異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を堕とし、国を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~

kiki

25 真実を知った時、私は

 




 リーナを抱きしめながら、私は城の中を歩く。
 近頃はずっと寝不足が続いていた。
 起きても一向に目が冴える様子はなく、少しでも気分転換ができればとこうして散歩を始めたのだけれど――

「あーあ、さすがに飽きてきたわ。あんだけ女が居ても飽きる時は飽きるもんなんだな」
彩路さいじは一日中ヤりすぎなんだよ」
たかも似たようなもんじゃねえか。凰弥おうやはどうよ、そろそろ飽きてきたんじゃね?」
「……いや、特には」
「あー、そうか、そうだったな、お前の所は特殊だったもんな。俺も新しい女もらってくっかなー、都センセが居たらアレ抱いてたんだけど」
「……桜奈さくなはどうだ?」
「ありゃとっくの昔に飽きてる。アレ抱くぐらいならこっちの女抱いた方がよっぽど気持ちいいわ」
「違いねえ、彩路の言うとおりだわ」

 彼らは「ぎゃはは」と下品に笑いながら、私の横をすれ違った。
 私が召喚した6名――いや、チグサを含めると7名のうちの一部。
 リーダー格らしい特別下品で、表情に知性の感じられない男がサイジ・カタオカ。
 それにいつもひっついている、これまた下品で、しかしサイジに比べると細身の男がタカ・カガン。
 そして1人だけクールを気取っているが大差のない、色白な男がオウヤ・チザキ。
 呼び出された男性はこの3人だけだ。
 城に居る残りの2人は女子で、それぞれサクナ・アキゾラとトウカ・サトウと言った。
 どうやらサクナは以前サイジと交際関係にあったらしく、似た者同士惹かれ合うと言うことなのか、言動が若干彼に似ている。
 そんなサクナの取り巻きがトウカだ。
 トウカは地味で大人しい女だが、だからこそ、身近で自分を引き立ててくれる相手としてサクナは重用してるらしかった。
 そしてトウカ自身も、そのポジションを心地よいと思っている。
 ……不快だ。
 私が召喚した人間たちは、確かに強い魔力を持っていたけれど、ミヤコ以外は同じ空気を吸うのも嫌なぐらい下劣な存在だった。
 チグサだって、そうだ。
 吸血鬼などに魂を売って、そしてきっと、またあの時・・・と同じ悲劇を引き起こそうと算段しているに違いない。

「そうだよね……リーナ」
『うんうん、ボクも同意見さレイア。あいつはこの街の人々を殺そうとしているに違いない。早く退治しないとね!』

 リーナに励ましてもらいながらも、ただの自作自演なだけに虚しさが増すだけだった。
 本当は――私だって疑ってるのに。
 チグサの行動を見て、その疑念はさらに強くなった。

 以前から、私は王国に残された資料を使って、吸血鬼に関する研究をしていた。
 いずれ復讐するために対策は練っておかなければならない、そう思い始めたことだったのだが――その中に私は、気になる記述を見つけたのだ。

『吸血鬼は同族との間に子を成すことは出来ない』

 生物というのは基本的に、種の繁栄のために生きるものだ。
 例えば食人鬼グールと言われるアンデッドの魔物。
 あれは人間の肉を食らい、そして食らわれた人間がまた低位の食人鬼となって蘇る。
 例えばアルラウネと呼ばれる植物の魔物。
 あれは人間のオスを性的興奮を促す成分の入った花粉を使っておびき寄せ、肉体ごと吸収し、その中の精子を使って子を成そうとする。
 また、中には人間のメスをおびき寄せる種もおり、その場合は人間を特殊な薬液で同種へと変え、その者をツガイとする。
 他にも様々な種の魔物が居るが――どれもが、手段は様々だが、基本的には仲間を増やすために行動していた。

