異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を堕とし、国を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~

kiki

30 塗り潰す非人間性、すなわちスープ

 




 暇を持て余した彩路さいじは、食堂へ向かうべく、その階層の最奥にある部屋を出て兵舎に向かって歩いていた。
 食事時以外にもジュースぐらいは飲むことができる。
 自室でも、命令すれば最高級品の飲料を誰かしらが持ってきてくれるが、今は1人でゆっくりしたかったのだ。

「ふあ……ぁ」

 彩路は腕を思い切り伸ばしながら、大きな口を開いてあくびをした。
 昼食を終えて2時間ほど経過したからか、程よい眠気が彼を包んでいる。
 いっそ食堂で仮眠をとってもいいかもしれない。
 どうにも自室のあのふかふかのベッドは落ち着かないのだ、それに枕だって微妙に高くて息苦しい。
 この世界における最高級品は使っているらしいのだが――だからこそ、平民は息苦しさを感じてしまうのだろう。

「『ディルソンの煮込み』、か……そういや昨日、カウンターそんなこと言ってたな。ディルソンってなんだろな、名前からして牛っぽいイメージだけど」

 食堂の前に置かれた看板には、今日もまた、見知らぬ食材の名前が書いてあった。
 昨日の肉も美味しかったのだし、どうせ今日もそこそこの味にはなっているはず。
 しかし2日連続で食堂というのも、それはそれで飽きてきたような気がするし、いっそ今日は城の方で豪華な料理にありついても――と考えながら食堂に入ると、聞き覚えのある男性2人の声が聞こえてきた。
 声の主に視線を向けると、そこに居るのは峰と凰弥だった。
 彩路はおかれていたコップに、隣のピッチャーから黄色い柑橘のジュースを注ぐと、それを持って彼らの元へと向かう。

「よっ、お前らも暇してんのか?」
「お、彩路じゃん」
「特に娯楽も無いからな……駄弁っていたんだ」
「なら俺も参加させてもらうわ」

 そう言って、峰の隣に座る彩路。
 凰弥の言うとおり、交わす会話の内容は他愛もない、言ってしまえば男子高校生らしいくだらない内容だった。
 だがそんな時間が、今となっては恋しくなるほど遠い場所に来てしまった。
 いくら何もかもが手に入り、魔力とやらが身についたとしても、彼らはもう二度と家族には会えないし、希望通りの進路に進むことも出来ない。
 時折、ネガティブ思考に陥るとふいにそのことを思い出し、無性に悲しくなる。

「なあ……オレたち、もう帰れねえのかな」

 いつも明るい峰が、珍しく表情を曇らせながら言った。

「……帰すつもりはないだろうな、少なくともこの国の王は自分たちを戦力としてカウントしている」
「確か他国を侵略するとかだったっけ?」

 凰弥の言葉に、峰が眉間にしわを寄せながら反応した。
 彩路は思う。
 勝手にしてろ、と。
 巻き込まれて未来を奪われた身としては、あまりに理不尽極まりない。

「イマイチ、ピンと来ないんだよなあ、オレ。確かにちょくちょく魔法の授業とやらはやってるけど、オレらってそんなに強いのか?」
「王が頼りにするということは、俺も峰も凰弥も、この世界の人間にとっては破格の強さなんだろうさ」
「……わざわざ異世界から連れてきてでも使いたい人材、か」

 まだ彼らは使い方をよく知らないだけで、かなりの魔力を秘めていた。
 実際、半吸血鬼デミヴァンプとなり、その知識を吸収することで影を操る魔法の使い方を知った千草は、もはや世界中のどの魔法使いよりも強い力を手に入れつつある。
 そして同じく人間をやめた都もレイアも、千草と同等程度の力を持っていた。
 もちろんそんなことを彼らが知るわけもなく――

「ま、どんな事情があるにせよ、俺らは俺らで好きにするだけだ。命令を聞く義理はねえ」
「そだな、彩路がやることはどこに行ったって女漁りだし」
「それも飽きてきたんだよなあ。あーあ、どっかにいい女転がってねえかなぁ」
「……結局それか」
「案外、普通じゃない女の方が彩路向きだったりしてね。千草ちゃんとかどうよ?」
「死んでんじゃねえか」

