異世界で美少女吸血鬼になったので”魅了”で女の子を堕とし、国を滅ぼします ~洗脳と吸血に変えられていく乙女たち~
2 掃き溜めで私は最初の恋を知る
気づくと、私は蘇り、ゴミ捨て場のような場所に倒れていました。
立ち上がっただけで気づく違和感。
そう、両目が見えているのです、それに指だってある。
体に傷跡も無ければ、顔の筋肉に違和感もない。
加えて、やけに体が軽いのです、まるで私が私で無いかのように。
自分の体に起きた変化に確かめようと、鏡として使えそうな物を探してみましたが、近くにはありませんでした。
しかたないのでゴミ捨て場を出て、下水道のような場所を通り、はしごを登って外へ――
私がそこで見たものは、まるで歴史の教科書で見た欧州のスラムのような、荒んだ町並み。
雨上がりなせいか、生ゴミのような匂いが周囲に立ち込めています。
マンホールのような穴から出た私は、空から照りつける日光を本能的に”不快”だと思い日陰に入りました。
そこで水たまりを見下ろした時、私は初めて、自分の姿を見ました。
汚れては居るものの、絹のようにきめ細かく白い肌、そして赤い瞳、鋭い犬歯。
髪は黒、顔だって変わっていないし、格好だって制服のまま、なのに――私はこんなに綺麗だったっけ、そんな思考が湧き上がってきます。
それは、私が私であったなら絶対に有り得ないことでした。
どうやら、外見だけではなく、精神にも変化が及んでいるようです。
「私は……」
――日向千草。
その名前ははっきりと思い出せるし、虐げられてきた人生の記憶だってあります。
しかし体は別物。
要するに、吸血鬼を名乗った少女との会話の記憶は夢ではく、現実だった。
私と彼女は一つになり、そしてこうして生きながらえている。
半吸血鬼として。
なるほど、だから太陽を本能的に避けたのか、と納得しつつも、腑に落ちないことがあったので、私は再び影から陽の光の元へと出ていきました。
じりじりと肌を焼く感触。
しかし、”吸血鬼は日光に弱い”と言い切れるほど、痛みも無ければ傷ついても居ないではありませんか。
半分人間だからなのか、あるいは本物の吸血鬼はそこまで日光に弱くないのか。
「と言うより……そもそも、ここはどこなんでしょう」
記憶が正しければ、私は高校の屋上から飛び降りたはずなのですが。
それがどういうわけか肉片の状態でゴミ捨て場に飛ばされ、そして今は明らかに日本とは思えないスラム街に立っている。
カミラの記憶が残っていれば地名ぐらいは出てきそうなものですが、どうやらそう都合よく情報は残っていないようです。
仕方ないので周囲を見回しながら歩いていると――路地の向こう、暗闇の先に男性が3人ほど立っているのを見つけました。
さらによく見てみると、彼らは1人の少女を囲んでいるではないですか。
――殺せ。
本能がそう叫びます。
気づけば私の手から、針のように鋭く爪が伸びていて、足に力がこもっていました。
……何をしようと言うのでしょう、私の体を勝手に使って。
軽く諌めると、ふっと体から力が抜けます。
恐ろしいものですね、まるで私の体が私のものではないような感覚でした。
落ち着いた私はゆっくりと男性3人に歩み寄ると、しばしそのやり取りを観察していました。
「おい、エリスよぉ、そろそろ返事聞かせてくれねえかなあ?」
「何回も言ってんでしょ、あんたらに興味なんて無いから!」
「ライルが居るからか? あんな軟弱野郎捨てちまえって、俺らの方が経験豊富で楽しませてやれるぜぇ?」
「下半身で物事考えてるような野郎になんて、ますます興味ないっての!」
どうやら、いかにも勝ち気そうな顔をした橙色の髪の少女を、情けない男が3人で取り囲んで手篭めにしようとしているようでした。
私も似たような経験があります、この手の輩は口説くのがうまくいかないと、『素直にならないお前のせいだからな』とか身勝手に他人に責任を押し付けて、性欲のまま行動するのですよね。
ほら、今だってそう。
男の手がエリスと呼ばれた小柄な少女の胸元に伸びます。
そして、決して小さくはない乳房を服の上から揉みしだくと、すぐさま手をはたき落とされました。
顔を赤くして睨みつけるエリス、そんな彼女を下劣に笑いながら視姦する男たち。
反吐が出ますね。
……。
……おや、私らしくもない暴言、やはり吸血鬼が混ざっているからでしょうか。
ですが、それはとても正論だと思います。
私のようなゴミクズならともかくとして、彼女は生きる活力に満ち、そして想い人までいる健気な少女。
そんな彼女が、こんな下半身だけで生きているような脳が性器でできている男共に好きにされていいわけがないのですから。
