異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を堕とし、国を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~

kiki

Ex7 共食いする恋人たち

 




 白金姉妹が堕ちてから数日後。
 とあるホテルの一室に、エリスと都の姿があった。

 エリスはベッドの上にあぐらをかき、千草に与えられた”すまほ”なる道具を不思議そうに眺めている。
 都は椅子に腰掛け、退屈そうにテレビのニュースを眺めていた。
 報じられているのはもちろん、続く殺人事件の話題。
 もはや殺人と呼ぶには規模が大きくなりすぎたせいか、連日どこの局も同じ事件の情報ばかりを流している。
 警察だけでは手に負えなくなり、自衛隊まで出るのではないかという話まで出始めていた。
 もっとも、誰が出てこようが、彼女らが止まることはないのだが。

「ねーねーミヤコ、ちょっとお姉さまについて聞きたいことがあるんだけどさ」
「ちーちゃんがどうかしたの?」

 都は緑茶の入ったマグカップをテーブルに置くと、体を捻ってエリスの方を見た。
 エリスはスマホいじりに飽きたのか、ベッドの上に投げ出す。

「ほら、今ちょうど両親に会いに行ってるんでしょ? 私も廃棄街育ちで親の記憶とかほとんど無いからあんまり話題にしなかったんだけど。お姉さま、両親との間に何か問題でもあったのかなーって」

 その場にエリスと都しか居ないのは、千草が親と再会しているからだ。
 最初は2人ともついていくと言っていたのだが、やんわりと断られてしまった。
 これは自分で消し去らなければならないしがらみだから、と。
 珍しく曇った表情を見せて。
 都はエリスの問いに、椅子の背もたれに体を預けて、大きくため息をついた。

「私は直接見たわけじゃないから、詳しくはわかんないんだけどね。ちーちゃんは8歳のときに母親に捨てられて、ずっと父親に育てられてきた。けどその父親も精神的に不安定な人で、よくちーちゃんに暴力を振るってたんだって」
「クズだね、殺さなきゃ」
「同意見。でもその決着をちーちゃん自身がつけたいって言ってるんだから、その意思は尊重されるべきだと思うな」

 千草の意思の尊重。
 それはエリスだって承知している、それでも愛しのお姉さまを傷つけた男の存在を許せるものではないが。
 彼女は不貞腐れた様子で言った。

「いくら父親と言えど男なわけじゃん? 今のお姉さまなら”どうでもいい”って思いそうだけど」
「ほら、ちーちゃんは私達と吸血鬼になった経緯が違うから。そのあたりの変化も違うんじゃないかな」
「お姉様が男を容赦なく殺せるのは、元々そういう人間だったから、ってこと?」
「全部が全部ちーちゃんの願望とは思わないけど、それでも、根絶やしを誓うには十分すぎるほどの仕打ちは受けてきと思う」

 そのうちのある程度を、都は自分の目で目撃している。
 思い出す度に、あれを止められなかったこと、むしろ加担してしまった自分の罪を思い出し、胸が苦しくなる。
 顔をしかめる彼女を見て、エリスは慌てて話題を変えた。

「そ、そういや、ミヤコの両親はどうしてんの?」
「ずいぶんと会ってないかな、連絡ぐらいは取ってたけど。どうしてるんだろうね、私が行方不明になったってことは伝わってるはずだし、落ち込んで体調崩してないといいんだけど」
「だったら、早く会いに行った方がいいんじゃない?」
「んー、でもお父さん殺さないといけないし、そっからお母さんのこと堕とすわけでしょ? そうなると意外と面倒そうな……ああ、でも思い出すとお母さんのこと堕としたくなっちゃうな、そこそこ年は行ってるけど、抱いたら気持ちよさそうな体型だもん」

 実の母親を抱く自分を想像し、ほんのり頬が染まる。
 自分を産んでくれた人を快楽の高みに導くことは、今や彼女にとってまっとうな恩返しだった。

「私はあんまり、そこまで年齢上の人を堕とした覚えはないかなー……」
「結構いいよ、性欲も強いからノリノリで付き合ってくれるし。一回体に教え込んであげれば、魅了が終わらなくても自分から体開いてくれたりするしね」
「へえ、変に処女こじらせてて抵抗強いよりいいのかな。今度つまみ食いしてみよっと」

