異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を堕とし、国を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~
9 誘蛾灯の内側を覗いてはならない
人が最も幸福を感じる瞬間とは、人助けをしたときでも、感謝の気持ちを告げられたときでもありません。
禁忌を犯したとき、人は幸せの頂きへと至るのです。
チグサさんの手によって扉は開かれ、わたくしはついにその部屋に足を踏み入れました。
昨晩も、その前の晩も、部屋の外から声だけを聞き、傍観者として手も届かぬ外縁から音を聞くことしか許されなかった。
その発信地に、自分が居る。
ただそれだけでも打ち震えるほど嬉しいというのに、さらにわたくしは、その当事者にすらなろうとしている。
「すうぅぅ……はあぁ……」
大きく深呼吸をすると、胸に部屋に満ちた甘酸っぱい香りが満ちてゆきます。
チグサさんと、エリスさんの匂いが混じり合った、蜜のような幽香。
呼吸をするだけでこれなのですから、ベッドに顔を埋めたら、わたくしはどうなってしまうのでしょう。
部屋の真ん中で足を止め、ベッドをじっと見つめていると、わたくしの腕を抱くチグサさんが耳元で囁きます。
「ベッドがそんなに気になるんですか?」
「はい……今からわたくしがあの舞台に上がるのかと思うと……」
「どうにかなっちゃいそうなんだ、ナナリーってばやらしー」
「でも、変に我慢しているよりも、素直なナナリーさんの方が可愛いですよ」
「うんうん、私もそっちの方が好きかな」
「ありがとうございます」
ここでお礼を言うというのも妙な話ですが、言わずにはいられないほど嬉しかったのです。
誰よりも、この2人に褒められることが、この世で一番に。
しかし、いざこうして部屋に入ってみると、わたくしにそういった経験は無いわけですから、どうしていいのかわかりません。
不安げにチグサさんの方を見つめると、彼女は妖艶に言いました。
「まずはナナリーさんの好きなようにしていいですよ」
そう、言われましても。
全くわからないのでチグサさんの方を見たのですが、彼女はそれきり何も言ってはくれませんでした。
エリスさんの方をみるといじわるそうに笑っています。
ひょっとすると、これはもう、始まっているのかもしれません。
逡巡の後、わたくしは自らの意志で一歩前に進むと、二歩目、三歩目と引き寄せられるようにベッドに近づいていきます。
そして目の前まで来ると、布団の上に膝をつき、四つん這いになり、顔を布団に近づけていきます。
やがて鼻を埋めると――
「はぁ、はぁ……ん、ふうぅぅ……んすうぅぅっ……」
落ち着かない呼吸の手綱をなんとか握り、思い切り、息を吸い込んだのです。
布団に染み込んだ、チグサさんとエリスさんの匂いが一気に体を満たして、脳にまで到達して――痺れて、目の前がチカチカします。
それはまるで麻薬のようにわたくしの精神を犯し、微かに残っていた羞恥心すら消し去ってしまいました。
「すぅ、はぁ、すうぅ……んっ、はああぁぁんっ……お布団に、2人の匂いが、たくさん染み付いてますっ。これが、わたくし、これが欲しかったんですっ!」
「ふふ、ナナリーさんってばそんなに嗅ぎたかったんですか?」
「はいぃっ、抱きつかれる度に甘い匂いがして、本当は胸やお腹や足に顔を埋めてっ、嗅ぎたくて! あはぁ、ん、ふうぅっ……こんな、こんなに濃密な匂い、素敵、素敵ですうぅっ」
「あははっ、ナナリー、そんなに必死で匂い嗅いでたらまるで犬みたいだよ?」
「犬でいいですっ、犬になりますからっ、だからもっと、もっと……チグサさんとエリスさんをくださいっ!」
無様にお尻を振りながら、布団に鼻を埋めて喘ぐわたくしを見ても、2人は嘲笑ったりはしませんでした。
むしろみっともない姿を晒すほどに喜んでくださって、だったらもっと、と思うのはきっと自然なことなのです。
わたくしはころんと転がって仰向けになると、舌を突き出し、足を広げ、服従する犬のようなポーズを2人に見せつけます。
もちろん、「はっ、はっ」と獣じみた呼吸も忘れずに。
