部活の後輩と付き合ってみた

きりんのつばさ

親と子は似る

七海のお父さんが運転する車に乗せられる事
約1時間、七海の実家に到着した。
「着きました〜!! 懐かしいな〜!!」
「いや夏に帰ってきたでしょうが……
というか本当に着いちゃった……」
またもや到着した時の反応が正反対な僕ら。
「さっ、七海も拓海くんも入れ入れ」
とお父さんに促されて家の中に入ることにした。
「ただいま〜!!」
「あらお帰り〜七海、よく帰ってきたわね〜!!」
「……お邪魔します」
「拓海くんもいらっしゃい。
前に送った手羽先はどうだったかしら?」
「七海と一緒に美味しくいただきました。
いつも色々と送って下さりありがとうございます」
「いいのよいいのよ〜」
「そうだそうだ〜私が良いって言ったらいいのだ〜」
「ーーいつも七海のお世話をしてくれているから
これくらいお安い御用よ」
「あれそっちなの!? もしかしてちょくちょく
送られてくる名古屋名物ってまさかそれなの!?
せ、センパイはそうじゃないって思うよね?」
「……」
僕は七海から目線を逸らした。

ーー言えない。

ーー前に送られてきた時入っていた手紙の端っこに
"私達の娘のお世話をしてくれてありがとう"
って書いてあったとは。

ーー口が裂けても七海には言えない。

「センパイの薄情者〜!! 何か言ってよ〜!!」
「なぁ七海」
「あっ、遂に私の援護を」
七海がキラッと目を輝かせきたが
「ーーこの世には知らなくていい秘密もあるよ」
「それは余計に傷つくよ!?」
どうやらダメだったみたいだ。



「これから数日間お世話になります」
「知らない知らない。私の味方をしてくれない
センパイなんて知らないもん」
「ま、まぁまぁ七海。機嫌直してって」
「ふんッ」
と完全にヘソを曲げている僕の彼女。
「こら七海、彼氏の拓海くんの前でそんな態度
とらないの。拓海くんが困るでしょ?」
「僕は大丈夫ですって」
だってしょっちゅう見慣れているし。
「いいもん、しょっちゅうセンパイにしてるけど
全部受け止めてくれるから大丈夫だもん〜」
「……自分で言うなよ七海」
「だって事実だし〜間違ってないし〜
七海クオリティだし〜」
「あのね……」
僕が少し反論しようとしたところ
「ーーしょっちゅうってどういう事かしら七海?」
「「はいっ?」」
僕らがハモり、声のした方を見ると
「七海、あなたまさかだと思うけど毎日拓海くんに
ワガママを言ってないわよね?」
七海のお母さんが笑顔でそう言ってきた。
……なんだろう笑顔なのにとても怖い。
「い、いや〜そんな訳ないじゃん〜?
私がそんな彼女に見える?」
「さっき言っていたわよね?
"しょっちゅうセンパイにしてるけど"って
ーーこれってどういう事かしら?」
「あ、あのね、こ、これにはね深い理由が……」
「七海のお母さん、僕はあまり気にしてーー」
「ーー拓海くん、やめておけ……」
「なんでですか?」
と聞きながらも僕は薄々感じていた。
だって七海のお父さんはそう言いながらも足が
めちゃくちゃ震えているのが見て分かる。
……てかこの人、顔はヤ○ザなのに結構怖がりというか
弱点多くないか?
「俺の家内は怒ると凄く……」
「何かしらセ・ン・パ・イ?」
「ーー察してくれ」
「ぎ、御意」
何だろうか。
七海と言い方は似ているのにこんなに人に与える
印象が違ってくるのだろうか?
だって七海のお母さんに言われてから更にお父さんの
足の震えが酷くなっている。
……よく周りに鈍感だと言われる僕でも分かる。
これは本当に危ない、と。
「ちょっとセンパイにパパ!?
私から目線を逸らさないでよ!?
今、彼女と娘のピンチなん」
「あらあら七海は私の娘じゃないって言いたいの?
お母さん悲しいわ〜」
「い、いや違ってね。この言い方にはね
私なりの考えがあるんですよ、はい」
「ーーお話しましょうか七海」
そこには文句を言わせない笑顔があった。
「は、はい……」
「と、言うことで拓海くんとあなた。
七海を借りていきますね?」
「「ど、どうぞ……」」
と七海のお母さんがリビングを出て行くと七海も
有無も言わず出て行った。



そして2人が出て行ったリビングに残った僕とお父さん。
「なぁ拓海くん」
「はい、なんでしょうか?」
「この家のルールを教えよう」
「……もう9割方分かりました」
だってさっきの光景を見たら察するだろう。
「だろうな。でも改めて言っておく。
ーー俺の家内に逆らうな」
「でしょうね。そんな気がしました」
「それさえ守れば大丈夫だ。基本的には優しいのだが
たまにな、たまに烈火のごとくキレる。
ーーちなみにさっきのは危険レベル5段階のうち
レベル2だ。そして今七海の前では4ぐらいだな」
「ちなみにレベル5になった事があるんですか?」
「あぁ一度だけな。俺が怒らせた」
何となくそんな気がしていた。
「何してるんですか……」
「い、いやだなあれは仕方ないんだよ。
七海が産まれたばかりの頃に飲み過ぎてな。 
深夜に帰ってきたら玄関に仁王立ちの家内が……」
「あっ、結末分かりました」
「だろ。だからな、俺はあの時決めた。
ーー家内を決して怒らせない様にしようと」
「完全に年下の奥さんの尻に引かれてますね」
「まぁ否定しないが、拓海くんは将来的には
多分そうなるぞ。だって親と子は似るってーー」
「まぁまぁあなたはお喋りなのは七海とそっくりね。
ーーで、何が似ているのかしらね?」
「げっ……」
「ふふっ、あなたは何をしているのかしら?」
そこには再び有無を言わせない笑顔のお母さんと
「……」
後ろに何故か何も言わない七海がいた。
多分怒られたショックで立ち直れないのだろう。
「こ、これだな……拓海くんに将来の夫婦の心構えを
教えておこうと思ってな」
「へぇ〜で、拓海くん本当かしら?」
「……」
「ちょっと拓海くん!? 俺を裏切るのか!!」
すみませんお父さん。
あなたの奥さん怖いので巻き添えはゴメンなんです。
「拓海くん、ちょっとウチの人借りるわね?」
「御意」
「今度国木田先輩(僕の親父)に言ってやるかーー」
「その前に私があの先輩にあなたをしごいて
もらえるように言いますよ
ーーあ・な・た、こっちに来なさい」
「は、はい……」
と今度はお父さんがリビングから出て言った。


「何してるんですか……本当に」
ある意味親と子は似るというのを実感した日だった。

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