 吸血鬼も同様である。
 彼らの吸血には二種類ある。
 単純に食事として血を吸い取るための場合と、血を吸うと同時に自身の魂の一部を注ぎ込み相手を同族へと変える場合だ。
 しかしどちらにしても、吸血鬼に命を奪われることはあまりない。
 なぜなら数が減ればそれだけ食料が減るということでもあるし、いずれ仲間にできるかもしれない素体を減らす行為でもあるからだ。
 つまり吸血鬼は、自分を退治しにきた相手を殺したり、ターゲットではない性別の人間を殺すことはあっても、無差別に人を殺すことはほぼ無い。

 調べれば調べるほどに、”なぜ?”と疑問がいくつも浮かび上がってくる。
 本当に自分の故郷を襲ったのは吸血鬼だったんだろうか。
 両親を殺し、親友であるリーナまで手にかけたのは、あの化物なのか。
 親友という贔屓目はあったとしても、リーナはあの村では飛び抜けて可愛い女の子だった。
 ああいう少女こそ、吸血鬼の好物ではないのか――

「しっかしさ、あの魔女ってのもあんまり役に立たねえよな」

 ちょうど通りがかった部屋の中から声が聞こえてきたので、私は足を止めた。
 城の警備を担当する兵の詰所だ。
 ここは、王たちが暮らす城の本体からは少し離れた場所にあるのだが――いつの間にか思ったより遠くにまで来ていたらしい。

「あいつがしっかりしてりゃ、外の見回りで死ぬこともなかったはずだろ」
「同感だな、魔法で城全体を見張っているというのなら、彼も救うべきだった」
「まともに仕事もしない上に不気味だしよお、実はあの噂も、本人が同情を誘うために流した作り話だったりしてな」
「ああ、あの――故郷の村を襲ったのは実は王国兵だった、って話だな」

 最近になって、そんな噂が流れ始めた。
 もちろん私が作った話なんかじゃない、どこが出処なのかもわからない。
 けれど村を襲ったのが吸血鬼ではない可能性が高まっている以上、私も疑わずには居られなかった。
 でも……だとしたら、私がこれまで必死に、王に言われるがままに吸血鬼への復讐につながると信じて作り上げてきた魔法の数々は、何だったんだろう。
 足元がぐらついている。
 結局、私にとっても、吸血鬼が仇であってくれた方が、都合がいいのだ。
 もし本当に噂通り、王国兵が私をさらうために村を滅ぼして、パパやママやリーナを殺したんだとするのなら。
 その真実が暴かれれば、私はまた、居場所を失ってしまうのだから。

「……気分転換にはならなかった」
『部屋でじっとしているよりはマシさ』
「そうかな」

 やっぱり頭はまだ冴えない。
 散歩なんてしたって無駄だった。
 今日は二度寝でもした方が堅実かもしれない。
 また夢を見る可能性もあるけれど、それでも起きて悪い想像を繰り返すよりは、きっと体ぐらいは休まるはず。
 重い足取りで部屋の前までたどり着き、ドアを開く。
 誰も居ないはずの部屋では、嫌というほど悪夢で見た半吸血鬼デミヴァンプが、優雅に椅子に座っていた。

「こんにちは、お邪魔しています」
「っ!?」

 私は慌てて部屋から出ようとするものの――

「待ってください! 今日はレイアとやりあうつもりはありません」
『化物の言葉を信じる義理なんてないね』
「それは残念です、リーナについての情報を持ってきたんですが」
「……!?」

 私は足を止めた。
 リーナ、それはこの人形ではなく、おそらく私の喪った親友のこと。
 それをどうして、チグサが知っているのか。
 ミヤコから聞いた? だから、それを私の足止めに利用した?
 けど確かに、今の彼女からは敵意らしいものは感じられない。
 いや待って、そもそも最初にやりあった時だって敵意は無かったはず、チグサはまるで愛でるように私を弄んでいた。
 だとしたら今だって――また、あの時みたいに――滅茶苦茶に、体の外側も内側も気持ちよくされて――