 現在進行形で半吸血鬼デミヴァンプは着々と勢力を強めている。
 もちろんその静かなる侵略にはエリスや都も参加しており、街で見かけただけの女性を堕とすことなど日常茶飯事だった。
 エリスは”今度”と言ったが、おそらく明日にでも事は成されるはずだ。
 もっとも、世の女性の警戒心が増して居るのか、以前のように簡単に路地裏に誘い出すことはできなくなってしまった。
 最近では影で鍵を開いて、家に押し入って強引に魔力を注ぎ込むことが多い。
 強引なのもそれはそれで、エリスは気に入ってはいるのだが。

「ん……」

 ベッドの上で座るエリスは、小さく喉から声を漏らすと、口をへの字に曲げた状態で身をよじった。
 体が熱を帯びている。
 都の母親や、明日堕とすであろう女性のことを想像し、性欲が喚起されてしまったようだ。
 エリスはベッドから降りると、物憂げに虚空を見上げる都を、後ろから抱きしめた。
 回された手に、都の手が重なる。
 足音などは隠していなかったので、ある程度近づいてきた時点で彼女も気づいていたのだ。
 そして気づいた上で、拒まない。受け入れる。
 言葉での許諾は必要ない、触れることが許された時点ですでに完了しているのだから。
 エリスの手が服の上から都の体をまさぐる。
 くすぐったい、もどかしい感覚に、彼女は微笑みながら「んっ……」と色っぽい声を出した。
 やがて這い回っていた手が上着のボタンに向かい、一つ一つ外し始める。

「ねえエリスぅ、ここでするの? ベッドの方がよくない?」
「こういうのも悪くないけど、やっぱ椅子の上じゃ窮屈か。じゃあベッドに行こっか」

 エリスは椅子の前方に回り込むと、エスコートするように手を差し出す。
 前を開けさせた都はその手を掴み立ち上がり、2人はじゃれ合いながらベッドへ向かった。
 前戯のさらに前戯とでも言わんばかりに、体に触れ合い、頬や耳、そして唇で軽いキスを何度も交わす。
 先に仕掛けてきたのがエリスの時点で、今日の役割分担は決まっていた。

「んっ、あふ、やぁんっ」

 都は甘えたような声を出しながら、ベッドの縁に腰掛けた。
 その状態で、エリスの唇が彼女の首にある”印”に触れる。

「んああぁぁぁぁあんっ!」

 豊満な体が、甲高い喘ぎ声と共に跳ねた。
 それに乗じて、エリスは都を押し倒し、膝立ちの体勢で上気する表情を見下ろす。
 千草と行為をする時は基本的にエリスがネコ・・になるが、都相手の時は半々ぐらいで変化する。
 ただし、相手を堕とすという立場上、吸血する相手に対してはタチ・・になることが多いが。

「んは……はぁ……ねえエリス、私いっつも、いきなり印を責めるのはナシって言ってなかったっけ?」
「”もっとやって”って願望の裏返しかと思ってた」

 いたずらっぽく笑うエリス。
 都はこっそりと影を伸ばし、そんな彼女の上着の下に潜り込ませた。

「んひゃわっ!?」

 へその下にある印を刺激され、のけぞるエリス。
 リベンジ成功、と口元に手を当て悪い笑みを浮かべる都を、彼女は睨みつけた。

「ミヤコめ、やってくれたなぁ……?」
「言っとくけど、先に仕掛けてきたのはエリスの方だからね」
「うっさいやい、そーいう生意気なこと言うやつは、呼吸できなくなるまで印攻めにしてやろうじゃない」

