しん・魔法少女の冒険 ~序~
2話 シロ
世界はいつだってこんなはずじゃないことばかりだ。
嫌なことが、嫌なタイミングに何てことはよくある。
そんな理不尽を受け入れて、人は子供から大人に成長するのだろうか?
耐えて堪えて絶え忍ぶ事が、もし、仮に成長することだとしたら……。
私は、大人になんてなりたくない。
……
…………
いつしか、そんなことを思ったことがある。あれはそう…確かおばあちゃんがなくなった日。泣いてばかりいる私に「泣いちゃダメ、強くなりなさい」ってお母さんが私に言った日だ。
私の記憶にあるおばあちゃんはとても優しくて、笑顔が本当に可愛いくて、でもしわしわで、一度パンの生地みたいだね、と口に出してしまったことがある。おばあちゃんはそれを何が面白かったのか口にてを当ててクスクスと笑い私の頭を撫でてくれた。
そんな優しかったおばあちゃん。
そのおばあちゃんが亡くなって、泣くのは至極当然だろうに、お母さんは許してくれなかったのだ。
強いってなんだろ?泣くことは弱いことなの?じゃあ、涙はなんのためにあるの?
私は今より幼いながらにも考えた。でもやっぱり悲しくて涙は止まらなかった。両親にばれてはいけないと思い、トイレに駆け込み壁を背にして恨むようにすすり泣いた。
この哀しみを許されないのなら、それは私が間違ってるんじゃなくて、許容されないこの世界が間違ってるんだ――
そう考えていた。
「……んっ…。」
温かい光にあてられ、自然と目を開くと、目尻が何故か濡れていた。たまにあること、きっと夢でも見たのだろう。
「ここは……どこだろ」
少々乾いた喉が、イガイガする。周りを見渡したしてみるけれど、どこまでいっても見慣れない風景であった。これは某テーマパークですら見かけないだろう。
なんというか、幻想的?というか、神秘性?というか、まぁとにかくいろいろなものが違うが、決定的なのは決して人の手で造られたものではないということだ。
黄金に照る日中にも輝く月、スノードームのようにキラキラと写る雪、見渡せば一面の草原。物語のなかに私だけが取り込まれたかのような、そんな気分になる。
「うわぁ……」
口をあんぐりと開き、誰が見ても馬鹿面になっているであろう私は一つのあることに気づいた。
「これ……雪じゃ…ない?」
雪だと思っていた白いわたわたは私の手に乗ると水が弾けたかのように散って消えた。でも冷たくなど決してなく、むしろ暖かい、安らぐような感触だった。
「何なんだろ、ここって夢かな?」
一人ボソッと呟く。ありきたりだけど自分の頬をつねってみる。
チミッ
…
……
………痛い。
つまりは、夢じゃないということなのだろう。
「なら、ここは一体なんな――」
その時、懐かしい匂いの風が私の辺りに吹いた。
「ここなの?ここはね――」
声がした。聞いたことのない、私よりもそれは幼い声だったけども、何かとにかく懐かしい声が、聴こえた。
「ここはペンソー大陸。貴女は……誰なの?」
私は導かれるように、顔に手を添えられたように振り向く、すると一人の少女が佇んで私に微笑んでいた。
それはまるで、お姫様のようにキラキラとニコニコと、あんまり美しく微笑みかけてくるので、私まで思わず頬をつられてしまう。
そして、永遠の様に思われた一瞬の停滞は、意外にも私の意図しない無意識な発生で終わった。
「私は――白子。惟乃白子。あなたは?」
その妖精みたいなお姫様はクスクスと上品に口元に手を当てて一言紡いだ。
「偶然なの、シラコの名前と似ているの!」
そう言ってクスリともう一笑い、彼女は茶目っ気な顔をつくって後に続けた。
「シロはね、シロって言うの!」
そうか、この子はあれだ、おばあちゃんに似ている。
素敵な笑顔とか、香りとか、きっと性格まで色々。
「おばあちゃん……」