「どうしたんですか、急に顔を赤くしたりして」
「な、なんでも……ない」
「ふふ、やはり可愛らしい声をしていますね。人形よりもそちらの方がずっと良いですよ」
「だ、黙れっ!」
「さあ、早く椅子に座ってください、落ち着いて話をしましょう」

 抗えなかった。
 たぶん、逃げようとしても、どうせ逃げられるわけがない。
 影に足を巻き取られて身動きが取れなくなるだけだ――そうやって自分に言い聞かせて、私はゆっくりと彼女の方に歩み寄り、向かいの椅子に座った。

「長話をするような仲でもありませんから、簡潔に言いますね。私たちは教会でリーナを保護しています」
「なに……を?」

 リーナは死んでいる。
 それを、保護している?
 死体でも安置してるって言うんだろうか。

「正直に言うと、私たちも彼女がリーナであるという確証まで持てていません。その確認の意味も込めて、こうしてレイアに会いに来ました」
「どういう、こと?」
「私が彼女を発見したのは、奴隷の売買が行われているオークション会場でした」
「貴族が、大量に死んだって……大騒ぎしてる……!」
「そうみたいですね。もっとも、流れている情報ではただのパーティ会場という設定になっているようですが」

 だから街に住まう民衆は、あれをただの魔法による虐殺だと思いこんでいる。
 しかし貴族たちは怒ることなく、ひたすらに怯えていた。
 その事件が、裏で売買されている奴隷に関するものだと知っているからだ。

「奴隷を、助けるために……やったの?」
「そうですね、もちろん仲間に引き込むためではありますが。それで、リーナらしき奴隷もそこで見つけたんです」
「リーナが、奴隷に……死んだ、はず、なのに」

 だがそれも、王国兵の仕業と思えば納得はできる。
 あの時、私は全ての人の死体を確認したわけじゃない。
 焼けていて誰のものかわからない死体もたくさんあったし、そもそも姿を確認出来ない人もたくさんいた。
 実はどさくさに紛れて、女の子だけは村の外に連れ出されていたのかもしれない。

「でもさっきは、確証が持てていない、って言ってた。どうして?」

 いくら奴隷と言えど、自分の名前ぐらいは喋れるはず。
 それに、生まれつきの奴隷と違って、リーナはある程度村で教育も受けていたから、読み書きはできる。
 まともな状態なら、コミュニケーションは取れるはずなのだ。

「私が見つけた時、彼女はリーナではなく穴と呼ばれていました。意味はわかりますよね」
「……!」
「手足は無く、顔も原型を留めないほどに変えられていました」
「そ、そんな……リーナ、が。リーナが……!」

 あの、可愛くて、明るくて、ずっと私の太陽で、憧れだったリーナが。
 信じられない。
 信じられるわけがない、この目で見るまでは!

「会わせて。私を、リーナに、会わせて!」
「最初からそのつもりで来ました。それでは一足先に城の外で待っていますから、準備が出来たら来てください」

 やけにあっさりと承諾するチグサ。
 私は一瞬だけ冷静さを取り戻し、彼女に問うた。

「……罠じゃ、無い?」
「ふふふ、疑いたくなる気持ちもわかりますが、考えてもみてくださいよ」

 赤い瞳を細めながら、チグサは言った。

「罠など仕掛けずとも、あなたを堕とすことは、私にとってあまりに容易い」
「……っ」

 蘇る、影に侵食される記憶。
 体中に鳥肌が立つと同時に、体温が一気に上昇した。

「もちろん、いずれレイアも半吸血鬼デミヴァンプに変えるつもりではありますよ? ですが、それは今ではないということです」

 それだけ言い残すと、チグサは沈むように影の中に消えていった。

「いずれ……私も……」

 私と彼女の間にある力の差は、あまりに大きい。
 チグサが本気を出した時、私は果たして抗うことができるのだろうか。
 いや――その時、抗おうとする意志は残っているのだろうか。
 勝てるヴィジョンが見つからない。
 私はすでに気持ちで負けた状態で、のこのこと、敵の本陣へ向かうべくチグサの後を追った。





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