異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を堕とし、国を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~

kiki

10 ヴァージンロードに人間は要らない

 




 ナナリーを吸血鬼化した私とエリスは、そのまま教会に住み着くことにしました。
 もちろん、シスターとして。
 私が思っていた以上にナナリーは街の人々の信頼を得ているらしく、彼女の紹介というだけで、誰も私たちの存在を疑う者はいません。
 赤い瞳も、白い肌も、ただの特徴程度だと思われている――つまりこの世界において、吸血鬼という化物はさほどポピュラーなものではないと思われます。
 もっとも、ナナリーの目の色が変わったことに気づいたのが、よく教会に遊びに来る子供ぐらいなのですから、そもそもこの街の人々は、相手の容姿などさほど気にしていないのかもしれません。

「んふ……は、ちゅる、れる……じゅぷ……っ」
「美味しいですか、エリス」
「はひ……ひゅ、んっ……ぺちゃ……おいひぃ、れふ……」

 私は寝室のベッドに腰掛けながら、跪くエリスに自分の指をしゃぶらせていました。
 口の中に落とした人差し指に、触手のようにぬめりのある生暖かい舌が絡みつき、唾液をまぶしていきます。
 これは私が自分の意志でやっているわけではなく、エリスにリクエストされたのです。
 先日のナナリーとの行為がよほど羨ましかったのでしょう、ふたりきりになったタイミングを見計らっておねだりされてしまいました。
 しかし――

「ちゅぷ……んぁ、じゅる……おね、ひゃま……んぁぁ……っ」

 ――指を舐めるだけでここまで恍惚とした表情を見せるだなんて。
 エリスは本当に、私のことが好きなのですね。
 この顔を見ているだけで、思わず頬がほころんでしまいます。
 これしきのことで彼女が喜んでくれるのなら、私はいくらでも指ぐらい提供しましょう。
 そうして私がエリスと戯れていると――コンコン、とドアをノックする音が聞こえてきました。

「主さま、入ってもよろしいでしょうか」
「ナナリー、ここはあなたの部屋でもあると言ったじゃないですか、ノックなどせずに入ってきてください」

 そう言っても、ドアの向こうから現れたナナリーは少し申し訳なさそうです。
 主さまという呼び方からも分かる通り、彼女にとって私は崇拝の対象になってしまいました。
 無論、そこに愛が無いかと言われれば”ノー”なのですが、それでもエリスのような関係とは少し異なる形になってしまったのは事実で。
 おそらく、私が何度注意しても、ナナリーは部屋に入る際にノックをするのをやめはしないのでしょう。
 それもまた、彼女の可愛らしさと思って、私も諦めることにします。

「ナナリーが来たということは――」
「はい、レリィが待っています」

 レリィと言うのは、以前から教会に頻繁に出入りしていた女性の名前です。
 ナナリーと同い年のレリィはやたらネガティブ思考で、何かあるごとに彼女に相談を持ちかけていたのだそうです。
 そんなレリィを私が初めて見たのは、一昨日のこと。
 彼女を見た瞬間に思ったのです。
 あれを、汚らしい男などに渡していいわけがない、私のものにしてしまおう、と。

「あ……」

 エリスの口から指を引き抜くと、糸を引く粘液を見ながら、彼女は名残惜しそうに舌を突き出したまま私の方を見ました。
 胸がきゅんと締め付けられます、できることならずっと一緒に居てあげたいのですが。
 私は指についた唾液を舐め取り、エリスの味をしっかりと味わうと、ベッドの傍らに置いてあったタオルで指に残った湿り気を拭き取りました。

「続きは今夜にでも」
「約束だからね、お姉さま」

 約束などせずとも、毎晩のように愛し合っているのですが。
 しかし、いくら夜のことが保証されても、昼間のエリスの寂しさを埋められないのはいただけません。

「ナナリー、エリスが寂しがらなくて済むように相手をしてあげてください」
「もちろんです、わたくしもそのつもりで来ましたので」

 エリスは不満げに私の方をちらりと見ると、ふらふらとした足取りでナナリーに近づき、抱きつきました。
 そしてそのままの勢いで荒々しく唇を重ね、貪るように舌を絡めます。