「あら、本当に犬になってしまったんですね。だったら、飼い主としてペットと戯れてあげないといけません」
チドリさんはベッドに腰掛けると、わたくしの膝に指先で触れました。
そこから太ももの内側、横腹、腋、首筋、下顎を通り過ぎ――彼女の指が描くライン、その上だけが刻み込まれるように熱を帯びました。
「へっ、へっ、へっ」
わたくしはその感触に熱中するあまり、本当に犬のように浅い息を繰り返します。
そして、チグサさんの指先はついに口元にまで到達しました。
人差し指と中指を舌の腹に当てた彼女は、何かを促すに赤い瞳でじっとわたくしを見つめました。
期待されている、この状況で、わたくしは何をするべきなのか――
今のわたくしは、身も心も完全に2人のペットになっていたのです、つまり心の底から彼女のために奉仕したいと強く強く願う狂的な病。
「へ……れるっ……へふっ、は……ん、ぺちゃ……」
チグサさんの指を舐め始めると、彼女は満足して目を細めると、わたくしの頭を撫でました。
彼女の指は、ほんの少ししょっぱくて、それがチグサさんの味だと思うと中毒のように体はそれを欲します。
本当はしゃぶりつきたいぐらいなのですが、指は絶妙な距離で離されていて、首を動かさなければ咥えることはできそうにありません。
ですが今のわたくしはペット、飼い主の許可も無しに勝手にしゃぶりついていいわけがないのです。
ああ、しかし、このままもどかしい感覚が続くのであれば、やがて我慢の限界が訪れてしまうかもしれない。
ぺちゃぺちゃと水音が響く部屋の中、わたくしは物欲しそうな表情をしてチグサさんに訴えかけました。
「何か欲しいものがあるのなら、言ってくれないとわかりませんよ」
「チグサさんは……いじわる、ですね」
「そうだよ、お姉さまはちょっといじわるなの。でもそういう所が……」
「はい、素敵です」
愛が無いわけではない。
愛があるからこそ、焦らし、弄ぶ。
それが伝わってくるからこそ、わたくしは安心してはしたない姿を晒すことができるのです。
「チグサさん、わたくしに、あなたの指を深く咥え、舐め、啜らせていただけませんか?」
わたくしの口からはっきりと言葉にすると、今までは少し口から離れていた指が、ゆっくりと口の中へと挿入されていきます。
「はっ……はああぁ……ん、ふぅ……はぷ、んちゅ……ちゅ、ぷ……」
わたくしはその指先に、肉を溶かしてしまえと言わんばかりに必死になって舌を絡めました。
たっぷりと唾液を絡めながら、自分の体液でてらついていくチグサさんの指を見ていると、わたくしの体の一部が彼女の中に入っていくようで、全身がこの上ない多幸感に包まれてゆきます。
気づけばエリスさんもベッドの上に座っていて、傍らからわたくしが不格好に白絹のような肌に触手のごとき舌を絡める姿を観察していました。
こんな、誰にも見せたことのないようなわたくしを誰かに見られているというこの状況もまた、気分を高める要素の一つなのです。
降り注ぐ視線に恍惚としながら、チグサさんが自らの意志で引き抜くまで、わたくしはその指を味わい続けたのでした。
チグサさんは透明の粘液に塗れた指先を自分の顔の前にまで持ってくると、自らの口でそれを舐め取りました。
それを見た瞬間、わたくしは思わず「ん、はあぁ……」と体を震わせてしまいました。
仕方ないではありませんか、チグサさんが、自分の意志で、わたくしの一部を体に取り込んでくださったのですから。
「お姉さまの指はそんなによかった?」
「どんな美酒よりも……はあぁ、酔ってしまいました」
「うらやましい、おすそ分けしてもらおっかな」
エリスさんはそう言うと、覆いかぶさるようにわたくしに唇を重ねました。
一瞬驚きましたが、すぐに目を閉じ、挿し込まれたエリスさんの舌に自らの舌を絡めました。
少し慣れてきたおかげか、彼女の動きに合わせる余裕も出てきて、それでわかったのです。
ただ乱暴なだけに見える彼女の口づけですが、ちゃあんとわたくしの弱い部分を探して、そこを愛でてくれているということを。
流れ込んでくる生暖かい液体と共に愛情を感じたわたくしは、穏やかな心でその蹂躙を受け止めました。