亡くなったおばあちゃんの事をふと思い出しているといつの間にかこの口はそんなことを言い出していた。
「むっ!」
「シロはおばあちゃんじゃない!9歳だもん!」
ほんのり紅いピンク色の頬っぺたをよりいっそう紅くし、膨らませるシロにやはり何時かのおばあちゃんを重ねてしまう。それだけで、私には出会って間もないシロの事を信じてもいいと思える信用を彼女に寄せていた。
「ごめんね、ちょっと昔を思い出しちゃって……それで、ペンソー大陸…だっけ、それってなに?今この場所の事?」
直訳するとえんぴつ大陸なのだが、っていうか英語だと捉えていいのか、ここは明らかに日本ではないのだが、その他の外国というにも信じがたい。つまりここは――
「違うの!ここはムールの在り処。あんまり人が来ないとこだよ。」
「ペンソー大陸は……何ていうか…そう!大きな岩が合体?して一つの大きな大陸で、地上で行ける場所は全部ペンソー大陸の中なの!!」
「そうなんだ……ってムールの在り処ってなに?」
「お姉さん大丈夫?本当にペンソー人?」
いや、ペンソー人てなんだ、えんぴつ人か、いやダサすぎるでしよ。違います。歴とした日本人でございます。
「ごめんね、ちょっと記憶がね……あはははハ」
一応それっぽい言葉で誤魔化してみる。
対してシロは驚いたようにパーの手を顔の前に、いかにもな反応を示した。そして我に返ったのか息をゆっくりと吸った。
深呼吸して一端落ち着いたのか、シロは私の目を見て先程とは異なる穏やかな声色で言った。
「そうだったの、あのねムールの在り処は言葉通りムールが降ってくる場所なの。」
「ムールはね、魔力の残骸、世界様が落とした栄養みたいなものなの。」
へぇ……そうなんだ。魔力のね………え?
「魔力?えっなにそれ教えてクワシク」
「お姉さんほんとに記憶が……いいえなの、魔力は心臓から血と共に体に循環しているもので無くてはならないものなの。だから、生きとし生ける者全てにあると言っても過言ではないの。因みにこの事は生まれてすぐに親からきちんと教えられるものなの。シロもそうだったの。」
魔力…魔力か。では自分にはあるのだろうか、このペンソー大陸のペンソー人では、私無いのだけど。
「なーんかお姉さん心配なの、これじゃ私がお姉さんみたいなの!」
「あはハ……」
その通りです何も言い返せません…。
いや待て、逆に考えるんだ。この子が賢すぎるんだと。そうしよう、うん、何か心の平穏が保たれた気がする………気がしたい(願望)
「ここにいても何なの。お姉さんも一緒に町に行くの。」
「え?あっ、うんそうだね。うんそうしよう」
やはり子供は行動力があって素晴らしい。私のような普通の女の子気取りのねじれ曲がった夢見少女(笑)とは別格の少女力である。……少女力ってなんだ?
「あー、それと私の名前、白子でいいよ。お姉さんって何か恥ずかしいし、まだそんな呼ばれかたするほど成長感じてないし…ね。」
「そうなの?じゃあシラコのことはシラねぇって呼ぶね!!」
うん、何か凄くやさぐれた感あるよね「知らねぇよそんなこと!!」的な?まぁこの子にそんなことを言う気にはなれないので、良しとする。
「じゃあ私は、シロって呼ぶね。」
「何はともあれ町までよろしく!」
「うん!ナニハトモアレ?町まで任されたの!シラねぇ!!!」
ここは日本ではないペンソー大陸と呼ばれる場所。
何の因果か私は、変な場所に来てしまった。
思い出すのは杖っぽいステッキ。きっとあれが原因だろう。知らないけど、きっと。
異世界だと、わかっても案外驚きはしなかった。あるのはアニメの知識とランドセルにぶっ刺さったステッキ。そしてほんの少しの心細さ。
これはあれかな。
私は、物語の主人公っぽい。
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