「んちゅー……んぅ、ちゅぱっ、は、ナナリーの……あまぁい……っ」
「あぁんっ、エリスさまぁっ」

 急に襲われたナナリーも満更では無いようで、自ら腕を腰に回し、さらに密着さえつつ舌を激しく絡めていきます。
 同じ魂を流し込まれ吸血鬼になった以上、エリスとナナリーは姉妹のようなもの。
 吸血鬼になった人間は、みな等しく慈しみあい、みな等しく愛し合うのです。
 誰であろうと。
 例え、強く憎しみ合い、いがみ合う2人であったとしても。



 ◇◇◇



「こんにちは、レリィさん」

 礼拝堂でシンボルたる女神像に祈りを捧げる女性に声をかけます。
 するとレリィさんは立ち上がり、栗毛のショートボブを揺らしながら振り返りました。
 彼女は茶色のくりっとした瞳をこちらに向け、首をかしげ――

「あなたが、チグサさんですか?」

 と問いかけました。

「ええ、ナナリーから話は聞いています、少しでもあなたの力になれるといいのですが。立ち話も何ですので、椅子にでも座りましょうか」

 私は彼女を促して、長椅子に隣り合わせで座りました。
 太もも同士が触れるほど近い距離に若干彼女は戸惑っていましたが、逃がすつもりはありません。
 触れ合わなければ意味はありませんからね。

 さて、レリィさんがこうして教会に通っているということは、彼女にも悩みがあるということ。
 それを私はあらかじめナナリーに聞いていました。
 なんでも彼女、近々ディックという貴族の男と結婚するのだそうです。
 働いていたパン屋で見初められたとのことで、言うまでもなく玉の輿でした。
 しかし結婚を目前に控えて、レリィさんの頭の中では様々な不安が膨らんでいったのです。
 いわゆる、マリッジブルー。
 花嫁にはよくあることですが、そのほとんどがいざ結婚すると霧散するもの、『あまり心配するべきではない』とアドバイスするのが適切――
 しかしあいにく、私の目的は、彼女の悩みを解決することではありません。
 はっきり言いますと、そんなこと・・・・・、どうでもいいのです。

「レリィさん、手を握ってもいいでしょうか」
「手を……なぜですか?」
「私、手を握ると、その人の心が少しわかるんです。汗のかき方や体温の変動で判断できるみたいで」
「そういうことなら……」

 私は適当にでっち上げた理由で、まんまと彼女と肌を触れ合わせることに成功しました。
 差し出された手をしっかりと握りしめ、手のひら同士を密着させます。
 あとは相談の内容などどうでもいい――適当に流してしまいましょう。

「それで、なんですけど。ナナリーから聞いてるっていうのは、どこまでですか?」
「レリィさん、まずはリラックスしましょう。あまり緊張していてはいい考えも浮かんできませんよ」
「ですが……」
「あと口調も、そんな他人行儀な言葉遣いではなく普段通りに崩してください」

 私は、唇に人差し指を当てながら言いました。
 彼女は悩んでいる様子でしたが、「ふぅ」と息を吐くと、観念して言いました。

「チグサさんがそう言うんなら、いつも通り話すわ。これでいい?」
「はい、そっちの方がきっとポジティブな思考ができると思います」
「チグサさんは言葉遣い、そのままなのね」
「これは素ですから」

 そう言うと、何がおかしかったのか、レリィさんはクスリと笑いました。
 基本的には明るい人のようで、これで前向きな性格をしていれば、マリッジブルーにはならなかったのでしょうが。

「それで、ナナリーから聞いてるっていうのは、どこまでなのかしら」
「貴族の男性と結婚する予定で、その後の生活が不安だというところまでです。具体的にどう不安なのかは聞いていませんが、男性が他の貴族に目移りすることを恐れているんですか?」
「確かに、彼に誘われてパーティに出たりすると、どうしても平民の私は浮いちゃうっていうのはあるわ。出てるオーラが違のよね」

