クロス・アート・ファンタジア

佐々木 空

03.帰りたい

 アカデミーより西に二キロに位置するランダの森は魔物も比較的弱いものが多くファイターの育成に最適な場として知られている。

「……帰りたい」

 瞳がそう呟く。
 そう言うのも無理はなく、朔也と光は一切意志疎通を図ろうとはしない。同じ方向に歩いているだけでも奇跡と言えるかもしれない。

「二人とも……訓練なんだから協力しないと……」
「こんな時代遅れとなんか――」
「こんなクソ野郎となんか――」
「「絶対無理!!」」

 思わず瞳は溜め息をしてしまう。どうしてこうなってしまったのだろうか。瞳はアカデミーに入学したばかりのことを思い返した。



ーーーーーーーーーー
 いつだっただろうか。最初の試戦。そこまではずっと魔力操術や魔物の退治などが実技では中心を占めていたがこの試戦でついに生徒たちが直接対決をすることとなった。
 そこで朔也と光は初めて相対することとなる。

「お前が星野光か。成績いいって話をきくけど俺がぶっ飛ばしてやる!」
「五月蝿いな。弱い犬ほどよく吠えるって知らない?」
「喧嘩売ってんのか?」
「売ってる」

 場外からは他の生徒たちからの応援が聞こえてくる。瞳も二人の対決を見ていた。

――今までいいとこなしだった俺が一矢報いるとしたらここでこいつを倒すしかねぇ!
――五月蝿いバカを一瞬で黙らせる

 担任の佐藤が二人から数歩離れた場所で告げる。

「対人戦開始!」

 二人がお互いを目掛けて走る。
 拳が交錯して――。



 視線の先に照明があった。 

――あれ?

 朔也は床に仰向けに倒れていた。

――ん?戦いは?試戦をさっきまで?どういうこと?
「朔也!大丈夫か?」

 佐藤が朔也の所へ駆けつけて声をかける。

――喋れない?声、声?あれ、あれ?

 朔也は身体中に痛みが走るなか上体を起こした。光が場外へと歩いていくのが見えた。そうして、その視界がはっきりするかしないかのうちに朔也は意識を失う。意識を失う最中光の口元が動いたのを見た。



それ以来、朔也を見下す対象とする光と自分のプライドをへし折られた朔也との間には軋轢が生じていた。
              ーーーーーーーーーー



 二人を眺めながらそんなことを思い出していた。

――ん、そうか。私が中継役になればいいんだ
「ね、ねぇ光?」
「何?」

 光は朔也までとはいかないが冷たい声で返事をする。

「今日はまたスペル違うんだね?」
「この間手に入れた水系のスペル」

 そう言って光は左手首につけている黒いブレスレットを見せる。青くて丸い水晶のようなものが埋まっている。手を広げると水の塊が現れ手の上に浮いていた。

「ま、どっかの誰かさんはまだスペルの一つも持ち合わせてない時代遅れだけどね」
――しまった!
「ほぉ、てめぇ。今日の訓練で早速スペル手に入れるから覚悟しとけよ!」
――また空気がまずい方向へ……!
「そんな覚えたてのエネパンでどうするってのさ」
「とりあえず魔物を片っ端からぶっ飛ばせば手に入るんだろ?ならそうするだけだ」

 草を踏む音がした。

――!!

 三人が音のした方へ向く。
 肌は緑色で木で作ったような棍棒を持ったゴブリンが数匹いた。

「今回の討伐対象だな。戦闘体勢をとれ」
「うん」
「指図するんじゃねぇ!」

 ゴブリンの一匹が襲いかかってきた。

――とりあえず魔力を流して!

 そんな意識をしていた時、ゴブリン一匹を飲み込む放水がゴブリンを襲った。近くの樹木に打ち付けられたゴブリンはそのまま動かなくなった。

「まぁ、いいスペルだな」
――光のスペルかよ!

 他のゴブリンたちも襲いかかってくる。

「私も!」

 瞳がポケットから白い石がついた指輪を取り出す。
 人差し指にはめ、手のひらを前につきだした。
 手のひらから突風が吹く。
 風圧でゴブリンたちは樹木に叩きつけられた。

「瞳、全力を出しすぎだ。バテるぞ」
「あ、ごめん」

 突風をなくす瞳。 
 ゴブリンたちが力なく立ち上がった。

「よっしゃ俺も――」

 そう言うか言わないか。そんな一瞬で光はゴブリンを二匹仕留めていた。腕は仄かに白い光に包まれている。エネルギーパンチを用いたのだろう。
 背後からゴブリンが光に殴りにかかる。
 光が少し後ろを向いた。

「不意打ちのつもりか?」

 手から勢いよく噴射される水。
 ゴブリンは地面に叩きつけられた。

「凄い……」

 瞳が感嘆の声を漏らす。
 朔也は声も出せないようである。 
 光の顔が朔也の方へ向いた。

「朔也。何が魔物を片っ端からぶっ飛ばすだ。寝言は寝てから言え」
――この野郎……

 朔也は怒りに震えている。

「瞳、こいつらは殺すのか?」
「別にいいとは思うけど」

 先程地面に叩きつけられたゴブリンが立ち上がった。

「雑魚は、でしゃばるから――」

 光の腕が白い光に包まれる。
 そして光の拳がゴブリンに直撃した。

「雑魚なんだよ」

 倒れたゴブリンもまた白い光に包まれる。
 ゴブリンの体が白い粒子となって散り天へと昇っていく。

「消滅したか」
「うん」

 その後、その場にいたゴブリンたちを消滅させていった。



 ランダの森入り口。
 朔也たちの担任の佐藤が生徒たちの帰還を待っていた。
 ポケットにいれていたケータイから着信音が鳴る。

「あーはいはい」

 届いたメールを開けた。

[ヒノシシが下山、注意せよ]
――なっ!!

 ランダの森を見て冷たい汗を流す。ケータイでアカデミーに電話をかけた。

「もしもし佐藤です――」



 朔也たち一向はゴブリンの群れを討伐し帰路についていた。

「スペルの収穫はなかったな」
「そうだね」

 光が突然足を止める。

「どうしたの?」
「何かいる。ゴブリンか?」

 草むらからイノシシのような姿をした魔物が姿を現した。

「ヒノシシがなんでここに?」

 そう言っている最中、草むらから続々とヒノシシが現れだし周囲を囲まれる。奥から群れの主らしきヒノシシも出てきた。

「万事休す、四面楚歌ってか……」

 ヒノシシたちは口から火を吐いている。
 朔也はずっと主を見つめていた。
 

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