華のJK1なんだが受験に失敗したので高校に行くのが極めて憂鬱である

霧雨 蘭

学校から電車で二時間半程だろうか。ここは私の家、と言うにはちょっと違う。ような気持ちで住んでいる。

駅から少し歩くと通りに『扶郎館』と書かれた看板が目に入る。

すこし下れば海。登れば山の熱海温泉街の一角にあるこの館が高校三年間の私の拠点である。

扶郎館、という名前はガーベラの花の和名「扶郎花」に館を掛けたつもり、と聞いたことがある。確かガーベラには希望とか、前進、そんな花言葉があったように記憶している。
色によって花言葉が変わるなんて話もよくされていた、気がする。

どうやら残り少ない古風な和風家屋の旅館とのことで今ではそこそこ人気らしい。
その人気さ加減は私の幼少期のこの旅館の静けさと比べれば一目瞭然である。

高校三年間の拠点とは言ったものの中学生時代のほとんどはこの宿で過ごしている上、小さい時も祖父母と姉に世話してもらっていたのでさながら保育所のようにこの館に来ていた。

とにかく、今年の春からはここにしっかりと腰を据えて生活する。というだけのことだ。

別にここは嫌いでない。

むしろ心地がいいくらいである。

ほぼ貸切りのような旅館で遊び騒いで、お姉ちゃんと一緒によく怒られたものだ。

まぁ今この館にはいないのだが。

「 あ、蘭ちゃんー?帰ってきてはるならちょっと手伝ってくれへん?人手がたらへんのや 」

奥から祖母の声がする。

霧雨「 はいはい。いつものでええんやね? 」
祖母「 すまないね。ヨロシク頼むわね」

慣れた足取りで調理場に向かう。

祖父「 おう。お帰り蘭ちゃん。 」
  「 すまんな。お疲れ早々に働かせてしまって 」

私の祖父がそう言って出迎えてくれる。

霧雨「 なに改まってんのさ。いつものことでしょう 」

祖父「 そこのやつ、全部洗ってくれるか? 」

霧雨「 あちゃー、これは 」

いつものこと、とはいえ山盛りになった食器を見て思わずため息をつく。

霧雨「 やりますか 」

今度大きな食洗機でも導入しないかと提案しよう。そう心に決めて仕事に取り掛かる。

この祖父母一家のエセ関西弁は一応は本場仕込み、である。

祖父、祖母共に関西を転々としたあとにこちらへ来た経歴の持ち主らしく幼少、青年期の関西弁と大人になってからの標準語がごっちゃになったとかなんとか。

とにかく変な言葉遣いなのだがなんだかここにいると私まで口調が変わってしまう。

姉に至ってはいつでもあの口調だから笑ってしまう。

「あぁ、会いたいな。」

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