ひょっとすると、エリスさんはわたくしの口の中に残るチグサさんの残滓を探してキスをしたのかもしれませんが、途中からどうでもよくなってしまったのでしょう。
見守るチグサさんの存在すら忘れて、しばらく深い口付けを続けます。
「ぷはっ」と口を離したあとも、わたくしとエリスさんは至近距離で見つめ合い、まるで恋人のように視線を絡め合いました。
「いくら私でも、あまり蚊帳の外にされると寂しいですよ」
苦笑しながら言うチグサさんに、わたくしとエリスさんははっと体を離しました。
3人でしているのですから、あまり夢中になってしまうのも考えものですね。
「こんなヴェールで隠れていては、触れられる場所も少ないですからね、手持ち無沙汰になってしまうのも当然です」
言いながら彼女はわたくしの腰に結びつけてあった帯を外しました。
いよいよ肌同士を触れ合わせる時が来たのです。
チグサさんとエリスさんはほぼ同時に修道服のスカート部分の縁に手を伸ばすと、ゆっくりと、足に手を這わせながらめくり上げていきました。
色気のない白の下着が露わになると、わたくしの中で一気に羞恥心が膨れ上がります。
見られているという事実よりも、誰かに見られることに無頓着な地味な下着を纏っていたことが、無性に恥ずかしくなったのです。
「ナナリーさんらしいじゃないですか、純白で、清純で」
「あ……ご、ごめんなさい……今度からは、もっと気を使いますからぁ……」
「でしたら、近いうちに一緒に買いに行きましょうか。お互いに着せたい下着を選ぶんです、きっと楽しいですよ」
それは……ああ、きっと、チグサさんの言うとおり。
まるで恋人のようで、楽しいひとときになるでしょう。
ですが今は、2人の手が優しくわたくしの太ももを撫でていて、ゾクゾクとした感触で頭がいっぱいで、うまく頭がまわらないのです。
もどかしい、いっそ下着まで脱がして直接触れて欲しいのに。
しかしそんな願いも虚しく、彼女たちの手はさらに体の上へ――お腹を通り過ぎ、胸元まで行き、時折むき出しになった肌に口づけしながら、修道服を脱がしていきます。
「両手を上げて」
チグサさんの指示に従って、体を起こしながら両手をあげると、ついにわたくしは下着だけの姿になってしまいました。
続けて2人も修道服を脱ぐと、今度は素肌同士をぴたりと触れ合わせながら、ベッドのに3人で横たわります。
むき出しの肌は、ただ触れ合うだけでも、服の上から触られるのとは比べ物にならないほど敏感なのです。
なめらかな指先でおへその近くを撫でられるだけで、わたくしはお腹の筋肉を痙攣させながら、細かに喘ぎました。
ただそれだけで身を焦がすような悦楽を感じるほどなのですから、わたくしがこの後、一切抗うことができずに、2人に嬲られるのは明白なことで。
だというのにわたくしは、その時が来るのを、心待ちにしていました。
「ふあっ、あ、ああぁ……ひっ、ひうぅっ……」
チグサさんとエリスさんが、両側からわたくしの耳を舐めています。
ぴちゃぴちゃという音がダイレクトに鼓膜を震わせ、ねっとりとした湿り気のある感触が鋭敏になっている耳を滑るたびに、わたくしは腰を浮かせました。
「気持ちいいですか?」
「は、はひっ、すごい……れすっ……」
「耳も……ううん、全身弱いんだね、ナナリーは」
「チグサさん、と、エリスさん……が、ひゃあうっ! 好きな、人、だか、らぁっ」
愛の囁き、耳への愛撫、それらを続けたまま、チグサさんの手はわたくしの胸の谷間に伸び――
ぱちん、とフロントフックを外しました。
「私たちに、全部任せてくださいね」
「あぅ……は、い……好きに、して、ください」
彼女の手がゆっくりと下着を外していきます。
いよいよ、始まるのです。
わたくしはなすがまま、されるがままに身を委ね、何もかもを惜しげもなく晒しました。
後悔はありません、むしろ彼女たちに捧げられたことを誇りに思うほどです。
絶え間なく与えられる愛情の隙間に、わたくしは思いました。
ひょっとすると、自分がシスターになったのは。
あるいは、彼と出会い、駆け落ちしたのは――ひょっとすると、2人に出会うためだったのかもしれない、と。