穢すなら、もっと別の、何かでないと。
「あの、少しお時間頂いてもいいですか?」
「あぁ?」
声をかけると、男3人は眉にシワを寄せて、お手本のようなチンピラ顔で私を睨みつけます。
怖くともなんともありませんでした。
そしてその刹那、表情を見て話し合いは不要だと判断した私の体は、勝手に動いていたのです。
「ぐ、げぇっ!」
ちょうど私の身長は低く、彼らの肩程度しかなかったため、少し姿勢を低くして拳を突き出すだけでみぞおちにめり込み、男は1人倒れてしまいます。
掴みかかってくる残りの2人は軽くステップを踏んで避け、軽く跳ねながらかかとで後頭部をとんとひと押し。
残り1人は真正面から下半身の急所に膝を放つと、倒れ込んできた所をさらにお手伝いして、顔面から地面に倒れて頂きました。
「す、すごい……」
目の前の少女は唖然としています。
私も唖然としています。
自然に動いたとは言え、運動もできなかった私がここまで軽やかな動きをできるだなんて。
「あの、ありがとねっ」
少女は深々と頭を下げました。
誰かから頭を下げられるなんて、いつぶりでしょうか。
暴力を振るわれて私が頭を下げることなら腐るほどあったのですが、不思議な気分です。
「いえ、大したことはしていませんから」
「でも、この3人ってこのあたりじゃかなり強引で、厄介で! それを倒せるなんてすごいって、カッコイイ!」
「はあ」
「何かお礼はできないかなー」
すぐにお礼という発想が出てくるあたり、とてもいい娘なのでしょうね。
滅茶苦茶にしたくなります。
……ん。
今のは、どうやら私の中にある吸血鬼の衝動のようですね。
ですが確かに、見てみればエリスはとてもかわいらしい顔をしています。
スラム出身とは思えないほど健康的な肌色に、胸もそこそこ大きければ、性格だって良さそう。
使い物になりそうですね。
「あの、実は私……ここがどこだか、全くわからないのです。気づいたら、いつの間にかここに居て」
「えっ? なにそれ、記憶喪失とかそういうの?」
「そういうわけでは無いと思うのですが、ついさっきまで全く別の場所に居たはずなのです。なので、寝泊まりする場所もどこにもなくて……」
「なんだ、そんなことならお安い御用だよっ。あ、でもあんまり綺麗じゃないけど大丈夫かなあ」
この子はなんというか、警戒心が弱い子なのですね。
見ず知らずの人間を、ちょっと助けてあげただけで泊めてくれるだなんて。
こういう人間がもっと居たら、私のような塵以下の人間も、まともな生活を送れていたのでしょうか。
「そうだ、自己紹介がまだだったね。私の名前はエリス。年齢は15歳、たぶん同い年ぐらいだよね?」
「私は千草と言います、16歳です」
「チグサって変わった名前だね、でも可愛らしくていい名前だと思う。よろしく!」
差し出された手をおずおずと握ると、エリスは人懐こく私に微笑みました。
触れた手から伝わる体温が、やけに生々しく感じられます。
とくん、とくんと、手のひらの毛細血管の脈すら伝わってくるようでした。
思えば、こうしてまともに人と触れ合うことすら、私にとっては久しぶりな気がするのです。
この不思議な――まるで手と手がつながって、彼女から何か奪っているような、あるいは何か流し込んでいるような感覚は、それゆえに、なのでしょうか。
◇◇◇
そのまま私は彼女に連れられ、細い道を抜けて住処へと向かいました。
足場が悪く、時に死体なのか寝ているのかわからないような人間が転がっている、劣悪な環境の路地を抜け、広場へ出ると――そこには、廃材を使って作り上げた、城のような物がそびえ立っていました。
周囲には似たような建物が立ち並び、異形の町を形成しています。
奥にあるゴミの山を組み合わせて作ったのでしょうか。
素材が素材なだけに、ここにも独特の臭いが漂っていました。
「もしかして、廃棄街を見るのも初めて?」
「廃棄街、というのですか」
「そ、首都グロールの裏側。光があれば闇もあるってね。ここでは廃棄街の文字通り、捨てられた人間たちが、捨てられたゴミで生計を立ててんの」
グロールというのは、町の名前でしょうか。
いよいよここが日本だというのが怪しくなってきましたね。
だとすると、言葉が通じている理屈がわからないのですが、私の半分を構成する吸血鬼のおかげでしょうか。
便利な力もあったものです。
しかしここが海外となると、不可思議な現象もあったものですね。
つまり――私が校舎から飛び降り自殺を図った結果、何の因果か一瞬にして外国に飛ばされ、吸血鬼と1つになった、と言うわけなのですから。
自分で言っていてもわけがわからないぐらいです。
