君を失った世界
hypocrite or?
「日香栞さーん?起きてくださーい」
「……ん…おはようございます…」
「はいはい。熱測って。」
「あ、大丈夫です。できます…。」
「あ、そう?じゃあ、仕事に戻るわね。」
「はい。」
また、今日が来た。色は感じずとも光は感じる。朝…だ。今日はあの人に会えるかな……なんて思いつつスリッパを履き病室を出る。
「朝の空気……吸わなきゃ……。」
朝の空気を吸うとスッキリできる。逆に言うと吸わなければ1日スッキリしないまま。でも嫌なことではない。逆に好きだ。
いつもの鍵を使って屋上へ行く。今日もいつもと変わらぬ景色。誰も私のことは覚えていないだろうし、知らないだろう。このままここから飛び立っても誰も知らないまま、皆はなにも知らないままいつも通りの生活を送る。
なにも悲しく無いはずなのに勝手に涙が流れる。涙を拭い、顔を上げると目の前に観覧車が見えた。
「観覧車……乗りたい…な。」
ぼそりと呟くと
「乗ったこと……ないの?僕はあるよ。しかも日本一大きな観覧車に乗ったことがあるんだ。」
聞き覚えのある声が聞こえた。
「…へっ……?!」
「あ、ごめんね。君が見えて追いかけたら屋上にいて……。驚かしちゃった……?」
「えと……ちょっとだけ……。」
いきなり来て驚いてしどろもどろな回答になってしまった。会話が続かない気がしたのでさっき言っていた観覧車のことについて聞いてみた。
「あの。その……観覧車ってどんな感じなんですか。えと、乗ったこと……ないから……。」
「そっか。観覧車はねぇー。すっごい高いよ。本当に人がゴマ粒ぐらいなんだ。景色がキレイだと本当に遠くまで見えるし。悩みなんてすっ飛ぶぐらいにすごいんだよ。」
「そっか……乗りたかったなぁ……。」
「あ、ごめん。あの……。」
「え、なんで謝るの。なにも悪いことは言ってないでしょう?」
「だって。乗りたかったってことはもう乗れないのかなって……。」
そう思わせてしまったのかと、思わずふふっと笑ってしまう。
「いいえ、そうじゃないの。もう病院からは出られないだろうから……。きっと乗れないだろうなーって。別に、死ぬ、とかじゃないよ?」
「あ、そうなのか……。あの、さ。聞いても……いい?」
「ん?なにを?」
「えと……天乃さんの……病気。」
「ああ、うん。」
「ごめん!辛かったら良いんだ!確かに言いずらいだろうからっ……。」
やっぱり私の言い方は誤解を招くのだろうか。
「いいえ、大丈夫。私はね……目の、病気、なんだ。珍しい病気。色が……見えないの。もう、きっと、元の色鮮やかな世界には戻れない。光とかは見えるんだけど、どうしても色だけが見えないの。」
静かな空間に戻る。
ああ。
彼もだ。彼も同じ反応だ。私の病気を知ってとりあえず可哀想…と言う。
可哀想な人を慰めてる私優しい……みたいな感情に、浸る。こっちからは丸見えなのだ。
偽善者が……。
「色が……見えない…ない……のか。」
「うん……」
彼は違うとどこかで思っていた。所詮人は人なのだ。誰しもがそう思うだろうな。
「あの、さ。余計なこと…かも知れないんだけど…。天乃さんの手伝い、しても良いかな。」
「へ……?」
予想していなかった答えに驚く。
「いや……多分さ、これは何色、何色って、言っていけばいつかは分かるようになるの……かなって。」
「うん。うん。多分。大丈夫……。」
「ええ?!なんで!なんで泣くの…!!」
思わず泣いてしまった。
嬉しくて。嬉しくて泣いてしまった。
「そんなこと…。言われたこと、ないから……ありがとう……ありがとう……。」
彼は私が泣き止むまでずっと抱きしめていてくれた。
なにも声をかけることなくただ、黙って抱きしめていてくれた。
久しぶりだ。
こんなにも人に、身近で優しく、暖かく抱かれるのは。忘れていた。
こんなにも嬉しい事なのか………。
………to be continued.