 言い捨てて、彩路はジュースを飲み干した。

アレ・・なら生きてようが死んでようがあんま変わんないしさ、マグロだったし」
「ははっ、確かにそうだったな。とは言え、俺もさすがに死体には勃たねえわ」

 空になり、氷だけが残ったコップをからんころんと揺らすと、彼は席を立ち上がり2杯目を注ぎに行く。
 その時、ふと彼は食堂のカウンターの中を見た。
 夕食の準備が始まっているのか、奥の厨房では女性の調理員数人が忙しなく動いている。

「ご苦労なこった」

 そう言って振り向くと――

「ギャアァァァァアアアアッ!」

 男性の叫び声が、食堂に響き渡った。
 彩路の体がびくっと震え、思わずコップを落しそうになる。

「な、何だ……?」

 声はおそらく、厨房の方から聞こえてきた。
 包丁で落したのだろうか、と後ろを振り向くも、ここからでは中の様子までは見えない。

「ぎ、ぎあっ、あがああああぁぁぁっ! ひっ、ひぎゅっ、ふぐうぅうっ!」

 叫び声はその後も断続的に繰り返された。
 耳を澄ますと、その声に混じって、まるで血や肉を飛び散らせているかのような、ぐちゃりという音が聞こえた。

「はぎゃっ、ひ、ひ、ひうぅ……あ、おごああぁぁぁああああっ!」

 彩路は表情筋を引きつらせながら呆然と立ち尽くす。
 すると、背後からぽん、と誰かが肩に手を置いた。

「ひっ!?」

 体がびくんと跳ね、情けない声が漏れる。

「なぁにびびってんだよ。どうしたんだ、何か見えたのか?」

 それは峰の声だった。
 と言うか、冷静に考えればそれ以外にありえない、凰弥は彼に軽々しく触れるような性格ではない。

「いや、見えたっつうかさ、今の声……聞こえたろ?」
「声?」

 峰が首をかしげる。
 まるで何も聞こえていないとでも言うように。

「ぎ、ぎ、が、ご……おおぉ、はびゅっ、ぎあ、ンおおぉぉっ!?」

 しかし、声は現在進行形で聞こえているのだ。
 しかも反響だってしている、これが幻聴なものか。

「ほら、聞こえるじゃねえか、男の叫び声だよ!」
「いや……何も聞こえないんだが。気のせいなんじゃね?」
「馬鹿言うなって、こんだけはっきりしてんのに気のせいなわけねえだろ!?」

 男性の声は少しずつ小さくなっていた。
 間違いない、厨房で誰かが殺されているのだ、そしてまさに今、命を落とそうとしている。
 だというのに、その男を、峰どころか凰弥も――さらには食堂でくつろぐ数人の兵も、誰も聞いていないようだった。
 周囲を見渡しながら、まるで自分だけ別世界に隔離されたかのような感覚に陥る彩路。
 彼の顔はみるみるうちに青ざめていった。

「嘘だろ……あれが聞こえてないとか、そんなこと……」
「どうした、峰、彩路。何かあったのか?」

 2人の様子を見て心配した凰弥が近づき、声をかける。
 彼の方を見た峰は困ったように両手を上げ、首を左右に振った。

「それが彩路がさあ、いきなり男の叫び声がするとか言い出してんのよ」
「……女に飽きたからって、男の幻聴はどうかと思うぞ」
「違うんだよ! 本当に、本当に――」
「疲れてんだよ、彩路は。部屋で休んだほうがいいんじゃね?」

 しかしどう言おうが、2人が彩路の言葉を信じることはなかった。
 ここまで徹底されると、間違っているのは自分だと思うしか無くなってくる。
 そもそも今まで彼は、幻聴が聞こえるほど追い詰められた経験と言うものがなかった。
 つまり、先ほどの声が幻聴ではないと言い切れはしないのだ。
 あまりにリアルだったためそう主張したが、そういうものなのだとしたら――峰の言うとおり、部屋で休むべきなのかもしれない。

