部活の後輩と付き合ってみた

きりんのつばさ

チョコ狂想曲〜前章〜



今回は凛子視点です






男性陣が国木田の家で駄弁っている同時刻……

与謝野先輩の家では事件が起きていた。

「う〜ん……」

「どうしたらこうなるのかしら……」

「……返す言葉もございません」

私と与謝野先輩は目の前にあるチョコ? であろう暗黒物体ダークマターを見て頭を悩ましていた。
元々私達はそれぞれの彼氏にあげるチョコを作るために与謝野先輩の家に集まり、チョコを作る予定であった。

「平塚のチョコはチョコというよりも……」

「いや先輩もう料理じゃないですよ、それ」

「……凛子、それは自分が一番分かっているから言わないでもらえませんか、私泣きそうだからね……」

とその物体を作った張本人である七海は見るからに落ち込んでいた。
それもそうだろう、本人が料理の腕が無いとは言えまさかここまで漫画の描写も真っ青な物体が出来上がるとは思わなかったのだろうから。

「凛子ちゃん、今回の失敗の要因分かる?」

与謝野先輩に言われて今回失敗した要因をその物体を見ながら考えてみる。そして見ながら思いついた要因は……

「……多分ですが小麦粉が多めで且つ焼き過ぎですかね」

見た限りだと今回黒い原因は焼き過ぎだろう。
火力が強すぎたか、長時間焼いたか、もしくは両方であろうと考えられる。

「おぉ〜流石森先輩関係以外では冷静な凛子〜!!
カッコいい〜!!」

そんな私の姿を見た七海は茶化しているのか褒めているのか分からない事を言ってきた。
……いや、完全に茶化しているな、この子。

「貴方ねぇ……!!」

「り、凛子ちゃん、どうどう」

「す、すみません……」

与謝野先輩に止められて怒る一歩手前で落ち着いた。
私は七海が言うほど冷静な性格では無い。
むしろ結構熱くなりやすい性格だ。
……最近熱くなるのは専ら七海か結城先輩関係だけど。

「まぁ平塚の料理の腕はここまで来ると最早一種の才能なんじゃないかと思っちゃうな……割と本当に」

「ふふん、これぞセンパイが甘やかした結果です!!」

「いや、それ自慢出来ないわよ……はぁ与謝野先輩
これからどうしますか、この物体?」

「うん……これだと私達のチョコが作らずに今日終わっちゃうね……まさかここまでかかるとは思わないよ」

と与謝野先輩も表情こそ笑っているけど七海の料理の腕には困惑しているようだった。
私達も七海に一番手がかかると思っていたので七海のチョコを作り終えてから自分達の作ろうと思っていたのだけどこれだと今日中に取りかかれるか不安になってきた。

「まぁ今日は私の両親いないからさ、夜遅くまでキッチンは使えるから時間は気にしなくていいかな」

「与謝野先輩のご両親がいない……?
ーーはっ、まさか私と凛子を夜襲う気ですか!?」

「くっくっくっ……バレたかね……そうだよ!!
1つ屋根の下……美少女と夜を過ごす……まさにロマン!!
この気を逃さずにーー」

「ーー七海、出来る限り早く終わらせるわよ」

私は身の危機を感じ、今以上にやる気を出した。

「凛子ちゃんーー!?
私ってそんな信頼ないかな!?」

「まぁ与謝野先輩っていつも暇があれば美少女に抱きついていますからね〜その手に関しては信頼ないですよ〜」

七海が私が言おうとした事をズバリと言ってくれた。

「クッ……私の夢が……野望が……美少女ハーレムが……
せめて凛子ちゃんのあの大きな胸ーー」

「ーー七海、私の家で作りましょうか」

「嘘だってごめんってば〜〜!!」

……この家には私意外まともな人はいないの?
なんて思いながら私は1人溜息をついた。







それからしばらくして……日が地平線に沈む頃

「う〜ん……」

「何とも言えませんね……」

私と与謝野先輩は七海が作ったチョコを見ていた。

「最初よりはチョコらしくなったけど……」

「なりましたけど……」

「えへん!! 私もやれば出来る子なんでーー」

「「最初よりはだけどね」」

「そこハモらなくていいですよ!?
分かってますよそりゃ!!」

確かに最初よりは上達した。
それは認めるのだけど……

「「まだ変に黒い……」」

「もう言わないで!? 私のライフ、ゼロだよ!!」

そうなのである。
チョコの種類にも黒いのはいくつもある。
だが今目の前にあるチョコの色はチョコの黒にしてはおかしいぐらい黒いのである。
……味に関しては味見した与謝野先輩が数秒意識を失ったのでような感じなのでご想像にお任せする。

「つ、次こそは……」

「七海、もうやめたら?
貴方が先輩に作ってあげたいには分かるけど……」

私にはこの子がさっきから本当に先輩の為を思って作っているのが充分伝わってきた。

ーー包丁で何度も指を切りながらも必至に材料を切って慣れない料理に挑戦しているのだから。
それは与謝野先輩も分かっているようで

「そうだよ、私か凛子ちゃんが作ったのを平塚が作ったって事にすれば……」

「ーーそれは嫌なんです!!」

「「えっ」」

七海にしては珍しく大きな声で言ってきた。

「だっていつも私はセンパイにもらってばっかなんです。
だから……バレンタインぐらいはせめてあの人に何かしてあげたいんですよ」

「七海……」

「平塚……」

「だから……いつも甘えてばかりの私の感謝を伝えたいんです……もうセンパイは来年卒業しちゃますし……」

そうだ。
国木田先輩は今年大学4年生になる。
普通に行けば来年の3月には大学を卒業する。
平塚にとっては私や与謝野先輩よりも彼氏と一緒にいれる時間が少ないのが彼女を不安にさせるのだろう。

ーーそんな彼女に対して私が出来る事と言えば……

「はぁ……その腕でよく言うわね……」

「ご、ごめん凛子」

「まったくよ……貴方のわがままには困ったものよ」

と言うと私は七海の隣に立った。

「凛子……?」

「国木田先輩に作るんでしょ? 美味しいチョコ」

「えっ」

「ほらボサッとしないで手を動かす。
とりあえず隣で見ててあげるからやってみなさい」

「で、でも凛子の分のチョコは……」

「私はほら料理慣れているからすぐ作れるわ」

……嘘をついた。
本当はとっても手のこんだチョコを作ろうと思っていた。
だけど七海のあんな表情を見たらほっとけないのが私の性格なのだろうと思う。
……私はやっぱり七海には甘いのだろう。

「り、凛子……」

「も、もうそんな今にも泣きそうな目で私を見ないの!!
ーー与謝野先輩、すみませんがもう少しキッチンお借りしまーー」

とこの家の主である先輩に声をかけようと先輩の方を見たのだげど……

「うぅぅぅ……」

与謝野先輩は既に泣いていた。

「与謝野先輩まで!?」

「り、凛子ちゃんが良い人過ぎて……!!
ぐすっ……私の家のキッチンでいいならいくらでも使いなよ!! 凛子ちゃんに免じて許可しよう!!」

「あ、ありがとうございます……」

なんかキッチンの使用許可がおりた。

「さて……作ろうか七海」

私は隣で泣きそうな顔をしている七海にそう言った。

「うん……うん!!」

と私達はチョコ作りを再開した。


ーーこの子に出会ってから数多くの迷惑をかけられた。

ーーでも、それ以上にこの子には感謝している。

ーー私にとっての初めての親友であるこの子が困っていたら助けるのが“親友”というものだろう。

(いや、流石にこれはキザすぎるわね……)

なんて心の中で思いながら苦笑している私であった。

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