「……ん…おはようございます…」
「はいはい。熱測って。」
「あ、大丈夫です。できます…。」
「あ、そう?じゃあ、仕事に戻るわね。」
「はい。」
また、今日が来た。色は感じずとも光は感じる。朝…だ。今日はあの人に会えるかな……なんて思いつつスリッパを履き病室を出る。
「朝の空気……吸わなきゃ……。」
朝の空気を吸うとスッキリできる。逆に言うと吸わなければ1日スッキリしないまま。でも嫌なことではない。逆に好きだ。
いつもの鍵を使って屋上へ行く。今日もいつもと変わらぬ景色。誰も私のことは覚えていないだろうし、知らないだろう。このままここから飛び立っても誰も知らないまま、皆はなにも知らないままいつも通りの生活を送る。
なにも悲しく無いはずなのに勝手に涙が流れる。涙を拭い、顔を上げると目の前に観覧車が見えた。
「観覧車……乗りたい…な。」
ぼそりと呟くと
「乗ったこと……ないの?僕はあるよ。しかも日本一大きな観覧車に乗ったことがあるんだ。」
聞き覚えのある声が聞こえた。
「…へっ……?!」
「あ、ごめんね。君が見えて追いかけたら屋上にいて……。驚かしちゃった……?」
「えと……ちょっとだけ……。」
いきなり来て驚いてしどろもどろな回答になってしまった。会話が続かない気がしたのでさっき言っていた観覧車のことについて聞いてみた。
「あの。その……観覧車ってどんな感じなんですか。えと、乗ったこと……ないから……。」
「そっか。観覧車はねぇー。すっごい高いよ。本当に人がゴマ粒ぐらいなんだ。景色がキレイだと本当に遠くまで見えるし。悩みなんてすっ飛ぶぐらいにすごいんだよ。」
「そっか……乗りたかったなぁ……。」
「あ、ごめん。あの……。」
「え、なんで謝るの。なにも悪いことは言ってないでしょう?」
「だって。乗りたかったってことはもう乗れないのかなって……。」
そう思わせてしまったのかと、思わずふふっと笑ってしまう。
「いいえ、そうじゃないの。もう病院からは出られないだろうから……。きっと乗れないだろうなーって。別に、死ぬ、とかじゃないよ?」
「あ、そうなのか……。あの、さ。聞いても……いい?」
「ん?なにを?」
「えと……天乃さんの……病気。」
「ああ、うん。」
「ごめん!辛かったら良いんだ!確かに言いずらいだろうからっ……。」
やっぱり私の言い方は誤解を招くのだろうか。
「いいえ、大丈夫。私はね……目の、病気、なんだ。珍しい病気。色が……見えないの。もう、きっと、元の色鮮やかな世界には戻れない。光とかは見えるんだけど、どうしても色だけが見えないの。」
静かな空間に戻る。
ああ。
彼もだ。彼も同じ反応だ。私の病気を知ってとりあえず可哀想…と言う。
可哀想な人を慰めてる私優しい……みたいな感情に、浸る。こっちからは丸見えなのだ。
偽善者が……。
「色が……見えない…ない……のか。」
「うん……」
彼は違うとどこかで思っていた。所詮人は人なのだ。誰しもがそう思うだろうな。
「あの、さ。余計なこと…かも知れないんだけど…。天乃さんの手伝い、しても良いかな。」
「へ……?」
予想していなかった答えに驚く。
「いや……多分さ、これは何色、何色って、言っていけばいつかは分かるようになるの……かなって。」
「うん。うん。多分。大丈夫……。」
「ええ?!なんで!なんで泣くの…!!」
思わず泣いてしまった。
嬉しくて。嬉しくて泣いてしまった。
「そんなこと…。言われたこと、ないから……ありがとう……ありがとう……。」
彼は私が泣き止むまでずっと抱きしめていてくれた。
なにも声をかけることなくただ、黙って抱きしめていてくれた。
久しぶりだ。
こんなにも人に、身近で優しく、暖かく抱かれるのは。忘れていた。
こんなにも嬉しい事なのか………。
………to be continued.
「恋愛」の人気作品
書籍化作品
-
-
22803
-
-
381
-
-
361
-
-
2
-
-
93
-
-
1512
-
-
0
-
-
1359
-
-
15254
コメント