「くそっ……わかったよ、部屋に戻るわ」

 彩路はそう言い残して、食堂を後にする。
 結局、廊下をしばらく進むまで、男の声と肉が飛び散る音は聞こえていたが、気の所為なのだと必死に自分に言い聞かせた。



 ◇◇◇



 部屋に戻った彩路は、女たちを追い払いベッドに突っ伏した。
 そのままいつの間にか寝ていたらしく、目を覚ました時には外はすっかり暗くなっていた。

 コンコン。

 体を起こさないままベッドに沈んでいた彩路の耳に、ドアをノックする音が届く。
 彼はけだるげに返事をした。

「誰だ?」
「私、桜奈。ちょっと話したいことあるんだけど、入れてもらってもいいかな」

 桜奈がこうして彩路の部屋を訪れるのは、今回が初めてだった。
「珍しいこともあるもんだ」と呟きながら彩路はベッドから降りると、ドアを開く。
 その向こうに立っていた桜奈は、やけに不安げな表情をしていた。

「どうしたんだよ、桜奈。まさか抱かれに来たか?」
「別にそれでもいいけど……」

 彼女を怒らせる……もとい元気づかせるつもりで言った彩路だったが、想定外に受け入れられ困惑する。
 今の桜奈の状態を見るに、本当に押し倒せばそのまま身を任せるだろう。
 だが気が乗らない。
 そんな状態の女を抱いた所で、マグロのプロフェッショナルである千草と何の差があるというのか。

「はぁ、とりあえず入れよ」

 彩路はため息混じりに言いながら、桜奈を部屋に招き入れた。
 時計を見るに、今は夕食時だ。
 だというのに食堂にも行かずにこの部屋にやってきたと言うことは、何か厄介事を持ち込んできたに違いない。
 彩路がうんざりするのも仕方のないことだった。
 それでも部屋に招き入れたのは――元恋人のよしみ、ということだろうか。
 元気のない桜奈を椅子に座らせると、彩路は部屋に備え付けてあるティーポットからお茶を注ぎ彼女の前に置いた。
 そして彼自身も向かいの椅子に座る。

「んで、何があったんだよ。お前がそこまで落ち込むなんて相当だぞ」
「……冬花がさ」
「ああ、昨日なんか言ってたな、視線がねっとりしてるとか」
「うん……その続き。今日も相変わらずで、冬花は私に迫ってきて……キス、した」

 彩路は思わず「うぇ」と声をあげた。
 直後、しまったと思って取り繕おうとするが、桜奈は気にしていないようだ。

「わかる、その反応。私も同じような気持ちだったから」
「昨日の冗談で言ったつもりだったんだが、マジだったのかよ……それで冬花と一緒に居るのが嫌になって俺の部屋に来たわけか」
「……」

 てっきりすぐさま『うん』と頷くかと思っていたのだが、桜奈は彩路の言葉にさらに神妙な顔になった。

「違うのか?」
「……その、実はさ、最初は嫌じゃなかったんだよね」
「は?」
「むしろ、なんか嬉しくて、私からも一回キスしちゃって」
「いやいやいや、要するにお前もそういう趣味だったってことじゃねえか!?」
「違うの! その後、冷静になって考えたら、なんであの時、私は喜んだりしたんだろうって。まるで私が私じゃないみたいで怖くなったの! だから、彩路に相談しようと思って……」

 普段の彼なら、そんな言い訳をされても笑い飛ばしただろう。
 だが、今は違う。
 彩路自身にも、奇妙な現象に思い当たる節があったのだ。
 まだ2つの事象をつなぎ合わせるには材料が少なすぎたが、しかし無関係とも思えない。

「冬花の様子は、相変わらずおかしいのか?」
「……信じてくれるんだ」
「そう思ったから俺を頼ったんじゃないのかよ」
「ダメ元だった」
「信用ねえな……まあそりゃそうだろうけど。で、冬花はどうなんだ?」
「うん、変な感じ。今日もまた都先生の所に行くみたいだし」