◇◇◇
情事は夜が更けるまで続き、次のわたくしが正気に戻ったのは翌朝のことでした。
昨夜は疲れ果てて気絶するように眠りについてしまいましたので、何時に意識を手放したのかもよく覚えていません。
ただわかるのは、今の時刻はとっくに昼前だということ。
それと――わたくしと同じ布団の中に、一糸まとわぬチグサさんとエリスさんが居るということだけです。
「わたくしは……2人のものに、なってしまったのですね……」
劣情が冷めても、愛情はまだ胸に宿ったまま。
夜が明けてはじめて、あれは流された結果の一晩の幻などではなく、わたくしの心不覚に根付いた強い意志であったことを確信しました。
愛しているのです、誰より、何より、チグサさんとエリスさんのことを。
もはや教会など、街の人々など、心の底からどうだっていいのです。
2人さえいれば、いっそ教会は二度と開けずにこのまま触れ合ってさえいられればいい、他には何もいらない。
「ん……ナナリー……」
いつの間にか、チグサさんはわたくしのことを呼び捨てで呼ぶようになっていました。
距離が縮まったようで、呼ばれるたびに胸がきゅんとしてしまいます。
「おはようございます、チグサさん」
「おはよ……起きるの、早いですね」
「もう昼前ですよ」
「うん……でも、昨日は遅かったですから」
記憶が曖昧でいまいち覚えていませんが、チグサさんがそう言うということは、かなりの深夜まで行為は続いたのでしょう。
確かに、全身が気だるさに包まれていて、うまく立ち上がれそうにないほどです。
「エリス、起きてますか?」
チグサさんの呼びかけに、彼女も「うーん」と苦しそうに目をこすり、覚醒しました。
「おはよー……どうしたの、お姉さま」
「見てください、ナナリーの胸元を」
「んー?」
胸元に一体何が? と自分も確認のために視線を落とすと――そこには、見覚えのないタトゥーのようなものが刻まれていました。
赤色のそれはハート型をしていて、さらには悪魔のような羽が生えています。
全く覚えのないそれを見て、わたくしは戸惑うどころか、なぜか胸が躍ってしまいます。
「そっか、やっと下準備は終わったんだね」
「ええ、これでいつでも……ナナリーをこちら側に引き込めます」
言っている意味がわからず、戸惑うことしかできません。
そんなわたくしの胸にチグサさんはおもむろに触れると、タトゥーを慈しむように撫でました。
ただそれだけで、明らかに肌に触れただけではなく、ピリピリとした熱い感触がわたくしの体に走りました。
「ん、はぁっ、あぁぁっ、はっ、はひぃっ! こっ、これっ、なに……!?」
「これは、ナナリーが私に支配された印です。あとは血を吸うだけで、あなたは私たちと同じ半吸血鬼になる」
「吸血鬼……? まさか、チグサさんも、エリスさんも、人間ではなく……」
「うん、吸血鬼だよ。ナナリーを仲間にするために教会に来たの」
2人は、人間ではない。人外、人でなし、吸血鬼。
明かされた事実に、わたくしは驚きや怒りを覚えるどころか、納得していました。
最初の頃からそうだろうと思っていたのです。
彼女たちは――魔性だ、と。
「あまり驚かないんですね」
「普通じゃないことは、わかっていましたから」
今更もう、わたくしの想いは消えない。
このタトゥーに証明されているように、身も心も2人に捧げてしまったのですから。
いえ、むしろ――
「それに……わたくしも、同じ半吸血鬼になることができるのですよね。これから先、ずっとずっと愛していただけるのですよね?」
「それはもちろんです、人間よりもずうっと長い時間を、愛し合って過ごすことができます」
「でしたら! 人間なんて続ける意味はありません。わたくしから、人間を奪ってください。わたくしを、吸血鬼に変えてください!」
その宣言に、2人はにやりと、初めて見る吸血鬼らしい表情で笑いました。
赤い瞳に白い肌、そして鋭い牙。
ああ……わたくしももうすぐ、同じ形に、変わることができるのですね。
早く、早く、その牙を首に突き立てて、終わらせてください。
わたくしに、取り返しのつかないことをしてください!