 都は”どうぞ”と言わんばかりに、顔をくいっと上げて首をさらけ出す。
 エリスはそこに手を伸ばし、ハートを上から人差し指でなぞった。

「あ……んぁ、ぁぁあ……っ」

 唇で吸い付かれるのとは違う、ゆるりとした気持ちよさに、都の喉が震える。
 彼女の意識が快楽で蕩け、無防備な表情を見せ始めた所で、エリスはにやりと口角を上げ、カリッとそこを爪で引っ掻いた。

「ひゃううぅぅぅんっ!」

 エリスの思惑通り、都はひときわ大きなリアクションを見せる。
 さらに人差し指を立てて、爪ではなく腹の部分で強めにぐりぐりと押しつぶすと、体をブリッジさせたまま喘ぎ続ける。

「は、あおぉ……おぉっ、ほっ、ほおぉぉおおっ!」
「なんだかんだ、ミヤコはMだよね。ちょっと痛めにした方が嬉しそうにしてる」

 自分だって責められた時は嬉しそうにしてるくせに、と都は反論したかったのだが――

「んぁっ、あぁァァあんっ!」

 エリスの指に遮られ、言葉になることはなかった。
 喘ぐ都の顔を十分に堪能した彼女は、次は口を近づける。
 ちゅう、ちゅう、とわざとらしくキスマークを付けながら、何度も印を吸い上げた。

「はっ、はあぁっ、ぁ、ぇうっ」

 今度は唾液を分泌させた唇の裏側、むちゅ、と音を立てながら食む。

「んっ、ひううぅぅぅんっ、ぅ、ぁおっ、ほぉっ!」

 最後に、じゅばっ、じゅぶっ、と音を立てながら舐めしゃぶる。

「くうぅぅぅぅぅんっ! んふうぅっ、ふぁっ、ほっ、おぉんううぅぅっ!」

 都の体がピンと張り詰め、ビクビクと震える。
 そしてぐったりとベッドに体を沈ませ、大きく胸を上下させる姿を見て、エリスは満足げだ。

「はぁ……はあぁ……はぁ……」
「さいっこーにやらしくて下品だったよ、ミヤコの顔」
「っ……ふぅ……褒めてるの、それ?」
「私なりの最高の賛辞ですケド」

 言葉だけでは納得しないようすだったので、エリスは唇を重ねた。
 自然と都の唇が開き、2人の赤い舌と紅色の視線が絡み合う。
 フレンチキスの長さは、彼女たちにしては短めの数十秒ほど。
 ちゅぱっ、と口元を唾液で汚しつつ口を離すと、鼻と鼻が触れ合うほどの近さで見つめ合った。

「ねーミヤコ、私からちょっとした提案があるんだけどさ」
「こういう時のエリスの思いつきは碌でもないよね。この前なんて部屋中が血まみれになって、掃除が大変だったんだから」
「掃除なんて影で一瞬じゃんかよう、そうふくれっ面にならなくたっていいのに。それに、今回は汚さないから大丈夫」

 断ればエリスが不機嫌になり、今日はそのまま寝てしまうだろう。
 そうなれば、都の高ぶった体は宙ぶらりん。それだけは勘弁して欲しい。
 どのみち彼女に選択権など与えられていないのだ。

「はぁ……で、何がしたいの?」

 都は諦め気味にそう言った。
 エリスは嬉しそうに――都曰く、”悪魔のような笑み”を浮かべると、無邪気に言い放つ。

「ミヤコの血が吸いたいな」

 しばしの静寂。
 都はまばたきを数回繰り返し、無表情で目の前の発情した半吸血鬼デミヴァンプを見た。
 その何ともいえない反応を受けて、エリスは再び口を開く。

「ほら、ミヤコが血を吸われた事があるのってお姉様だけでしょ? それってなんか、特別な感じ、するじゃん? だから私も吸ってみたいなーって」
「ああそういうこと。まあ、別に、かまわないけど……痛くしないなら、ね」

 ようやく言葉の意図を理解した都は、不安そうにエリスの方を見た。
 人間の体の時は、吸血されても痛みは生じなかった。
 となると、おそらく半吸血鬼デミヴァンプ同士での吸血でも痛くはないと思われる……が、確証はない。