 また都の名前が出てきた。
 冬花の様子がおかしくなったきっかけが、都の部屋に行った事だとするのなら。
 そこに行けば、真相を導き出すためのピースが見つかるかもしれない。

「今日の夜、その部屋に行ってみるわ」
「私は……」
「いいよ、来なくて。俺1人でどうにかする、お前は部屋で休んどけ」
「彩路が優しい……気持ち悪い……」

 そう言いながら、桜奈の表情は綻んでいた。
 確かに、彩路自身もらしくないとは思っている。
 それでも、今の彼女は”励ましてやらないと”と男としての義務感が湧き上がってくるほど、沈みきっていたのだ。
 その後、2人はしばし歓談した。
 会話は桜奈が2杯目のお茶を飲み干すまで続き、彼女を送ろうと彩路が部屋を出た時――彼はその変化に気づいた。
 彩路の部屋は最奥にある、つまり部屋を出て左側は壁であるはずだ。
 しかし――

「なんだよ、これ。なんで、部屋が増えてんだよ……!?」

 そこには、あるはずのない部屋が存在していた。
 自然と、まるで最初からそこにあったかのように。
 慄く彩路だったが、そんな彼をよそに、桜奈は平然としている。
 そんな彼女を見て彼は思った。
 ”結局こいつもか”と。

「どうしたの彩路、別に部屋は増えたりしてないと思うけど」

 もはや何を言っても無駄だと悟った彼は、今だけは疑問を噛み殺し、新たに現れた部屋に背を向ける。
 そこを開くのは後で良い、今はまず桜奈を無事部屋に送り届けることが先決だ。
 すると振り返った彼の視線の先に、木箱を持った少女が現れた。
 肩まで伸びた黒髪を揺らしながら近づいてくる少女――冬花だ。
 同じ城の中に暮らしているにも関わらず、彩路が彼女の姿を見たのは数日ぶりだ。
 彼女は視線をあげると、桜奈に向かってにこりと微笑む。
 彩路には一切関心がない様子で、彼の方を見る様子は全く無かった。

「桜奈ちゃん、彩路くんの部屋に来てたんだね」
「う、うん……」
「ちょうどよかった、これを置いたら部屋に戻ろうと思ってたの」

 冬花は桜奈に近づく。
 その距離はさらに縮まっていき、やがて唇同士が触れ合うのではないかという距離にまで接近すると――

「桜奈ちゃんも一緒に戻ろ?」

 と、彼女は言った。
 嫌なら嫌と言えばいいのに、なぜか桜奈はそうしない。
 だが、今の冬花を目の当たりにした彩路にはよくわかる。
 見た目は変わっていないのだ、だが彼女が纏っている雰囲気が明らかに違う。
 今の彼女は――明らかに異常だった。
 魔性だ、男女問わず誰もを引きつける魔力のような物を纏っている。
 あるいは、魔法が存在するこの世界ならば本当に――と疑ってしまうほどに。

「じゃあ、ちょっと待っててね」

 冬花はどうやら、手に持っている木箱を奥の部屋へと運ぼうとしているようだった。
 彩路は彼女に問いかける。

「おい冬花、その箱は――いや、その部屋は何なんだよ!?」

 声を荒げる彩路に、冬花はまるでその存在に初めて気づいたかのように振り向く。

「イハイだよ」
「……イハイ?」
「そう、イハイ。いただきますをしたら、ごちそうさまでしたをして、ちゃんと供養しないと。先生から習わなかった?」
「何だよ……それ」

 冬花ははっきりとした答えを出さないまま、奥の部屋へと姿を消した。
 彩路は下唇を噛み締め、怖気づく気持ちを殴り飛ばし、彼女の後を追って部屋に踏み込む。
 そこは――薄暗い、石造りの、何もない空間だった。
 冬花は部屋の端に”イハイ”を置くと、すぐさま部屋を出ようと彩路の方へと近づいてきた。
 部屋には、すでに箱が1個置いてある。
 つまり――冬花が持ってきた分で、2個目であった。
 彼女は彩路の横をすり抜けて部屋から出ると、桜奈へと駆け寄りその手を握った。
 肌を触れ合わせた桜奈は複雑な表情をしていたが、どちらかと言えば喜びの方が勝っている様子だった。

