クロス・アート・ファンタジア

佐々木 空

09.飛んで火に入り

 
 森奥山とある地下洞窟内。

「おい、あいつはまだ帰ってこないのか?」
「うーん、なんか氷のスペルを持ったガキに見つかったとか……」
「ガキ?アカデミーか?」
「かもしれないですねぇ」
「探すか?」
「了解」



 長門の氷はことごとく黒い壁に遮られていた。

「あの黒いのはなんだ……?」

 対峙している男は隙を見つけてはナイフを投げてくる。

――何本持ってんだよ!くそがっ!
「お前、なかなかやるな」
やわな鍛え方はしてねぇんだよ」
「そうか……」

 地面から黒い巨大な腕が現れた。

――やつのスペルか

 その腕が長門に降り下ろされる。
 長門の腕が白く光る。

――来い!

 腕が地面に打ち付けられた。
 砂ぼこりで視界が遮られている。

「若いからといって無理をすると……」

 砂ぼこりが晴れる。
 気絶した長門が倒れていた。



 トゲタートルの群れを突破した朔也たちはとある洞窟に辿り着いていた。

「こんなところに洞窟があったのか」
「あまり、入らないからな。危険だし先に行くぞ」
「でもちょっと興味ない?二人とも」
「ある!」
「ない」

 朔也と光で意見が別れる。日常茶飯事ではあるが。

「じゃあ多数決で入るの決定!」
「ちょっと!おい、話を聞け、瞳!」

 叫ぶ光を無視して二人は奥へと進む。

「これだから子供なんだよ……」

 光も渋々入ることにした。



「フゴォー!ンアアーー!ゴアーー!」

 口を塞がれている長門が騒いでいた。手足も縛られている。長門と同じ班の人も同様に捕らえられていた。

「こいつが氷のガキか?」
「はい、リーダー」

 二人の男がそう話した。リーダーと呼ばれた男ともう一人は長門と対峙していた男だった。

「おい、氷のガキ。俺たちは盗賊だ。盗賊に面白半分で喧嘩売るとどうなるか教えてやるよ」

 リーダーが一歩長門に近づく。

「リーダー!侵入者です!」

 遠くから叫ぶ声がした。

「ちっ、行くぞ!」

 リーダーともう一人の男は部屋から出ていった。

「………………」

 長門が拘束している布を凍らせた。

――ったく……、ちゃんとスペルは取っておかねぇとだめだろ。バカ族が……

 凍った布を割って拘束をほどく。

「あーあーあー、よし行くか」

 他の班の人も自分のスペルを使って拘束をほどいていた。

「長門、わざと捕まったのか!?」
「当たり前だろ。一旦相手の懐に忍び込み腹の中から食い散らかす。最高に気持ちいいじゃねぇか」
――しかし、あの黒い物体の正体が分からないのは不安だな……



「朔也……もしかして」
「あれじゃない?飛んで火に入る夏のアレ」
「虫だろ」

 朔也たちの前に盗賊たちが待ち構えていた。盗賊は各々の武器を構えている。

「とりあえず突破しようか……」

 光が右腕に水をまとい始める。

「やっぱりそうなるよな」

 朔也も右腕から炎を発生させる。

「ええー」

 渋々と瞳も右手のひらを構えた。

「行くぞ!野郎共!」

 盗賊たちの士気も上々。

「行くぜ!最大火力!」

 洞窟の前方を塞ぐような炎を放つ。
 が、しかし炎は黒い壁に遮られていた。

――朔也の炎を遮った。なんだ?あの壁は 

 炎の勢いが弱まると同時に黒い壁は粒子となって消えた。

「光、なんだあの黒いやつ」
「わからない……」
「悠長に相手を観察してる暇があんのかぁ!?」

 盗賊たちが襲いかかって来た。
 朔也たちは各々のスペルで牽制する。
 攻撃の隙を見つけてもその度に黒い壁に遮られていた。

「朔也、向こうにいる黒い壁を出してるあいつをぶっ飛ばさないといけないみたいだ」
「任しとけ!」 

 朔也は跳躍し黒い壁を出している男に迫る。

「たいした脚力だな。だが」

 黒い壁が朔也の前に現れる。

――これは破れない!
――俺にはこれがあるんだよ!

 朔也の腕に血管に沿った白い模様が現れた。

「ブースティング!」
――なんだ、この嫌な予感は!?
「スマッシュ!!」

 掛け声と共に黒い壁に直撃する拳。
 黒い壁は簡単に崩れ去り男も吹き飛ばされた。

「ぐぁっ!」
――やべぇ、魔力の消費が激しい……
「きっ、貴様ぁ……」
「最大火力!」

 朔也が容赦なく炎を男に浴びせる。
 男はその場に倒れた。

「よし、次を――」
「その必要はない」

 光が朔也の言葉を遮った。
 既に光と瞳の後ろには盗賊たちが倒れていた。

「お前ら、いつの間に……!」
「朔也があの男に仕掛けた時点であいつの注意はお前にしかなかったからな。大したことではない」



 三人は大広間に出た。大きな空洞となっているようだ。

「人がいるな」

 光が指を指した先には盗賊らしき男がいた。

「さっきの侵入者か」

 男は両手を地面につく。

――何をしている?

 地面から黒い物体が出てきた。それは何かを形作るかのように動いている。

「どうやら盗賊は同じスペルを複数持っているようだな」
「でも光、あの黒いのは一体なんなんだ?」
「わからん、お前は触ったんだからお前の方が分かるだろ」
「なんか軽かったな、硬いけど」
――軽くて、硬くて、黒い?
「ちょっ、二人とも前、前」
「「え?」」 

 目の前には巨大な黒いゴーレムがいた。

――ゴーレムを作っていたのか……! 

 ゴーレムが朔也たちを襲う。
 拳を叩きつける度にそこが砕けている。

「あんなの受けたら即死じゃねぇか!」
「口を動かしてないで頭を働かせろ!」

 ふと、冷気が足もとをさすった。

――!!

 刹那、ゴーレムは巨大な氷山の中だった。

――このスペルは!
「何チンタラやってんだぁ、光」
――めんどくさいのが来たもんだ……

 長門たちがそこにいた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品