「本当に、いいんですか?」
首に顔を近づけながら、チグサさんが問いかけました。
「構いません」
「ここは教会で、ナナリーは聖職者です。人々は聖職者というだけで無条件に信頼します、それを裏切るんですよ?」
「構いません、勝手に信頼したのはあちら側なのですから」
「裏切るということは、私たちが仲間を増やすのに、ナナリーも協力するということです。街は滅茶苦茶になってしまうかもしれない」
「いいんです、そんなことよりわたくしを、早くっ」
「時に人を殺すこともあるかもしれません。子供だろうと、老人だろうと、容赦なく。そういう生き物に、ナナリーはなりたいんですね?」
「なりたいですっ! チグサさんと一緒に居られるのなら、愛し合えるのなら、他人の命なんてどうだっていい!」
「……ふふ、よくできました」
最終試験に、無事、わたくしは合格できたようです。
「はぐっ!?」
ぷつ、と肌が裂ける感触がしました。
「は、あ、あぁ……あっ、あがっ……」
左側――心臓に近い場所の首筋にはチグサさんの牙が、そして右側にはエリスさんの牙がそれぞれ穴をうがち、流れ出す血を吸い取っていきます。
そして同時に、何かが、人間ではない何かが、わたくしの中に注ぎ込まれてくるのです。
喪失点を中心に冷たさが広がっていき、その冷たさを補うように流れ込むそれは、人の体温よりもはるかに冷たい。
入れ替わっていく、作り変えられていく、わたくしはわたくしのまま、人以外の何かに。
「あっ……あっ……あっ……」
体には、とっくに力が入りませんでした。
大量の血液を喪失したわたくしは、確実に人間としての死に近づいていたのです。
ですが恐ろしくはありません、体内に宿るチグサさんとエリスさんの欠片が、わたくしに安心感を与えてくださいます。
空になったわたくしの中を満たしていく吸血鬼の因子は、わたくしの体の形を少しずつ変えてゆきました。
きっとこれは、内臓が作り変えられていく感覚。
きっとこれは、爪先が別物になっていく感覚。
きっとこれは、肌が入れ替わっていく感覚。
きっとこれは、眼球を赤く染めていく感覚。
きっとこれは、脳に愛を植え付けていく感覚。
体中の至る場所に、愛しい2人の一部が入り込み、埋め尽くしていきました。
ここまで深く編み込まれてしまうと、もはや二度と失われることはないでしょう。
気づけば、わたくしはいつの間にか眠るように意識を失っており――次に目を覚ました瞬間。
すでに肉体も心も魂も、全てが人間ではない何かに、変わっていたのです。
見える景色も、心なしかはっきりとしています、視力が上昇したのでしょうか。
舌で歯を確認してみると、特別鋭い物が2つほどありました、これが牙なのですね。
体に満ちる力、今まではあまり運動神経が良くないわたくしでしたが、今なら何でもできるような気がしてきます。
そして隣で微笑む、わたくしの生みの親を見た時、ふいに今まで使ったことのない言葉が頭に浮かんできました。
「あるじさま」
チグサさんを見て、わたくしは自然とそう呼んでいました。
「あぁ、主さま。わたくしに、このような素晴らしい肉体を与えて頂き、ありがとうございます」
元より似非シスターだったのですから、特別神を信仰したことなどなかったのですが。
今のわたくしの主さまへの感情は、はっきりと”信仰”、”崇拝”であると言い切ることができます。
この方のためなら、わたくし、虐殺だろうと拷問だろうと何だってできてしまいそう。
「初めて出会った時から、この瞬間をずっと待ち望んでいたんです。きっとナナリーには、吸血鬼が似合うはずだ、って」
「見初めていただき光栄です」
「ナナリー、お姉さまばっかり見てないでこっちにもかまってよ。私だって血を吸ったんだからね」
「申し訳ございません、もちろんエリスさまにも感謝していますよ。わたくしにとっては、もう1人のお母様なのですから」
「んふふ、ならいいんだけど。ねえお姉さま、私のこと”エリス様”って呼ぶナナリーを見てたら、またしたくなってきたんだけど」
「どうせ今日は歓迎会で1日使うつもりでしたから、早速始めましょうか」
「さすがお姉さま、分かってるぅ!」
エリスさまはおもむろにわたくしの唇を奪いました。
昨晩、数え切れないほど重ねてきたはずなのに、今は全く違うように感じます。
より深く結びついている、だから比べ物にならないぐらい気持ちいい。
お互いに激しく舌を絡め合うキスを終えると、次は主さまがわたくしの口内をかき混ぜる。
一通り接吻を交わすと、交合は次の段階へ。
その日、教会が開かれることはなく――3人の吸血鬼の宴は、夜遅くまで続いたのでした。
◇◇◇
こうして、化物はまんまと平和な市街へと忍び込み。
聖職者という、雨宿りにはうってつけの隠れ蓑を手に入れ、善人の顔をして、人々の平穏を侵し始めたのです。
そして今日もまた、何も知らない人間が、悩みを打ち明けに教会へとやってくる。
目の前に居るわたくしたちが、あなたを幸福な奈落の底へと引きずり込む、吸血鬼であることも知らずに――
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