 地味めのワンピースを纏っているせいもあるのでしょうが、レリィさん自体があまり派手ではありませんからね。

「化粧が控えめでこれだけ可愛らしいのですから、心配することは無いと思いますよ」
「……可愛い? 私が?」
「ええ、彼は言ってくれませんか? 同じ女性の私から見ても、惹かれてしまうほど可愛らしいと思うのですが」
「う……ちょ、ちょっと、そんなこと言いながら見つめられたら、さすがに恥ずかしいわ」

 この慣れていない様子を見るに、ディックという男もかなり奥手のようですね。
 勿体無い、真正面から褒めるだけで、恥じらう彼女を見れるというのに。

「全ては、レリィさんが自分自身に自信さえ持てば解決する問題ですよ」
「そう言われても……彼にも言われたこと無いもの」
「私の言葉では信用できないでしょうか。ぱっちりとした目も、ぷっくりとした唇も、柔らかな肌も。あとは、パン屋さんだからでしょうか、ほんのりとバター混じりの甘い香りがします。全てが魅力的ですよ、レリィさん」

 顔を近づけながら褒めちぎると、レリィさんは無言で口をぱくぱくさせながら、顔を真っ赤にしてしまいました。

「手のひらの汗がすごいですね、そんなに恥ずかしかったですか?」
「そ、そんなの、わざわざ手を握らなくてもわかるでしょっ!? もしかしてからかってるの?」
「からかってなどいません、全て私の本心ですよ」

 急に真面目な顔をして、彼女の目を真っ直ぐ見ながら宣言しました。
 嘘など一片もありません。
 私ははじめから、レリィさんを自分のものにしたいと思うほど魅力的に感じていたのですから。

「チグサさんみたいに綺麗な人に言われると、社交辞令にしか聞こえないわ。でも……嘘って感じでもないし」

 ようやく私の思いが伝わったのか、彼女は顔をぺたぺたと触りながら、本当に自分が言われるような人間なのか、確かめているようです。
 そこに追い打ちを書けるように、私は耳元で囁きました。

「それでも疑うのなら、私は何度でも言いますよ。レリィさん、可愛い」
「うひゃあうっ!?」

 吐息がかかるほどの距離から聞こえてきたことに驚いたのか、彼女はのけぞりながら大げさにリアクションをしてみせました。

「いきなり耳元とかやめてよぉ、やっぱりからかってるじゃない!」
「ふふふ、ごめんなさい、あまりにレリィさんの反応がいじらしかったので、今だけはふざけてしまいました」
「もー……ナナリーの友達のシスターって聞いたから大人しい人だと思ったら、全然そうじゃないのね」
「私は真剣に相談に乗ったつもりだったのですが」
「確かに、まあ、少しぐらいは自分に自信が持てたような気がするかな。きっと、チグサさんがそこまで言うんなら、私は結構可愛いってことなのよね。貴族にも負けないぐらいに」

 そもそも、貴族だからと言って外見が優れているという保証など無いのですが。
 それでも綺麗に見えるというのなら、それはおそらく、化粧やドレスにお金をかけているからなのでしょう。

「あの、ね。今日は帰ろうと思うんだけど……実はまだ、相談したいことがあるの。だから、また、会いに来ても良い?」

 よほど言いにくい内容なのか、暗い表情をしてレリィさんは言いました。
 断る理由がありません、触れ合える時間は長いに越したことは無いのですから。
 私は握った手のひらに微かに力を込めると、全力で優しい笑顔を作って答えました。

「いつでもお待ちしてます。困ったことがあったら絶対に助けますので、何でも言ってくださいね」
「ありがと。時間が出来たら、また来るから」

 そう言って手を離すと、「じゃあね」と手を振って、レリィさんは教会を出ていきました。
 私は教会の入り口が閉まり、彼女の姿が完全に見えなくなるまで見送り――それが終わると、じっと手のひらを見ながら計算を始めます。
 魅了までに必要な時間。
 貴族の男と引き離すために必要な要素。
 出される答えはただ一つ、不要なものを切り捨て、必要なものを全て自分の手中に収めること。
 最終目標から逆算し、必要日数を割り出し――私はエリスとナナリーの待つ部屋へと戻っていきました。
『今夜は一緒に過ごせそうにありません』と伝えるために。





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