「あと、あんまり吸いすぎないでね。貧血になるかもしれないから」
「吸血鬼に貧血とかあんの?」
「私たちは半分人間みたいなものだから、具合は悪くなると思うよ? 代わりにエリスの魔力も入ってくると思うから、たぶん平気だとは思うけど一応、忠告はしとく」
「わかったわかった、やりすぎないから安心して。私は血が飲みたいわけじゃなくて、ミヤコともっと繋がりたいだけだから」

 都合のいいことばかり言って。
 ご機嫌取りだとわかっていても、高鳴る鼓動が都は恨めしかった。
 合図をするように軽く唇を触れ合わせて、エリスの顔が首の方へと動いていく。
 熱い吐息が敏感な首筋に当たり、いつも以上にこそばゆく感じた。
 さらに吸血地点を見定めるように、唇で繰り返し肌に触れる。

「んっ、んふっ……」

 都は噤んだ唇に手を当てながら、思わずあふれる声を抑えるような仕草を見せた。
 そうこうしているうちに、エリスは血を吸うのにちょうどいい場所を見つけ、「んぁ」と口を開く。
 その状態で首に吸い付き、牙を慎重に埋め込んでいった。

「んぁっ……ああぁ……ん、ふうぅ……っ」

 肉体の内側に埋没していく、自分以外の誰かの一部。
 侵されている。
 大好きなエリスに侵食されている。
 その実感は、与えられる快楽以上の陶酔感を都に与えた。

「くうぅぅんっ……ん、ふ、ぁ……あぁっ……」

 どろりと滲み出していく御影都の血液、代わりにどくんと与えられるエリスの魂。
 軽々しく承諾してしまったことを後悔するほど、それは、精神を食む行為だった。

「(あ、やば……これ、あとでちーちゃんにも吸ってもらわないと……まずい、かも)」

 2人の共通点は、千草に恋慕しているということ。
 そのシンパシーが、ただの同類以上の繋がりを2人に与えていた。
 だが、血を吸われ、注ぎ込まれていると、関係性が変わっていくような感じがした。
 千草関係なしに、肉体がエリスを求めてようとしている。
 愛おしさが溢れて、気づけば都の腕は彼女の頭を抱きしめていた。
 もっと吸って欲しい、そうねだるように押し付けている。
 しかし、事前に『あんまり吸いすぎないでね』と注意されていたからか、エリスはほどほどの所で口を離してしまった。

「あ……」

 名残惜しさに、思わず声が出てしまう都。
 同時に腕も解け、赤い舌に紅色の血を絡みつけたエリスは、再び彼女と見つめ合った。

「美味しかったよ、ミヤコ。そっちはどうだった……って聞くまでもないかな、ぎゅってされて苦しいぐらいだったし」
「ん……すごかった」
「うわお、ミヤコが素直だ。ってことはよっぽどだったんだね、いいなぁ、私もやって欲しいなぁ」

 そう茶化すエリスに向けて、都は手を伸ばした。
 両肩を掴み、ぐいっとベッドに倒して、今度は彼女が馬乗りになる。
 突然の強引な立場逆転に、エリスは「へ?」と呆気に取られていた。

「言われなくたってそのつもりだから」

 そう言って、都は舌なめずりをした。
 獲物を見つめるような彼女の瞳に、ぞくりとするエリス。

「え、えっと……お手柔らかに、お願いします」
「我慢できたら、ね」

 その後、お手柔らかさんが鼻で笑うほど激しい吸血が繰り広げられたのは言うまでもなく。
 繋がりを深くした2人は、互いの吸血行為が終わっても体を離さず、底なしの半吸血鬼デミヴァンプの体力が尽きるまで愛し合ったのだという。
 そして事が終わり、疲れ果て汗塗れになった2人は、ベッドで手を繋ぎながら横になり、全く同じことを考えていた。

『(ちーちゃん/お姉様が帰ってきたら、私たちの相手をしなかった罰として、沢山吸ってあげないと)』

 いつぞやの地獄、あるいは天国が再来しようとしていることを、千草はまだ知らない。





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