「若いとは素晴らしい。ですが、若き者はいつも自分の力に慢心する。いけない。とてもいけないことだ。少年、君は今日、身を持って知りなさい。自分の力で届かない壁の存在を、それを目の前にした時の絶望を、そして己の弱さを」

 辻斬りの刀から炎が噴き出す。

ーー殺られる……!
「君の拳では……誰も救えない」

 朔也には見えた。
 自分が斬られる未来が。青い炎の中で焼けていく自分の身体すがたが。バラバラにされ、焦がされた自分の屍が。そして今日、自分が終わるという運命が。
 朔也はそこに死を見いだした。
 垣間見えた“死”が朔也の全てを吸いつくす。
 
-人は魔物を内に飼っている。最も大きな魔物とは“死”
 あれは飼い主の全てを喰らいつくす“怪”だ-

ーー俺は……死ぬ

 ふと、白い閃光が煌めいた。
 辻斬りが驚いた表情を見せる。

「おやおや、ギルドマスターですか……」

 朔也の前にギルドマスターの川上が現れたのだ。
 川上の腕には黒いガントレットが装着されている。

「間に合って、良かったなっ!」

 川上から放たれた拳。
 刀で受け止めようとするも、地面に吹っ飛ばされる。

「ここは……一時退散としましょうかねぇ」

 脚にブースティングをかける辻斬り。

「まーー」

 川上が言葉を発しようとしたときには既に辻斬りの姿はなかった。

「ちっ、逃げ足の速いやつめ」

 川上は朔也の方に振り返った。

「おい、大丈夫か?新人」

 朔也は魂を吸いとられたように固まっている。
 その目に光はなかった。

「こいつは……まずいぞ……」

 川上の額から冷や汗が流れ、落ちた。  

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