「んで、私の家がここ。見ての通りボロッボロの汚い場所だけど、こんな所でもいい?」
案内されたのは、廃材の城を2階層ほど登った場所にある、小さな部屋でした。
途中で数人の、廃棄街の住人らしき人々とすれ違ったのですが、誰も彼もが痩せこけ、汚れ、悪臭を放っていました。
この場所において、エリスは相当マシな部類なのでしょう、男が集るのもわかるというものです。
「泊めてくださるのに、そんなリクエストはできません」
私がそう言うと、エリスはきょとんとした顔をしています。
何か変なことを言ってしまったのでしょうか。
「あ、ごめんごめん。このあたりの連中はがめつい奴らばっかだからさ、チグサみたいに謙虚なのは珍しいの」
泊めてもらっている時点で謙虚だとは思わないのですが。
彼女がそう言うということは、事実なのでしょう。
立ち話もほどほどに、私は彼女に導かれて部屋の中に入りました。
そこは2畳ほどしかない狭いスペースで、正直に言って人が2人眠るには狭すぎると思うのですが、贅沢を言える立場ではありません。
部屋に入ったエリスは、懐に忍ばせて置いた血がこびりついたナイフを壁のフックにかけると、無造作に床に腰掛けました。
「適当に座って」
私は促されるままに、堅い床に足を畳んで腰掛けました。
すると、私の視線がナイフに向いていたのに気づいたのか、エリスは自分からそれについて話してくれました。
「ああ、あれが気になるの? このあたりじゃそう珍しいことじゃないよ、誰だって1人や2人は殺してる」
「私の助けは必要なかったのかもしれませんね」
「そんなことないよお、穏便に済ませてくれたじゃん。あれがなかったら、私を含めて死者が2人か3人は出てたかもね」
さらっと自分も含めるあたり、見た目は綺麗でもエリスもこの町の住人なのだと思い知らされます。
しかし――今の時代で、こんなに治安の悪い場所が存在するなんて。
にわかには信じがたいのですが、吸血鬼も含め、実際に目撃してしまった以上は信じるしかないのでしょう。
「平気で人が死ぬような場所なのに、なぜ私のような見ず知らずの人間を、部屋に入れてくれたのですか?」
「何となくだけど、いい子そうだなって思ったから。こういう時の私の勘ってよくあたるんだよ」
にっ、と歯を見せながら彼女は笑いました。
どこをどう見てそう思ったのかはわかりません。
ですが確かに、日向千草という人間は他人に危害を加えようとはしないでしょう。
むしろ、危害を加えられる側の人間でしたから。
「んー……それにしてもチグサってさ」
エリスは私に近づくと、こつんと額同士をぶつけました。
急に近づく顔に、私の心臓が思わずどくんと跳ねます。
「うわ、冷たっ! やっぱ体調悪いんじゃない? 随分と顔色が悪いように見えるけど」
「そう、でしょうか」
むしろ体調は、これ以上無いほどいいぐらいなのですが。
触れた額同士の感触が、やけに熱を持って感じられます。
ですがこれは確かに、エリスの体温が特別高いと言うより、私の体温が落ちていると考えるべきなのかもしれませんね。
彼女は確かめるように私の体の至る部分をぺたぺたと触り、その度に「冷たっ」と驚いていました。
「しかも肌スベスベだ、もったいない。廃棄街に居たらあっという間にガサガサになっちゃうよ」
「そうでしょうか、エリスの肌も綺麗だと思いますよ」
言いながら、私は彼女の手を握りました。
そうしなければならない、と本能が私に語りかけてきたからです。
意味はわかりません。
ですが――やはり、この肌と肌が触れ合う鋭い感覚は、ただ鋭敏になっただけ、というわけではないようで。
私の体の中にある何かが、触れている間だけエリスの中に流れ込んでいるのは間違いないようですね。
それが何なのか、今の私にはわかりませんが、自分の中身が他者に流れ込んでいく――そう思うだけで、ゾクゾクしてしまいます。
まるで白いキャンバスを、鮮やかな処女血色で汚しているようで。
「あの、そんなに握られると、恥ずかしいんだけど」
「ごめんなさい。でも……もう少し触れていてもいいですか? エリスの体温を感じていると、安心するんです」
「……そ、そう? そこまで言うんなら、別にいいよ」
そう言いながら小麦色の肌をさっと赤く染めるエリスは、たまらなく可愛らしくて。
思わず食らいついてしまいたい衝動に駆られます。
もちろん、私には理性があるのですぐさま襲いはしませんが――やがて、そう遠くない未来、仮に私が一方的に襲いかかっても拒まれなくなる時が来る。
そんな確信が、私にはありました。
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