華のJK1なんだが受験に失敗したので高校に行くのが極めて憂鬱である

霧雨 蘭

帰路

じゃあね

日向さんの声を頭の中で反芻する。

扉にもたれかかった背中がじんわりと温かい。
春の日差しのせいかもしれないし日向さんの声がそうさせたのかもしれない。
規則的な揺れに眠気を誘われるが肩に食い込んだ手すりが少し痛い

私の帰る所は過疎だが学校の最寄りを通るこの電車はこの時間でも空いたほんの数席に他を差し置いて座るということをためらうくらいには混雑している。

上りのほうはもっと混んでいるというのだからご苦労さまだ。この電車の朝の混雑具合から想像した上り電車を想像してぞっと目が覚める。

次の駅で乗り換えたさらに数駅先で乗り換える電車は座席で横になってもいいくらいだ。
ならないけど。

ゆっくりと電車が止まって向かいの扉が開く

慣れない足取りで階段を下り乗り換えのホームに向かう。

今日は先客がいるようだ。重そうな紙袋を抱えて、、、抱えた女性、見覚えのある女性、

霧雨「あっ」

見覚えのある女性、否、橘、なんとかさんが声の方向に振り向く

橘「あ、あのときの」
 「霧雨さんだよね」

霧雨「橘、先生でしたよね。その節はご迷惑おかけしました」

思わぬ遭遇に軽く言葉を交える。その距離10メートルくらいだろうか。文学的に心の距離とでも言いたいが物理的な私と彼女の距離である。

この先この距離感で例の保健室よろしくふたりきりのこのホームと空いた車内をお互いの存在を認識したまま過ごすことには流石に気不味さを感じる。

ので

霧雨「その荷物、片方持ちましょうか」

そう言って近づく。

実際その荷物は彼女のシャツを捲った先に見える真っ白でか細い腕には重そうであった。

橘「これ、今日のテストなので、生徒に持たせるのはまずいようなまずくないようなー...みたいな、です」

霧雨「重いでしょう?まだ電車が来るまで時間ありますし下にでも置いたらどうです」

橘「なんだか申し訳ないというか。みんなが頑張って解いて書いたものだから、みたいな」

謙虚だ。

さいですか。そう心の中で返事をして遠くをみやる。

橘「この電車で帰るの、珍しいというか、奇遇というかですね。学校遠いでしょう?」

霧雨「そうですね。朝が早くて大変です。倒れちゃうくらいには」

橘「冗談になってませんよ。ほんとに焦ったんですから、あ、迷惑とかじゃなくってですね」

霧雨「あはは、本当にすいませんでした」

視界がばっと遮られて風が吹く。

開いた扉の先はがらりとしている。

端の席に腰掛けた彼女の横に失礼する。

橘「学校、慣れてきましたか、まだ数日ですけど」

ふと数人の顔が思い浮かんだ。

霧雨「そう、ですね」

でも

と、続けたかったが急すぎるかな。合って二回目の人にする話じゃないだろうか、ついそんなことを考えてしまうのが私の癖だ。

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