「じゃあね、彩路」

 冬花が一緒ならば、彩路が隣を歩く余地はない。
 桜奈は申し訳なさそうに彼に向かって言うと、2人で指を絡ませ合いながら自室へと戻っていった。
 食堂の件と言い、今と言い、彩路は完全に混乱しきっていた。
 何が正しくて、何が間違っているのか。
 食堂で聞いた声が幻聴だと言うのなら、この部屋が存在していないと思いこんでいた自分が勘違いしていただけなのか。
 それとも――自分の以外の全てがおかしいのか。

「くそっ、くそっ、くそっ……わけ、わかんねぇよ……!」

 彩路は膝をつくと、暗い部屋の奥に鎮座するイハイを睨みつけながら、頭をかきむしった。



 ◇◇◇



 桜奈は、気づけば自室ではなく、冬花の部屋へと招き入れられていた。
 昨晩、キスされたときは桜奈の部屋だったが、今日は冬花のテリトリーで求められることになる。
 キス以上を要求されるのは明らかだった。
 だが今の彼女に、拒む理由はない。
 手を繋いで歩いているうちに、彩路に相談した内容も吹き飛んでしまった。
 今の彼女は、すっかり冬花からのキスを喜んで受け入れる乙女である。

「さあ、ここに座って」

 桜奈は冬花に言われるがままに椅子に座る。
 冬花は部屋の奥からガラスのボトルを持ってくると、テーブルの上に並べられた2つのスープ皿に注いだ。
 赤い――血のように赤い液体が、満ちてゆく。
 それを見て、桜奈はようやく思い出した。
 そう言えば、昨日キスされる前――冬花は彼女の口に、無理やりこれを注ぎ込んだのだ。
 もがき苦しんでも、振り払うことはできなかった。
 彼女はおよそ人間とは思えない力で抑えつけていたから。
 そして鉄臭いこの液体を飲み込むうちに、次第にその味も甘く感じるようになって、冬花へ心を開くようになって。
 そして、キスをした。

「これ、覚えてる?」
「うん……」
「これが、私たちを結んでくれたんだよ」
「そう……だね」
「これだけ飲めば、魔力もたくさん桜奈ちゃんの体に入っていくだろうから、きっとシルシも出てくるね」
「しる、し?」
「うん、永遠の愛の証だよ。私と、桜奈ちゃんと、そして――千草様の」

 なぜそこで、自分たちがいじめていたクラスメイトの名前が出てくるのか。
 それに彼女は、この世界に来た時に死んだはず。
 自分たちの目の前で、無残に弾けたはずなのに。
 だが――昨晩飲んだ血液は、未だに桜奈の中に残っている。
 その存在は、遠くて近いどこかにいる、千草と自分をつなぎ合わせている、そんな気がしていた。
 要するに、千草は生きているのだ。

「じゃあ、飲もっか」

 冬花に微笑みかけられると、桜奈は途端にさからえなくなる。
 いや、むしろ従いたくなってしまう。
 それが彼女にとっての至高の幸福なのだ。
 桜奈は銀のスプーンでとろりとした血のスープをすくい上げると、冬花と同時に口に運んだ。
 舌に絡みつく、愛しいあの人の血の味。
 甘くて、熱い。
 吸収すればするほど、自分が自分ではなくなっていくような感覚があった。
 つまりは成長である。
 あるいは覚醒である。
 それが、自分のような矮小な人間が味わえているという事実に、桜奈は心の底から感謝した。
 そして続けざまに二口目を口に運ぶ。
 冬花は陶酔した表情で千草の血を味わう桜奈を見ながら、瞳を情欲で濡らし――自らもまた、愛しき主の血液と魔力を、自分の体へと取り込んでいった。





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